第三話 警戒しつつも、いつもの日常。黒田の2
昨日と同じ昼休み。昨日と違ういつもの日常。
(はぁぁぁ……)
心で大きく、体で小さく、器用なため息を吐く。
「ねね! みさとー。花火どーするー?」
「花火って、どっちの?」
昨日もいた、クラスメイト女子AsとInの会話。
(花火ねぇ……)
東西南北を区で分けたこの地域。毎年7月が近くなると、西区と南区の花火大会の話で持ち切りだ。
どちらも電車の往復がワンコインな点も、お金のない中学生にはありがたい、ことなのだろう。
「ん~、どっちでも! 予定合う方でいいよー。パパがおこづかいくれるから、両方でもおっけー!」
「お、イイネー。アタシらもゴショウバンに預かりたいところダー」
そこに、何かのキャラの真似をしたSakと、引きずられる形でNisも合流する。
「ダーメ! オカーサンはいいけど、チヒロにはおごってあげなーいっ」
「そんなー! あたしだって、オカーサンの娘だよねー?」
「また真似してる! オカーサンは、わ・た・し・の! オカーサンなのー!」
「もぉ……、オカーサンはやめてってぇ……」
Asは時々、Inを変な愛称で呼ぶ。母でもないのに『オカーサン』と、呼び慕う。
Sakもそれに乗っかって『オカーサン』と呼びだすのだから、収拾がつかない。
疲労感たっぷりのInは、まさに育児疲れの『オカーサン』なのかもしれない。
「私の人生、コンナモンヨネー」
などと、Sakの腕にホールドされたNisがつぶやくものだから、思わず笑いそうになった。なんとも不思議なグループだ。
不思議といえば、委員長だ。
昨日の今日で『また何かされるのでは』と、警戒しているのだが、まったくの普通。
むしろ昨日の事など、何もなかったかのように振舞っている。
(今日はいつもの三人なのか)
昨日はいなかった、クラスメイト女子Harが委員長と話している。
「結は花火、どーする?」
「へっ?」
「だから、はーなーびっ!」
「あぁ……、うん。う~ん……、どうしよ?」
何か考え事をしていたのか、歯切れの悪い様子の委員長。その唇に昨日の『赤』はなく、マスクの紐も見当たらない。
(何もなかったという訳ではないのか、はたまたまったく違う考え事か……)
「ユイは今、それどころじゃないよネー?」
などと言って、昨日口笛を吹いてきたKonが、こちらに流し目を寄越す。
(情報戦は諸刃の剣。収集能力一対三では、こちらに不利か)
彼我の戦力差から、撤退を選択。キャイキャイとはしゃぐ声も、思考の外へ。
(ネットで見かける『深淵を覗くとき――』って、哲学者の言葉だっけ……)
「わっきちゃーん! 今日も一人でちゅかー?」
他人を馬鹿にする、不快な声。クラスメイト男子Hamが、Wakをからかっている。
(一人ってんなら、今の俺と、もう一人もいるだろ……)
普段サッカー部とツルんでいる『俺』ではなく、金髪で制服も気崩してアブナソウなNakでもない。
「おい! 濱田ぁー。野球すんぞー」
Hamの様子を見ていられなかったのか、Misが声をかける。
「あいあーい。今行くぅー」
(……濱田は、Mis……の声が不機嫌なの、気づいてんのか?)
クラス名簿を見る。
(Mis……み……、三島……)
(はぁ……)
心でも、体でも、小さく、ちいさくため息を吐く。
結局、一人一人の人間の情報なんて、全ては分からない。自分一人の情報だけで、精一杯だ。
昨日わかった事と、わからなかった事。
(5W1Hだっけ……。この場合は……)
昨日・教室で・委員長が・『俺』を・『なぜ』か・からかった。
いつの間にか・美術室前で・委員長が・『俺の遊びの残骸』を・(……見て?)・『どのように』(思い込んだ、から……?)
思い込んだとしたら、何を思い込んだのか。あるいは自分のコレが思い込みなのか。
ネットで散見する『厨二病』とは、今の自分を指しているのかもしれない。
バカバカしくなって、外を見る。
(曇天の迫る青空、予報に裏切られても、明日の雨は信じられる。果たしてソレは恵みか、災いか)
いよいよ『厨二病』な一人遊びに、肩を揺らして、口角が上がった。




