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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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変わったのはわたし

リーリエ視点です。

今日もまた婚約者との交流と言う名のお茶会だ。

いつもと何も変わらない、穏やかな一時(ひととき)だ。

何も変わらない。

何一つーー




「どうかした?」


不意に訊かれる。

少し、ぼんやりしていたようだ。


「……いいえ、何でもありません」


ノークス様は何も変わっていない。

今までと何一つ変わることなく婚約者としてわたしを(ぐう)してくれる。


その仕草ひとつに一喜一憂していたわたしはもういない。

変わったのは、わたしのほうだ。


「そう?」

「はい」

「そっか。様子が変だと思ったのは気のせいだったみたいだね」

「心配をおかけして申し訳ありません」

「いや、何もないならいいんだ」


ノークス様が表情を緩めるようにして微笑(わら)う。

以前のわたしだったら舞い上がっていただろう。

今のわたしは微笑み返すだけ。


「ノークス様はお変わりありませんか?」

「ん? ああ、変わらないよ」


ん?

どことなく違和感がある。

だけれど曖昧でどことは指摘できない。

指摘できたところで訊けるはずはないのだけれど。


わたしは穏やかに見えるように微笑んだ。


「良かったです」


それからしばらく当たり障りのない話が続いた。

紅茶を飲みながらノークス様はたわいもない話をするように言った。


「最近トワイト家によく行くようだね」

「グレイス様と親しくさせていただいておりますので、お茶会に何度か呼んでいただきました」

「そっか。それは良いことだね」


穏やかな微笑みとともに言われてほっとする。


「はい」


微笑んで頷いた。

許可が出た、と少し気が緩む。

咎められていたらグレイス様とは距離を置かなくてはならないところだった。


そこに何気ない口調でノークス様が問いを投げ入れた。


「そのお茶会にはサージェス殿は参加されているのかい?」

「いえ。基本的にご令嬢の集まりですから」


まれにご令嬢の婚約者や兄弟が参加することもあり、完全に令嬢だけのお茶会とは言えない。

だけれどそこにサージェス様が顔を出したことは一度もなかった。


「ああ、そうなんだ。じゃあサージェス殿には会ったことはない?」

「一度だけ。グレイス様と親しくしているからとご挨拶くださいました」

「それだけ?」

「それだけですが、えっと、何か?」


嘘は言っていない。

ノークス様は何が訊きたいのだろう?


軽く首を傾げてノークス様を見る。


「ああ、うん、そっか。それならいいんだ」


どうにもはっきりしない物言いだ。

珍しい。

思わずきょとんとしてしまう。


何故、サージェス様を気にする必要があるのだろう?


今までなら、そう、ノークス様の本心を知る前なら、嫉妬してくれているのかも、などとくすぐったい想いを味わえた。

だが今ではノークス様がわたしに対することで嫉妬などしないということを知っている。


だったらどういうことなのだろう?

わからない。


「そうか。まあ、そうだよね」


何事か自分に言い聞かせるように呟いているけれど、わたしにはよく聞き取れなかった。


「ノークス様?」

「うん? ああ、何でもないよ」


にっこり微笑(わら)って言われる。


「そうですか」


それ以上訊くことはできない。

そして話題はたわいもないことに移っていった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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