お互いを尊重して歩み寄っていけたら
サージェス視点です
アルノーとユフィニー家の侍女がそろそろ時間だと合図している。
思ったより話し込んでいたようだ。
彼らの合図にリーリエ嬢も気づいたようだ。
「戻りましょうか」
「はい」
頷いた後で、これだけは、というようにリーリエ嬢が言った。
「お話しできてよかったです」
それは私も同じだった。
ここでリーリエ嬢がどう思っているのかを知ることができてよかった。
できるだけの擦り合わせもできたはずだ。
同じ気持ちだったことが嬉しくて自然に微笑みが浮かぶ。
「私もです。貴女の意見が聞けてよかったです」
実際どう思っているのか、聞いてみないとわからなかった。
離れていてもお互いの考えがわかるほど私たちは親しくはない。
だからこのような時間を持てたことが有り難い。
実際にどう思ったのか知りたいと思っていたところだった。
父がすぐに婚約の申し込みをしたのも申し訳なく思っていた。
そのことを謝罪したいとずっと思っていた。
リーリエ嬢は気にしていなかったようだが。
それも含めて今のリーリエ嬢の気持ちを知ることができてよかった。
「行きましょうか」
「はい」
リーリエ嬢をエスコートしたまま屋敷のほうへと歩き出す。
アルノーとユフィニー家の侍女が傍に寄り、後に続く。
リーリエ嬢が少し頬を染めた。
何を思ったのだろうか?
リーリエ嬢がそっと見上げてきた。
軽く首を傾げる。
「どうしましたか?」
何か言いたいことでもあるのだろうか?
それなら言ってくれて構わない。
むしろ何かあるのなら聞いておきたい。
少し考えた様子だったリーリエ嬢だったが、教えてくれるようだ。
「侍女たちが微笑ましそうに見守っていたみたいで、少し、気恥ずかしいです……」
本当に恥ずかしそうだ。
思いがけない言葉に私は軽く目を見開いた。
使用人の視線など考えたこともなかった。
だから侍女たちの視線など気にしていなかった。
リーリエ嬢はどうやら彼女たちの視線を気にしてしまうようだ。
こればかりは育ちの違いとしか言いようがない。
この先は少し配慮がいるだろう。
何もかもを自分たちに合わせろなどと言うつもりはない。
お互いを尊重して歩み寄っていけたら、と思う。
「そうでしたか。私は人の視線に鈍感なので、貴女一人に恥ずかしい気持ちを味わわせてしまいましたね」
配慮が足りなかった気持ちも込めてそう告げる。
リーリエ嬢の瞳が揺れた。
ノークスやフワル家で使用人の視線など気にするな、とでも言われていたのだろう。
高位貴族の傲慢さで自分たちの価値観を配慮せずに押しつけたのだと簡単に想像ができる。
だから私の反応を気にしたのだろう。
同じ高位貴族だから、同じように考えているのだろうか、と。
そう考えても不思議ではない。
「いえ。わたしが敏感すぎたのかもしれません」
まさかそんなふうに返されるとは。
私にだけ責任を押しつけるのをよしとしなかったのだろう。
何となくリーリエ嬢らしいな、と思う。
彼女は本来、一人で立てる人なのだろうと思う。
ただ一歩後ろに下がることを求められ、それを実践していたのだろう。
それを自覚してはいなさそうだが。
必要があればおいおいさりげなく指摘すればいいだろう。
自立性を活かすならそちらもサポートすることは厭わない。
そっと窺うようにリーリエ嬢が私を見上げる。
私が気に障っていないか、気にしているようだ。
少しでも安心してもらおうと微笑いかける。
そして折衷案を口にする。
「では、お互い様、ということにしましょう」
「そうですね」
どことなくほっとしているように見える。
彼女の意に添えたようだ。
こうやって少しずつお互いに歩み寄っていけたらいい。
読んでいただき、ありがとうございました。




