やりとりから見えたトワイト侯爵家の家族関係
リーリエ視点です。
応接室に戻ったわたしたちを双方の両親が微笑んで出迎える。
「ゆっくり話せたようだな」
侯爵が微笑んで言う。
「はい。とても有意義な時間でした」
サージェス様が穏やかな顔で応じた。
「つい時間を忘れて話し込んでしまいました」
サージェス様の言葉にわたしも頷いた。
侍女たちに合図されるまで長く話し込んでいたことに気づかなかった。
だから嘘は言っていない。
「そうか。それはよかった」
侯爵の言葉に安堵の響きがあったような気がするのは気のせいだろうか?
ああ、でも心配していたのだとしたら、話に夢中になっていたと聞いて安心するかもしれない。
心配していたのはうちの両親も同じだろう。
両親はわたしに視線を向けてきたので微笑んでおいた。
穏やかに過ごせたと気づいた両親はほっとしたようだ。
伝わってよかった。
両親も穏やかな顔をしているので無理難題を言われたりはしなかったようだ。
よかった。
グレイス様とサージェス様のご両親だからそのようなことはなさらないとは思うけれど、その人となりは知らないのでやはり心配ではあった。
悪い評判は聞かないが、どのような人柄かを知るほどには近くなかった。
フワル家もそれほど親しくしていたわけではなかったようだったし、交流はなかった。
思えばグレイス様からもサージェス様からもご両親の人となりを聞いたことはなかった。
あとで両親にトワイト侯爵夫妻はどんな方々か訊いてみよう。
サージェス様は両親の隣までエスコートしてくださった。
「ありがとうございます」
サージェス様は少し微笑んで侯爵の隣に戻って座った。
わたしたちの前にお茶が饗された。
サージェス様が手を伸ばし、口をつける。
私もティーカップを持ち上げてお茶を飲む。
一口飲んだことによって喉の渇きを自覚した。
だからと言ってごくごくと飲むわけにはいかない。
もう一口飲んでティーカップを置く。
サージェス様はまだお茶を楽しんでいるようだ。
その口許が少しだけ綻んでいる。
気に入ってくれたならよかった。
ゆっくりとサージェス様がティーカップを置いた。
その視線が父に向く。
サージェス様が父に話しかけた。
「庭も素敵でした」
庭の散策に出ていたのでサージェス様がそつなく庭を褒める。
一瞬お茶を話題にするのかと思ったが違ったようだ。
「平凡な庭でしょう?」
父が微笑ってサージェス様に言う。
サージェス様は微笑ってそれを否定した。
「いえ。心落ち着くよい庭でした」
思ってもいない返しをされて父の目が一瞬だけ丸くなる。
あれは本気だ。
本気で言っていたので本気で驚いている。
父の気持ちはわかる。
わたしも同じだったからだ。
あんなに洗練された庭を持つトワイト家のサージェス様がうちのような素朴な庭を素敵に思うはずがない。
あるとしたら見慣れない物珍しさからだろう。
それしか考えられない。
「ありがとうございます」
余計なことは言わずに父は礼を言っている。
それがもっとも無難な返しだ。
下手なことは言えない。
侯爵がちらりとサージェス様を見て微笑った。
「どうやら息子はこちらの庭が気に入ったようですね」
あら、本当に気に入ってくださったのだろうか?
どうやら侯爵はわたしたちがお世辞だと思ったのを敏感に感じ取ったようだ。
サージェス様のために口添えしたのだろう。
父が微笑を口許に貼りつける。
「それは光栄です」
父は無難な返しをした。
父は何か他に意図があると思ったのだろうか?
それともやはりお世辞だと取ったのだろうか?
とにかく慎重にした結果かもしれない。
侯爵がちらりとサージェス様を見た。
「息子はお世辞など言えないのですよ」
眉を下げていかにも困っているという顔だ。
侯爵夫人も頬に手を困ったように言う。
「本当に困ったものよね。貴族にとっては武器にもなるし、円滑な人間関係に必要なものだというのに。この子ったらちっとも身につけようとしないのですもの」
だからお世辞ではないと言っているようだ。
お二人ともサージェス様のことを考えての発言だろう。
たぶん、伝わっていないと思ったのだろう。
フワル侯爵夫妻はこのようなことはなさらない。
伝わらないことは息子の力量不足として手助けなどしない。
トワイト家は違うようだ。
ただ力量不足と突き放さない方々でよかったと思う。
グレイス様やサージェス様の優しさはきっとこのご両親の優しさを継いでいるのだろう。
父が微笑する。どことなく嬉しそうだ。
父もそれに気づいたのだと思う。
「気に入っていただけたなら嬉しいです。庭師にも伝えておきましょう」
「ええ、是非」
わたしからももちろん先程庭でサージェス様が言ってくださった言葉を告げるつもりだ。
きっと喜ぶだろう。
読んでいただき、ありがとうございました。




