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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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81/85

色々言いたいことはあるが

サージェス視点です。

応接室に戻ると双方の両親が微笑んで迎えた。

和やかな雰囲気だ。

いい話し合いができたようだ。


「ゆっくり話せたようだな」


父が微笑んで訊いてくる。


「はい。とても有意義な時間でした」


本当に必要な時間だったと思う。

そんな時間を与えてくれたことに感謝している。


「つい時間を忘れて話し込んでしまいました」


隣でリーリエ嬢も頷いている。

時間を忘れたのは彼女も同じだ。

侍女の合図があるまで気づいていなかったようだから確かだろう。


「そうか。それはよかった」


父の言葉は本心のように思える。

心配、も、していたのだろう。


その心配は子爵夫妻も同じだろう。

いや彼らのほうがより心配していたことだろう。


そっとリーリエ嬢と子爵夫妻を窺う。

リーリエ嬢が子爵夫妻に穏やかな微笑みを向ける。

それに子爵夫妻もほっとした様子を見せた。

声を伴わないやりとりにも人柄がにじみ出ている。


ユフィニー家側が和やかにやりとりしているのをそっと確かめてほっとする。

うちの家族とは大違いだ。


両親はきちんと話せたのか心配と好奇心を視線に込めて訊いてきている。

当然今は答えられない。

それは両親にもわかっているのだろう。

それでも好奇心が抑えられなかったようだ。


これは帰ってから根掘り葉掘り訊かれそうだ。

グレイスも加わりそうだな。

考えると少し憂鬱になる。

三人に寄ってたかられると逃げられない。


溜め息をつきたいのを悟られないようにしてリーリエ嬢を席までエスコートする。

リーリエ嬢が座るのを待ってから父の隣に戻って座った。


私とリーリエ嬢の前にお茶が饗される。

ティーカップを手に取り、香りを楽しんでから口をつけた。


先程のお茶と少しだけ味が違う。

作り手が違うのか、品質が安定しないのか。

あるいは両方か。


これは訊いてみないとわからない。

だが訊くのは今ではない。

非難と取られるのは避けたかった。


それにしても。

渇いた喉に優しい。

意外とこういうほうが有り難かったりする。

それをわかってやっていたら凄いな、と思う。

そこまでの意図はなさそうだが。


静かにティーカップを置く。

それから私は子爵に視線を向けた。


「庭も素敵でした」


まずは無難に庭の話題にする。

お茶の件は慎重にしたほうがいいだろう。

両親がどのように話しているのか、あるいは話していないのかわからないからだ。


下手なことを言って両親の機嫌を損ねるのは不本意だ。

後でちくちく言われるのは御免(こうむ)りたい。


子爵が微苦笑して口を開く。


「平凡な庭でしょう?」


謙遜なのだろうか?

それとも本気でそう考えているのだろうか?


……本気のような気がする。

ユフィニー家は少し自分たちのことを卑下しすぎではないだろうか?


その辺りもおいおい話し合わなければならないだろう。

卑下する必要など全くないのだ。


軽く微笑(わら)って告げる。


「いえ。心落ち着くよい庭でした」


一瞬だけ目を丸くしたがすぐに子爵は穏やかな微笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」


これはお世辞に取られたな。

リーリエ嬢と反応が同じだ。

だからこそわかりやすい。


今のは私の本音だとわかってもらわなくては。

いずれあの庭でゆっくりとお茶を楽しみたい私としてはその辺りは誤解されたくはない。

変に誤解されて庭が作り替えられてしまうのは避けたい。

うちの庭のようなものになってしまったらがっかりする。


私は落ち着いた庭のほうが好みなのだ。

対外的にあの華やかな庭が必要なのも勿論わかっているが。


ここは今打診しておくべきか?

そうすれば本気だとわかってくれるだろう。

だがさすがに図々しい気がする。


子爵夫妻やリーリエ嬢に傲慢だとは思われたくない。

できるだけ、いい印象を残したい。


ちらりと父が私を見て微笑(わら)う。


「どうやら息子はこちらの庭が気に入ったようですね」


どういう意図を持った発言だろうか?

援護してくれるつもりなのか、何か他に目的があるのか。


子爵が口許に笑みを刻んだ。


「それは光栄です」


無難な答えが返された。

当然だろう。

どのような意図を持った発言なのか、子爵も図りかねているのだろう。

だから無難に返すしかなかった。


「息子はお世辞など言えないのですよ」


何を言い出すのだろう?

次いで母も頬に手を当てて話に入ってくる。


「本当に困ったものよね。貴族にとっては武器にもなるし、円滑な人間関係に必要なものだというのに。この子ったらちっとも身につけようとしないのですもの」


……二人は何がしたいのか? 私を貶めたいのだろうか?


いや、さすがにこの場でそのようなことはしないだろう。

私の評価が下がれば、この婚約もまとまらなくなるかもしれない。

それは両親共にわかっているはずだ。

そしてそれは避けたいはず。


ふと気づく。

リーリエ嬢の私たちを見る目は温かい。

両親の言葉を良いほうに取ったのだろう。

つまり援護射撃だ。

……そういうことにしておこう。


子爵が微笑する。


「気に入っていただけたなら嬉しいです。庭師にも伝えておきましょう」

「ええ、是非」


そしてそのまま是非維持してもらいたい。


読んでいただき、ありがとうございました。

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