慎重に期さなければ
サージェス視点です。
引き続き真面目な話です。
それほど多く作っていないことに対して父が理由を尋ねるとユフィニー家の面々に困惑が浮かんだ。
何故そんなことを訊かれるのかわからないのだろう。
その様子にやはりと思う。
やはりユフィニー家では国産のお茶が希少品だとは気づいていなかったようだ。
自家消費だけではなく一部販売もしているのに何故?
販売先から教えられたり、市場調査をしたりしなかったのだろうか?
まさか独占するためにわざと情報を教えていない、とか?
だがユフィニー家が市場調査をしていないとは思えない。
それともそれほどの量は作っていないからこそ市場調査をしなかったのだろうか?
それは聞いてみないとわからないところだ。
「売る相手はどうやって決めている?」
父も同じように考えたようだ。
先程の子爵の問いには答えずに質問を重ねる。
「信用できる人にまず飲んでもらい、気に入ったら購入してもらっています」
そちらにはすんなりと答えが返る。
うちも一応は信用に値するとは思われているようだ。
そうでなければ前回出されなかっただろう。
リーリエ嬢のお陰、なのだろうと思う。
それはひいてはグレイスの手柄、だろうか?
……私のことも信用できる相手だと思ってくれているといいのだが。
それはこれからの私の努力次第なのだろう。
「市場には出さないのか?」
「大量生産しているわけではないので市場に流すほどはないので」
「それでもいくらでもやりようがあるだろう? 希少性を全面に押し出す、とか?」
「希少性、ですか? ですが品質にバラつきもありますし、それも承知で購入していただけるところにのみ販売しております」
希少性という言葉にぴんと来ていないようだ。
これはやはり国内で作られているものが少ないということを知らないのだろう。
それとも少数だが生産しているところがあるので気づいていないとか?
生産できるが生産していないという認識なのだろうか?
国産のお茶を実際に口にして比べてみることくらいはしていそうだが。
市場に出回っている国産のお茶はどれも高級品扱いではあるからそこには及ばないと思ったのだろうか?
……十分に考えられそうだ。
量が少ないならそれを全面に出して希少性を押し出すのは商売の一つの手だ。
だがそれをよしとしなかったのだろう。
潔いというべきか融通が利かないというべきか。
それがユフィニー家の、その領民の矜持なのだろう。
取れる量がそれほどではないことはさほど気にしていないように思われる。
一朝一夕に増やせるものではないからかもしれない。
それに従事する人手の問題でそれほど拡大できないことも考えられる。
だから稀少性というのは重視せず品質のバラつきのほうが気になっているようだ。
それはやはり、職人の領だからだろう。
ある程度の品質を保持できないなら市場に流すべきではないと思っている。
その意識の高さがユフィニー領の職人の価値を高めているのも事実だ。
信頼も、だ。
それはおいそれと裏切ることができないものだ。
「なるほど。では今後も売る方法を変えるつもりはないのか?」
「そうですね。今のところは」
「そうか」
父が考えるように口を閉じた。
ユフィニー家からは何も出ずに父の言葉を待っている。
彼らのほうには不満や不安はないのだろうか?
まずはうちのほうの懸念や疑問を聞いてからと思っているのだろうか?
それとも出方を窺っている?
うちのほうが爵位が高いので慎重になるのも無理はない。
フワル侯爵家とのこともある。
婚約の時に不利な条件で結ばれていた。
ほとんどユフィニー家側に利にない契約だ。
言い方を変えれば搾取されていた。
それにノークスも、フワル侯爵家の者たちも高位貴族につきものの傲慢さがある。
リーリエ嬢もそれに苦しめられたことがあったのだろうと推測できる。
それを家族にも言うことはなかったのではないかと思う。
リーリエ嬢はそういう性格だ。
それを察していてもどうにもできない悔しさもあったのかもしれない。
同じことを繰り返したくはないはずだ。
慎重になるのは当然だ。
室内が静寂に包まれる中で父が口を開いた。
「国産のお茶ということだけで稀少だということは伝えておく」
信用を得るためにはまずきちんとした情報開示だ。
ユフィニー家の者は皆驚いた表情をしている。
やはり知らなかったようだ。
いや執事だけは表情には出ていない。
これは知っていたというよりは表情に出さないようにしているだけのようだ。
なかなか見どころのある執事だ。
子爵の秘書も兼ねているというのも納得できる。
子爵家に仕えるならそれで十分だろう。
ただこれからのことを考えれば足りないかもしれない。
鍛えればもっと伸びるだろう。
他家の使用人なので勝手にやるわけにはいかないが。
婚約がなった後にもし望むのなら、ということになるだろう。
今は頭の片隅に置いておくだけにする。
子爵もすぐに立ち直ったのか、落ち着いた様子で告げる。
「ですが、うちのものは流通しているものに比べれば質が落ちますので」
いや、少しまだ声に動揺が見られる。
だがそれは見逃すことのできる範囲だ。
それよりもやはり飲んでみたことはあるようだ。
それで市場では売れない、あるいは買い叩かれるかもしれないと判断したようだ。
慈善事業とはいえ、それは困ると思ったのだろう。
それくらいなら全て買い取って自家消費に回したほうがいいと判断したのかもしれない。
それも一つの判断だろう。
もしかしたら生産者の心に配慮したのかもしれない。
売れなかったり買い叩かれたりしたら生産者としては気に病むだろう。
発奮する場合もあるだろうが、やる気を削ぐこともある。
自信を喪失させることも。
それを避けたかったのかもしれない。
ユフィニー家ならありそうだ。
「もちろん品質向上のための試行錯誤はしていますが、まだそこまでの成果は出ていません」
先の考えが正しかったようだ。
品質に拘るユフィニー家がその向上のための努力をしないはずがない。
研究成果が出れば一気に一級品……場合によっては特級品までいくかもしれない。
彼らが市場に流してもいいと思えるレベルとなるとそうなってもおかしくはない。
残念ながらうちの領では茶の木は育たないのでそちらのノウハウはない。
人脈を辿れば知識を持つ者に辿り着くかもしれないが、そちらは慎重に見極めなければならない。
ユフィニー家に有用な人物ならいいが、足を引っ張られては堪らない。
嘘の情報を教えたり、逆に自領で茶の木を育てている家に情報を流すことも考えられる。
最悪ユフィニー家の茶の木を全滅させたり、奪おうとする可能性まで視野に入れなければならない。
そのような者を紹介したとなればユフィニー家に申し訳が立たないうえに、我が家の沽券にも関わってくる。
我が家で持っている人材でないのであれば慎重を期さなければならない。
何よりユフィニー家が望んでいなければ進めるべきことではない。
だからこそ、うちのほうが足りないのだ。
ユフィニー家に差し出せるものがあまりにも少ない。
父はどう考えているのだろう?
父の持っている人脈は当然私とは違うし、父のほうが幅広い。
もしかしたら有用な人脈もあるかもしれない。
「そうか。残念ながらそちらに関しては貸せる手がない」
「お気になさらず」
元より期待などしていなかったのだろう。
父が訊かなければここまで話すつもりはなかったに違いない。
父が一つ頷く。
「だがもしこの先販路を拡大するなら言ってほしい。手を貸そう」
販路なら確かにうちにもある。
商会も一族の中で経営しているのだ。
だがうちの商会に卸してくれるようにとの交渉はしなかった。
父は今は子爵家の意向を尊重することにしたようだ。
代わりに販路拡大の際には手を貸す約束をした。
親切心だけではないはずだ。
それだけで父は動かない。
父の琴線の何かに触れたか打算が働いたかだろう。
「ありがとう、ございます」
子爵は意図を図りかねたのか慎重な返答だ。
「勿論、買い叩くような真似はしない」
子爵は頷くに留めた。
勿論その懸念もあったはずだ。
それを表に出すわけにはいかない。
疑っていたとなればこの先の信用関係に関わる恐れがある。
最悪不興を買いかねないとなれば反応すら慎重にならざるを得ない。
それが行きすぎてのフワル家との契約だったのかもしれない。
だが正しくもある。
フワル家なら間違いなくその通りの反応をするだろう。
父が続ける。
「お茶の話だけではなくーー技術者のほうもだ。搾取するような真似はしない」
子爵がはっとした顔になった。
すぐに顔つきが変わる。
父の言いたいことがわかったのだろう。
話し合いは次の段階へと進むようだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




