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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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見送りと話し合い

リーリエ視点です。

少し長めです。

「それではよい返事を待っているよ」

「道中お気をつけて。本日はありがとうございました」


父は明言を避けた。

言質を取られないようにしたのだろう。


その辺りは基本的なことだ。

後々不利な事柄が発覚した時に言葉で承諾したことを盾に契約を迫られないようにするためのもの。


侯爵は一瞬だけ苦笑いをした、ように見えた。

気のせいかもしれない。


トワイト家一行が馬車に乗り込む。

サージェス様は馬車に乗り込む際に少しだけ微笑みかけてくれた。

わたしもそっと微笑み返す。

たぶん誰も気づかなかっただろう。


馬車の扉が閉まり、踏み台を片した御者がわたしたちに一礼して御者席に乗り込む。

馬車がゆっくりと動き出す。


並んでトワイト家の馬車を見送る。

馬車が見えなくなるまで見送り、屋敷の中に入った。


そのまま両親と父の執務室に向かった。

弟に話す前に今日のことを話し合う必要があった。


弟は賢い子だ。

すぐにここに突撃してきたりはしないはずだ。

わたしたちが会いに行くまで待っているだろう。


両親が並んで座った。

わたしは両親の対面のソファに座る。

部屋は人払いがされており、わたしたち三人しかいない。


「私としてはこの話、受けてもいいと思う。だけど、リーリエの気持ちが第一だ。リーリエはどうしたい?」


父はまずわたしの気持ちを訊いてくれた。

家の利を優先してもいいのに。

言葉を(たが)えずにわたしの気持ちを優先してくれる。


本当に愛されていると思う。

その気持ちが嬉しくも有り難い。


それにサージェス様の気持ちを聞いておいてよかった。

サージェス様はどう思っているのだろう、とか、迷惑ではないか、と悩まなくて済む。


もう一度サージェス様とのやりとりを頭の中で確認する。

不安に思うようなことは何もなかったと思う。

大丈夫だ。


だから両親に是、と言おうとして思い出した。

一つだけ両親に伝えておかなければならないことがあった。

よくわからないが伝えておいたほうがいいと思ったのだった。


そういえば、とわたしは口にする。


「……トワイト侯爵令息には何か懸念があるようだったわ」


父がおや、という顔をする。


「名前呼びは許可されなかったのかい?」


引っ掛かったのはそこなの?

思いがけないことに驚き、目を(またた)いてから言う。


「あの方は紳士なだけよ。婚約もまだなのに名前呼びを許可すればあらぬ噂になるかもしれないと配慮されたのだと思う」

「そうか。リーリエのサージェス殿の評価はそういうものなんだね」

「どういうこと?」

「いや、第一印象は大切なことだからね。リーリエから見てサージェス殿がどのような人物かがわかってよかった」


少し、気になった。


「お父様はあまりよくない印象なの?」


父が驚いた顔になる。

あら、違ったかしら? そのような言い方に思えたのだけれど。


「ん? ああ、変な言い方をしてしまったね」

「そうね。誤解するような言い方をしていたわよ」


母の指摘に父は眉尻を下げた。


「すまない、リーリエ。その意図は全くなかった」

「いえ。わたしも、深読みしたのだと思うわ」

「いいえ、リーリエは悪くないわ」


母がきっぱりと言ってくれる。


「私もあら、と勘違いしたもの」


父の眉が下がった。


「それは、完全に私の言い方が悪かったよ。すまない」

「いいえ、大丈夫よ」


父がほっとした顔を見せた。


「話を戻しましょう。リーリエ、どういうことかしら? トワイト侯爵令息はどのようなことに懸念を抱いていたの?」

ユフィニー家(うち)とトワイト家で認識の誤差があるようなことをおっしゃっていたわ」

「それはどのようなことで、だったのかしら?」


母の言葉にあの時どのような話をしていたか記憶を辿る。


「確か、お茶の話をしていたと思うわ」

「お茶って今日お出ししたお茶のことかしら?」

「ええ」

「うちの領で作ったもの、だね。やはりお口に合わなかったのか」

「いいえ。どちらかというとお気に召したみたい」


父も母も困惑した顔になる。

わたしもたぶん同じ顔をしていると思う。


「そういえば侯爵夫妻も褒めてくれていたな」

「お世辞だとは思うのだけれど……」


母の語尾が揺れる。

サージェス様の様子も加味(かみ)すれば、お世辞、ではないかもしれない。

それに両親も思い至ったようだ。


「リーリエ、他に何か言っていなかったかしら?」


わたしはもう一度サージェス様とのやりとりを思い出してみた。

確かに他にも言っていたことがあった。


「言っていたわ。トワイト家のほうが足りないくらい、だと」

「どういうことかしら?」

「わからないわ。うちのほうが足りないと思うのだけれど」


母と揃って首を傾げる。

父は難しい顔で考えている。

そして母とわたしの顔をゆっくりと見て、告げた。


「我々では気づいていない価値を見つけられた、ということかな?」

「そういうことになるでしょうね」


父の言葉で母も気づいたようだ。

父も母も厳しい顔をしている。


「まさか、我が家に無理難題を仕掛けるか、搾取するつもりだろうか?」

「考えられなくもないわね」


フワル家のこともある。

トワイト家はフワル家と同じ侯爵位の家だ。

警戒心が働くのも無理はない。

父の視線がわたしに向いた。


「リーリエはどう思う?」

「少なくともトワイト侯爵令息はうちに不利益を押しつけようとはなさらないと思うわ」

「どうしてそう思うんだい?」

「グレイス様からトワイト侯爵令息の人柄を聞いていたの。それから……今日お会いして誠実な方だと思ったの」


さすがに以前から知っている方だとは言えない。

フワル侯爵令息との婚約解消のために動いてくれたなどとは絶対に言えないことだ。


両親は厳しい顔のままだ。

説得力が足りないと、さらに言葉を足した。


「もしそのつもりなら、トワイト侯爵家のほうが足りない、だなんて言わないのではないかしら?」

「確かにリーリエの言う通りね」


母は同意してくれた。

父はどうだろう?

母と二人で父に視線を向ける。


父は厳しい顔をしていたが、わたしを見てふっと表情を緩めた。


「わかった。トワイト家を信じてみよう」


ほっとする。

根拠もないのにトワイト家への不信感を持たせるわけにはいかない。


「それで、リーリエはどうしたい?」


父に訊かれて驚く。

ここまで話し合ってもなおわたしの意志を尊重してくれる。


「わたしは、受けてもいいと思います」

「そうか、わかった。では前向きに検討する、と伝えることにしよう」


それはほとんど受けるつもりではあるけれど何か懸念がある時の返事の仕方だ。

母も頷く。


「ええ、それがいいわね」


信じてくれたのではなかったのだろうか?

やっぱり不信感があるのだろうか?


疑問が顔に出てしまっていたのか、父が苦笑する。


「念の為、聞かないとね」

「ええ、お互いのために不安や懸念は先に解消しておいたほうがいいわ」

「それは、そうね」


婚約した後だと何かと揉めることになりかねない。

それは避けるのが賢明だ。


相手は格上の侯爵家だ。

婚約を結んだ後で揉めると断然こちらが不利になる。


それなら婚約を結ぶ前に疑問や懸念を解消するほうがいい。

折り合わなかったら婚約を結ばないほうがこちらにとっても傷が少なくて済む。

婚約とは契約なのだから。

結んだ後だと契約を盾に取られたり、契約違反を申し立てられて違約金を取られたりすることだってあり得る。


さすがにサージェス様はそのようなことはなさらないだろう。

だけれどトワイト侯爵夫妻はわからない。

慎重さは必要だった。


「もう一度話し合うことになるかもしれないから、それは頭に置いておいておくれ」

「わかったわ」

「もし何か思い出したりしたら言ってちょうだい」

「ええ」


母がふわりと微笑む。

それだけで空気が緩んだ。


「エルクも呼んでみんなでお茶にしましょう」


エルクは弟の名だ。


「それなら談話室のほうに移動して呼ぼう」

「そうね、それがいいわ」

「エルクはきっと待ちくたびれているわね」

「ああ、そうかもしれないね」


三人で立ち上がる。

和やかに談笑しながら部屋を出た。

読んでいただき、ありがとうございました。

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