お見合い
リーリエ視点です。
応接間へと皆で移動した。
父が席を勧め、両家で対面に座る。
わたしの対面がサージェス様だ。
緊張した様子の侍女がお茶をそれそれの前に置いた。そのまま壁際に控える。
「お口に合うといいのですが」
「いただきましょう」
トワイト家の皆様がティーカップに口をつけた。
両親と一緒にわたしもティーカップを持ち上げ、お茶を飲んだ。
トワイト侯爵家で頂く紅茶ほどの馥郁さはないけれど口の中で柔らかく広がる。
お客様が来た時にしか使わない上等な茶葉だ。
「ほぅ、これは悪くないな」
侯爵が感嘆の声を上げた。
隣で侯爵夫人も軽く目を丸くしている。
「あら飲みやすいわね」
「何とも優しい味がします」
「ありがとうございます」
ほっとした父は口を滑らせた。
「うちの領で育てているものでして、お口に合ったようでよかったです」
わざわざうちの領のものだと伝えなくていいのに。
うちの領は特段有名なわけではない。
農家の拘りが詰まってはいるがそれほどの量ではないので少量だけ出荷して残りは自領内で消費されているのだ。
上等のものだけ客人に出している。
今日はお見合いなので自領のものをこっそりとお出ししようと話していたのだ。
後で告げるとしても今ではないと思う。
「初耳だな」
「少量しか作っていませんので。市場には出回っていないのです」
「ほう。では、自領のみでの消費ということかね?」
「いえ、付き合いのある家のいくつかと取引はあります」
なるほどと侯爵が頷く。
「ちなみにフワル家は知っているのかい?」
「あ、いえ。そういえば話したことはなかったですね」
フワル侯爵夫妻は一度もユフィニー家の屋敷に来たことはない。
フワル侯爵令息には好みの紅茶をお出ししていた。
特に何も言われたことはなかったけれど、フワル侯爵令息は好みの紅茶でなかった場合、二口目は口をつけなかった。
それならば最初からフワル侯爵令息の好みの紅茶を出しておいたほうがいい。
だから単純に示す機会がなかった。
「ほぅ?」
どうやら侯爵の興味を引いたようだけれど、どこにそれがあったのだろう?
自領で採れた中では上等なものだけれど、流通している高級茶に比べればやはり味や香りで劣ってしまう。
侯爵が興味を示すほどのものではないと思うのだけれど。
わたしの困惑に気づいたのかサージェス様が侯爵を止めるように呼んだ。
「父上」
侯爵はサージェス様の呼びかけで我に返ったようだ。
「ああ、失礼」
侯爵が軽く微笑う。
侯爵は父に視線を向け、存外真面目な声で告げる。
「この話は後日また改めて」
やはりお茶に興味を示したようだ。
父は侯爵の勢いに呆けていたが我に返ったようで慌てて「は、はい」と頷いている。
まさか侯爵がお茶にそれほどの興味を示すとは思わなかったのだろう。
わたしもだ。
思わぬ方向に話が行き驚いている。
一応この場はお見合いの場のはずだ。
ああ、でも婚約を結んでの利を知るという意味では間違ってはいないのかもしれない。
こちらの想定外の事柄で、というだけで。
むしろ気を引くものを提供できたということなら成功なのかもしれない。
といえどもこれからが本番だろう。
まだ挨拶しただけでお互いについて何の話もしていない。
わたしは改めて気持ちを引き締めた。
読んでいただき、ありがとうございました。




