寄り添ってくれる優しさ
リーリエ視点です。
泣くつもりはなかった。
本当に。
同情を引こうとしたわけではない。
それなのに彼の顔を見て、優しい言葉に思わず涙がぽろりとこぼれ落ちてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい」
慌てて顔を背ける。
「いえ。よければこれを」
彼は優しく紳士的にハンカチを差し出してくれる。
「ありがとうございます」
ここで断るのは、相手に恥をかかせることになる。
おずおずと受け取り、そっと目尻にあてた。
涙がハンカチに吸い取られていく。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。ご迷惑をおかけしてすいません」
あれくらいで泣いてしまうようではこの先侯爵夫人としてやっていけない。
涙はこぼれてしまったけど、ここからは凛としていないと。
せめてノークス様に恥を掻かせないようにしなくてはならない。
わたしは彼の婚約者なのだから。
それなのに。
「好きだったのですか?」
躊躇なく訊かれてすぐに崩れてしまう。
それでも微笑みを浮かべた。
「初恋、だったのです」
今さらただの政略で結ばれた婚約の相手というだけです、と言ったところで信じないだろう。
うずくまっている姿も、涙をこぼしてしまった姿も見られてしまっているのだ。
わたしの彼への想いなどとっくにバレているだろう。
それならば優しくしてくれた相手には誠実でありたい。
彼の瞳が痛ましげだと言うように揺れる。
本当に優しい人だ。
まるで関係のないわたしのために心を痛めてくれている。
そんな必要はないのに。
申し訳ない気持ちを感じると同時に寄り添ってくれる優しさに心救われる思いがした。
読んでいただき、ありがとうございました。