お茶会の約束それ以上のもの
リーリエ視点です。
「今度こちらで二人でお茶会をしましょう」
それは素敵な提案だった。
婚約者としての交流の一環ではあるのだろう。
その場にいつもの庭のほうではなく、こちらのサージェス様の好みの庭のほうを提案してもらえたのが嬉しい。
サージェス様がこの婚約を歓迎してくださっているように思える。
「是非」
笑顔で頷いた。
この庭でならサージェス様と穏やかな時間が過ごせそうだ。
そこで先程少し考えたことを思い出した。
思い切って誘ってみる。
「よろしければうちの庭のほうでもお茶をしませんか?」
嫌がるだろうか?
フワル侯爵令息相手には誘うことを考えることもなかった。
機嫌を損ねたくはなかったので。
それに使用人に緊張を強いるのも避けたかった。
同じ侯爵家の人間であるのに不思議とサージェス様なら大丈夫だと思える。
……使用人に緊張を強いるのには変わらないけれど。
過ごしていくうちに幾分かは使用人の緊張も和らぐだろう。
たぶん。
サージェス様がゆっくりと瞬いた。
「よろしいのですか?」
「サージェス様がお嫌でなければ」
嫌ならば断ってくれて構わなかった。
うちの庭を褒めてくれていたが、お屋敷のほうにこのような素敵な庭があるのだ。
無理に我が家の素朴な庭を愛でる必要はない。
出すお茶菓子もお口に合うかどうかわからない。
サージェス様が普段口にしているものよりもどうしても劣ってしまう。
お茶は気に入ってくださったかもしれないが、他は気に入らないかもしれない。
そのことはサージェス様もわかっていると思う。
だから嫌なら遠慮すると断ってくれて構わなかった。
水準が違うのだからそんなことで嫌な気持ちにはならない。
そう考えたのだけれどーー。
サージェス様の顔が綻んだ。
「是非」
むしろ望んでいるかのようだ。
その提案自体嫌がる可能性もあったのに。
つくづく心の広い方だ。
わたしはほっとして頷く。
「わかりました」
嫌な顔をされなくてよかった。
その時は精一杯のおもてなしをしよう。
帰ったら庭師や料理人たちにも言っておかなければ。
きっと張り切って用意してくれるだろう。
そう思ったのだけれど。
真面目な顔でサージェス様が告げる。
「白状しましょう」
その言葉に何を言われるのかと緊張した。
余程のことだろう。
真剣な顔でサージェス様の言葉を待つ。
「ユフィニー家の庭でお茶が飲みたいと思っていたのです」
思いがけない言葉に思わず目を瞬かせてしまった。
あんなに真剣な顔をしていたのに。
まさか出てきた言葉がそんなささやかな望みだなんて。
思わず口許が綻ぶ。
「言ってくだされば、御用意しましたのに」
それくらい遠慮せずに言ってくれて構わなかった。
やはり初めて訪れた場所では言いにくかったのだろうか?
そうかもしれない。
傍若無人に振る舞える者ならともかく常識を持っていれば図々しいと考えるはずだ。
高位貴族の傲慢さを持っていないサージェス様なら尚更そう考えてもおかしくはない。
これからは希望は言ってくれていいとしっかりと伝えていこう。
「では婚約者になりましたのでこれからは堂々とねだることにしましょう」
澄ました顔で軽口のように告げられる。
このようなお茶目な一面もあるとは驚きだ。
だけれど嫌ではない。
「はい」
サージェス様なら無茶なことは言わないだろう。
そんな信用があった。
普通に肯定したら照れが出てしまったようだ。
サージェス様の視線が微妙に泳いでいる。
ここで微笑ってしまうと失礼になってしまうだろうか?
さすがのサージェス様も気分を害されるかもしれない。
何とか表情を整える。
サージェス様の視線がわたしに戻ってくる。
照れ隠しではなく真面目な顔になった。
「嫌でしたら断って構いませんから」
そんなことを言ってくださる。
わたしが無理をすると思っているのかもしれない。
その辺りは何故かあまり信用されていない気がする。
やはりフワル侯爵令息とのことがあるからだろうか?
当然サージェス様はわたしとフワル侯爵令息のことは調べたはずだ。
わたしとフワル侯爵令息がどのようだったかも知っているのだろう。
正直なところフワル侯爵令息の機嫌を損ねないようにかなり気を遣っていた。
家のことはもちろんある。
だけれどそれだけではなかった。
好きだったから。
だから嫌われたくなかった。
どんなささいなことででも機嫌を損ねたくはなかった。
だから最大限、いやそれ以上にフワル侯爵令息の望みを叶えようとしていた。
どのようなことを望んでいるのか必死に読み取ろうとした。
それはわたし側だけのことではない。
フワル侯爵令息は自分が望んだことは叶えようとするようなところがあった。
高位貴族ならある意味当然のことなのかもしれない。
だから要望が通らないと機嫌を損ねることもあった。
だからといって怒鳴られたり無視されたりするわけではなかったけれど。
ただ不機嫌な空気を出されるだけで萎縮してしまった。
今こうして思い返してみるとだいぶ無理していたのだと思った。
そんなふうに思えるのはサージェス様が隣にいてくださるからだ。
サージェス様は少しも傲慢なところはない。
わたしのことをきちんと尊重してくださる。
自然と口許が綻ぶ。
「はい。無理そうならお断りさせていただきますね」
本当に無理ならきちんと断らせてもらおう。
大丈夫だ。
サージェス様にならきちんと断れる。
わたしはそう思ったのだけれど。
信用されなかったのか念を押される。
「遠慮はなしですよ?」
「はい」
サージェス様はじっとわたしを見てくる。
本当に大丈夫か心配されているようだ。
断るのが苦手だと思われているのだろうか?
それもありそうだ。
それは仕方ないことだ。
フワル侯爵令息への接し方を知っていればそういう判断にもなるだろう。
サージェス様が何か決意したような瞳をする。
だけれど口を開かない。
それを告げるつもりはないということだ。
恐らくわたしへの何かだ。
あまり我が儘を言わないようにしよう、とかそんなところだろうか。
信用されていないようだ。
サージェス様相手なら嫌なら嫌ときちんと言えると思う。
フワル侯爵令息相手だとなかなか難しいところではあったけれど。
サージェス様はそんなことくらいでは機嫌を損ねたりはしないだろうから。
もう一度告げる。
「大丈夫です。無理はしません」
「信じますよ?」
「はい」
しっかりと頷く。
これでサージェス様の心配が少しでも晴れるといいのだけれど。
読んでいただき、ありがとうございました。




