ここはお見合いの場なのだが
サージェス視点です。
応接間へと案内されてトワイト家、ユフィニー家で対面に座る。
私の向かいが当然リーリエ嬢だ。
そっとリーリエ嬢を観察する。
思ったよりも顔色は悪くない。
今は緊張のせいか少し表情が硬いがそれも仕方ないことだろう。
ノークスのことは吹っ切れたのだろうか?
……いや、さすがにこの短期間では無理か。
泣き暮らしている様子はなさそうでほっとする。
少しは気持ちを前に向けられているならいいのだが。
まだ気持ちの整理がついていないだろうこの時期にお見合いとなってしまって申し訳なくも思う。
ただユフィニー家には釣書がいくつも送られていると聞いている。
遅かれ早かれ見合いすることにはなっただろうとは思う。
それならば事情を知っている私でよかったとせめて思ってくれたら有り難いのだが。
子爵に勧められて出されたお茶に口をつけた。
口に含んだお茶はあまり渋みはなくすっきりとしていてほんの少し甘味がある。
初めて飲むものだが飲みやすくて好みだ。
どこのものだろうかと思ったら何とユフィニー領で作られているという。
ユフィニー家が茶の栽培もしているとは知らなかった。
我が国ではハーブティーや薬草茶は自国でも作っているがお茶の木を育ててお茶を作っているのはかなり珍しい。
気候が合わないのかお茶の木を育てることも難しい。
一部の領地で栽培されているだけだ。
だからお茶はもっぱら輸入している。
恐らくユフィニー領でお茶の木が育てられていることは知られていない。
父も知らなかったくらいだ。
当然私も知らなかった。
父がいろいろと訊いている。
母も止めない。
ということは母にも興味のある話なのだ。
そうでなければさりげなく軌道修正していたはずだ。
見合いという雰囲気では既にない。
まさか初手からこんなふうになるとは思ってもいなかった。
心の中でそっと溜め息をつく。
見ればリーリエ嬢が困惑している。
そろそろ父を止めなくては。
「ほぅ」
今にも身を乗り出し、商談に持ち込もうとしそうだ。
父は今この場がどういう場なのか忘れているのではないだろうか?
「父上」
呼びかけると我に返ったようだ。
「ああ、失礼」
父が軽く微笑う。
熱くなったのを誤魔化すためだろう。
だがかなり本気なのか子爵を見据えて告げる。
「この話は後日また改めて」
子爵は動揺している。
状況がよく飲み込めていないのだろう。
無理もない。
本来ならこの場は見合いの場なのだ。
そこでいきなり商談めいた話になるなど普通は考えられない。
父だって普段ならこんなことはしない。
これは余程魅力的だと映ったのだろう。
それならば父は婚約をそのまま推し進めるだろう。
リーリエ嬢の意志を尊重してほしいと伝えておいたが、こうなってしまうと無理だろう。
私はリーリエ嬢が婚約者になってくれるのはいいが、彼女はどうだろう?
父が推し進める前に訊いてみたい。
二人で話す時間はあるだろうか?
できればそんな時間をもらえたら有り難い。
とりあえず今はユフィニー子爵夫妻への印象をよくしなければ。
読んでいただき、ありがとうございました。
思わぬ方向に話が進みました。
私にも予想外でした。




