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密やかな決意

リーリエ視点

何も言われなくて、わたしはそっと彼の顔を見る。

木に身体を預けている彼の横顔しかわたしには見えない。

彼は何か考え込んでいるようだ。

視線は下を向き、どこも見てはいない。


もじりと借りたハンカチを握る。

彼のお陰ですっかりと落ち着いた。

……心はまだ痛いけど。

それは帰ってから思いっきり泣けばいい。

泣くだけ泣いて、想いは封印してしまえばいい。


現実は変わらない。

ノークス様に好かれていようとただの都合のいい相手だと思われていようが、彼のもとに嫁ぐのは変わらない。

これは家同士の契約なのだから。

そこに個人の感情は必要ない。


両親が仲が良く、お互いに想い合っている姿をずっと見て育ってきたから、わたしもそうなりたいと思っていたから、つらいけど。

でも、恋情はなくても、夫婦としては寄り添っていけるかもしれない。

愛されないと嫌だ、なんて我が(まま)は言えない。

それにこの先、恋が芽生えないとは限らない。

……可能性はかなり低い気がするけど。


今だって本当は心はじくじくと痛む。

本当に好きだったから、その恋心が打ち砕かれても、その心が欲しいと胸の奥底で泣いている自分がいる。


でもそれは封印しなければならないもの。

この先には必要のないものだ。

割り切らなければならない。

そうでないと、この先、つらくて、悲しくて、どうしようもなくなってしまうだろうから。


それに、ノークス様にはきっと、わたしの恋心など邪魔なだけだ。

政略結婚に愛だの恋だの持ち出すのは間違えているとおっしゃっていたから。

ノークス様が求めているのは将来侯爵夫人として立てる女性だ。

浮わついた気持ちを持っていられるのは迷惑なのだろう。


ノークス様に見限られても困る。

家との繋がりに問題が起きてしまう。

侯爵家に睨まれた子爵家などあっという間に家が傾いてしまう。

領民を飢えさせるわけにはいかない。


わたしさえ、我慢すればいい。

別にひどいことをされているわけではないのだ。

本当にごく一般的な政略結婚になるだけだ。


わたしの、夢見た結婚とは違うだけだ。

わたしが、夢を見すぎていただけなのだ。


これからは家と領民のためにこの身を捧げよう。

それが今まで育ててくれた彼らへの恩返しだ。


だから。

この方は「助けてあげましょうか」と言ってくれたけど。


そっと観察する。

着ているものも上等だし、洗練された身のこなしは高位貴族で間違いないだろう。


この方がどこの誰かはわからない。

だけど高位貴族なら尚更フワル家と関わりがないということはないだろう。

この方がどこの家の方かわからないので、この方の家がフワル家とどういう関係かがわからないのだ。


本当は警戒しなければならないのだろう。

でも。

手の中にあるハンカチを見る。


この方はわたしがノークス様の婚約者だと知ってなお手を差し出してくれたのだ。

打算、ではないはずだ。

そんな様子は感じられなかった。

ただ、わたしを案じてくれる気持ちだけが伝わってきた。

ノークス様の気持ちを見抜けなかったわたしが言えることではないかもしれないけど。


何の利もないのに手を差し出してくれた。

優しい人だ。

「助けて」と言えば助けようとしてくれるかもしれない。

自身の迷惑も顧みずに手を貸そうとするかもしれない。


きゅっとハンカチを握る。

だからこれ以上、この方に甘えては駄目だ。


読んでいただき、ありがとうございました。

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