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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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覚悟を決める時

リーリエ視点です。

「ユフィニー嬢」


サージェス様に真剣な声で呼ばれる。


「はい」


わたしも真っ直ぐにサージェス様を見た。

真剣な顔でサージェス様が告げた。


「試すだけ試してみませんか?」


ここまでサージェス様はしてくださったのだ。

見ず知らずの、わたしのために。

ご自身にも家にも何の利もないのに。


それならその献身に応えるべきかもしれない。

わたしの覚悟一つだ。


一つだけ、息をつく。


「わかりました。ですが、たとえノークス様が誰かと恋仲になったとしてもわたしとの婚約を優先するのであれば、わたしはそのまま嫁ぎます」


それでもわたしとの婚約を選ぶのなら、今度こそ揺るがない。

どれだけ辛い想いをすることになろうと両家のために尽くそう。


サージェス様がしっかりと頷いた。


「わかりました」


サージェス様はわたしの覚悟までもを読み取って受けとめてくださった、そう感じる。

それなら大丈夫だ。


ほっと気を緩めた。

そこへさらに言葉が重ねられた。


「全力を尽くしましょう」


いえ、そこまでは、と思わず口から出そうになって何とか(こら)えた。

他家の婚約に横槍を入れようとしているのだ。生半可な覚悟ではないはずだ。

だからわたしはただ頭を下げた。


「ありがとうございます」


結果がどうなろうとその責任を負うのは、わたしだ。


「きっとつらい想いをさせてしまいます」


ノークス様が誰かに恋する姿を見れば、わたしの心はまた痛むに違いない。

だけれど、それも覚悟の上だ。

その覚悟なくしてサージェス様の申し出を受けたりはしない。


「大丈夫です」

「無理だけはしないでくださいね」


心配してくださっているのだ。

その心遣いが嬉しい。


「ありがとうございます」

「リーリエ様、もしおつらいことがありましたら、わたくしにお話くださいね」


グレイス様も心配そうに言ってくださる。


「ありがとうございます」

「必ず、ですよ」


念を押されてしまった。

ここで言質を取られてしまうのはよくない気がする。


「可能な、限りは」


そう(かわ)すのが精一杯だ。

グレイス様が軽く微笑(わら)う。


「まあいいでしょう」


一応譲歩してくださったようだ。

厳しく追求されれば断りきれなかっただろうからほっとする。


「あとはお任せくださいね。もしどうしても言いたいことや訊きたいことがあればグレイスに言付けてください」


それではグレイス様に迷惑をかけてしまうのでは?

窺うようにグレイス様を見れば笑顔で頷いてくださった。


「わかりました」

「遠慮はなしですよ?」

「はい」


あとはサージェス様にお任せするしかない。

グレイス様も力になってくれると言ってくださったので何とかなるだろう。


これで一応話し合いは終わりだろう。

気を緩める。


そこへ。


「それと、後々の不信感に繋がらないように伝えておきますが、ユフィニー嬢の新しい婚約者候補には私も入っていますので」


表情を取り繕うことができなかった。


「お兄様?」


グレイス様も知らなかったようだ。

サージェス様はちらりとグレイス様を見たがそれだけだった。

だけれど、それでグレイス様は退いた。


兄妹間で何かしらのやりとりをしたのだろう。

部外者であるわたしの前では話せない、何か、たぶん思惑やら実情についての何らかのやりとりがあったのだと思う。


じっと見てしまったからかサージェス様と目が合う。

わたしの負担にならないように、か、サージェス様は軽く微笑(わら)って言う。


「あくまでも候補ですよ」

「わたしなんかよりもっといい候補がいるのではありませんか?」


わたしではトワイト家にもサージェス様にも何の利もない。


「残念ですが、いないのですよ」


それは嘘だろう。

これは率直に言ったほうがいいかもしれない。


「ですが、何の利もないでしょう?」

「そんなことはありませんよ。ユフィニー家と提携すれば事業が興せますし、私自身もそろそろいい加減婚約者を決めなければなりませんから」


家のことはともかく、サージェス様自身のことは、わたしを気遣ってのことだろう。

別にわたしでなくても構わないのだから。


サージェス様が少しだけ眉を下げられる。


「お嫌、ですか?」


嫌か嫌でないかで言えばーー


「……わたしに(いな)やはございません」


嫌ではない。

どんな人物かわからないよりはよほど安心だ。

優しいサージェス様とならいい関係が築けるだろう。

……別に恋愛感情は必要ないし、サージェス様も求めていないだろう。


サージェス様が微笑む。


「よかったです。あくまでも候補ですし、考えておいてくださいね」


それくらいならば。


「はい」


それくらいの気持ちで頷いた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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