父との会話
リーリエ視点です。
父が難しい顔をして廊下を歩いてきたので、思わず声をかけた。
「お父様、どうかしたの?」
立ち止まった父はわたしを見て表情を少し緩めた。
「ああ、リーリエ。どうかしたのかい?」
「お父様が難しい顔をなさっていたので。何かあったの?」
父が安心させるようにふんわりと微笑んだ。
「ん? 大丈夫。リーリエは何も心配しなくていい」
……何かあったのだろう。
ただそれをわたしに触れさせるつもりはないようだ。
心がざわつく。
何か悪いことでも起きているのだろうか?
食い下がって訊いてみるべきだろうか?
それとも父が話してくれるまで待つべきだろうか?
わたしが迷っているうちに父が話題を変えるように訊いてきた。
「ノークス様とは仲良くやっているのかい?」
どきりとする。
「変わりないわ」
辛うじてそのような返事を返した。
順調だとはとても言えなかった。
かといって本当のことは言えない。
心配をかけたくなかった。
疑われる前に言葉を足す。
「ただ最近は少し、お忙しいようなの」
「ああ、そうなのかい。それで前ほどは会えていないのか」
「ええ」
「そっか。最近会う頻度が減っていると聞いて喧嘩でもしたのかと心配していたんだ」
どうやら心配をかけていたようだ。
全然気づいていなかった。
自分のことで手一杯になっていた。
せめてノークス様はお忙しいようだ、とだけでも伝えておけば余計な心配をかけることはなかっただろう。
申し訳なくなる。
「心配かけてごめんなさい」
「いや、仲良くしているならそれでいいんだよ」
まさか、ノークス様に想い人がいます、などとは言えない。
最近は少し避けられています、とも言えない。
伝えれば父が心配するだけだ。
父にはこれ以上心配はかけられない。
「ありがとうございます」
そう返すだけでも胸がずきっと痛む。
だけれどそれを悟らせるわけにはいかない。
だから敢えて微笑む。
不自然ではないはずだ。
違和感さえも持たせるわけにはいかないのだ。
父がわたしの目をのぞき込むようにして告げる。
「リーリエ、もし何かあったら遠慮せずに言うんだよ?」
……父は何か勘づいているのだろうか?
それともわたしの態度が不自然だったのだろうか?
ただ単純に心配と労りから来る言葉だろうか?
判断がつかない。
「はい。何かあったらお父様に相談しますね」
今返せる言葉はこれだけだ。
「うん。そうしてくれたら嬉しい。私は、いや私たち家族は何があってもリーリエの味方だから」
家族に愛されていることはわかっていた。
だけれどそんなふうに言葉にしてもらえるとは思っていなかった。
その言葉が嬉しい。
沈みがちだった心がほんわかと温かくなる。
わたしは大丈夫だ。
そう思えた。
自然にふわりと微笑った。
「ありがとうございます」
「うん」
父も嬉しさを滲ませながら穏やかに微笑んだ。
読んでいただき、ありがとうございました。
リーリエは時々父親に対して敬語になります。間違いではありません。




