私がしっかりと見張っていないと
サージェス視点です。
「今度こちらで二人でお茶会をしましょう」
婚約者としての交流を深めるお茶会はここにしよう。
リーリエが賛成してくれれば、だが。
最初のうちは落ち着いた場所のほうがいいだろうとも考えたのだ。
「是非」
笑顔で頷いてくれた。
ほっとする。
さすがに断られないとは思ったが笑顔だったので嫌ではなさそうだ。
これでゆっくりと話せるだろう。
今は両家の顔合わせ中なのであまりゆっくりとは話せない。
それに座って話すほうが落ち着いて話すことができるだろう。
……さすがにグレイスも婚約者との交流のお茶会にまでは乱入してこないだろう。
それくらいの礼儀と配慮は持ち合わせているはずだ。
この先は堂々とリーリエと交流できるのだから。
むしろ積極的に交流し出すだろう。
他家にもリーリエと婚約したのは私ではなくグレイスでないのか、と揶揄されることのないように節度を保ってもらいたいところだが。
グレイスとリーリエの仲が良好だと対外的に示すのは良いことだ。
グレイスなら積極的にリーリエの足場固めのために動いてくれるだろう。
だとすると私はリーリエだけではなく、彼女の弟とも交流を持ったほうがいいかもしれない。
確か八歳離れていて今は六歳だとか。
幼くとも立派なナイトに成り得る歳だ。
姉弟仲も良好だと聞いている。
彼にもしっかりと姉を大切にすると示さなければ。
次期当主でもある弟を味方につけられれば心強い。
手を携えて両家を繁栄に導けるだろう。
やはり近いうちに弟にも挨拶しに行こう。
そんなふうに算段をつけているとリーリエが口を開いた。
「よろしければうちの庭のほうでもお茶をしませんか?」
まさかそのような提案をしてくれるとは。
婚約者として少しずつ交流を重ねてから頼もうと思っていたのに。
「よろしいのですか?」
「サージェス様がお嫌でなければ」
嫌なはずがない。
むしろこちらから頼みたいことだ。
「是非」
「わかりました」
どことなくほっとしたように見える。
やはりそういうことを提案するのは緊張するのだろう。
恐らくだがノークスは誘ったことはないのだろうと思う。
華やかなものが好きなノークスのこと、あの庭は好みではないはずだ。
婚約者であったリーリエはそのことを知っていたはずだ。
ノークスの機嫌を損ねないように気を遣っていたリーリエはだから庭でのお茶会に誘うことはなかったはずだ。
ふと思い至る。
もしかしたら私もそう思うかもしれないと思われている可能性はある。
ノークスと私は同じ高位貴族だ。
一方でユフィニー家は下位貴族になる。
いろいろなことが違ってきてしまうだけの身分差がある。
慣習だけではなく、身の回りの物の質も違うはずだ。
それに気後れしたのかもしれない。
だが大事なのはその心だと思う。
もてなすその心があればそれで十分だ。
一応告げておいたほうがいいかもしれない。
そうすれば本当はどうかなどとリーリエが悩まなくて済むだろう。
あまり重々しくするのもよくない。
それに要求のように思われたくない。
あくまでもそうしたかったという希望なのだ。
言い方に気をつけながら口を開く。
「白状しましょう」
リーリエの顔が緊張したものになる。
そこまで緊張させるようなことを言うつもりはないのだが。
少し申し訳なく思いながら続ける。
「ユフィニー家の庭でお茶が飲みたいと思っていたのです」
リーリエは目をぱちくりとさせる。
それからふわりと微笑う。
「言ってくだされば、御用意しましたのに」
きっと本当に用意してくれただろう。
だからこそあの場で図々しく頼むことはしなかった。
常識は弁えているつもりだ。
お見合いに行った先で用意されているのならともかくも初訪問時にそのような要望を図々しく告げるのは少々、品位に欠ける。
それに。
ノークスのように我を通す傲慢さを持っていると思われたくなかった。
「では婚約者になりましたのでこれからは堂々とねだることにしましょう」
負担にならないように軽く言う。
「はい」
真っ直ぐに私を見て頷いてくれたリーリエの瞳の中に私への信用が見える。
真っ直ぐな信用だ。
その信用を裏切ってはならない。
改めて心を引き締める。
それはそれとして。
別の言い方があったかもしれない。
あの言い方は、少し照れる。
視線を彷徨わせてしまった。
公の場では問題だがリーリエの前ならいいだろう。
リーリエには素直に感情を出していいと言ったのに私が表情を取り繕っていては彼女だって出しにくいだろう。
何より彼女の前では自然体でいたかった。
リーリエならそれを受け入れてくれる気がした。
それからきちんと伝えておく。
「嫌でしたら断って構いませんから」
無理強いするつもりはない。
伝えておかないと嫌でも断らないような気がする。
性格もあるのだろうが、フワル侯爵家のせいだ。
機嫌を損ねないようにかなり気を遣っていたはずだ。
フワル侯爵家はよくも悪くも高位貴族だ。
上の爵位特有の傲慢さを持っていた。
爵位が下のリーリエは家のことを思えば気を遣わざるを得ない。
それをフワル家は当然のことと思っていたはずだ。
断るという選択肢さえ最初から与えていなかっただろう。
トワイト侯爵家は、私はそんなことはしない。
嫌なら嫌だと断っていい。
理不尽なことは要求したりしない。
それを通そうとするようなことも。
むしろそういうことに慣れてほしい。
リーリエが表情を少し緩める。
「はい。無理そうならお断りさせていただきますね」
そう言ってくれてほっとする。
だが一応念押しはしておく。
「遠慮はなしですよ?」
多少の無理くらいなら断らずにやろうとしてしまうような気がする。
「はい」
じっと見てしまう。
リーリエはしっかりと見返してくる。
心配だ。
これは私が気をつけておいたほうがいいだろう。
自覚なく合わせようとしかねない。
ずっとそうやってきたのだろうから自覚を持つのは難しいだろう。
それを止めさせるのも。
それなら私のほうで気をつけるしかない。
後でグレイスにも言っておかなければ。
さすがにリーリエに無理強いすることはないだろうが、気軽にお願いくらいはするかもしれない。
ちょっとしたことではリーリエは叶えようとするだろう。
そういうことが積み重なっていけば気づかぬうちにリーリエの負担になる。
言っておけばグレイスなら気をつけるだろう。
問題はリーリエのほうだ。
どう伝えれば、と考えているとリーリエが私を真っ直ぐに見て告げた。
「大丈夫です。無理はしません」
「信じますよ?」
「はい」
リーリエはしっかりと頷いた。
彼女自身はそのつもりだろう。
だが実際にできるかはまた別の問題だ。
一抹の不安が残る。
まあ、私がしっかりと見張っていればいいだけの話だ。
読んでいただき、ありがとうございました。




