今のうちに整理すれば
サージェス視点です。
グレイスの微笑みに何も言えなくなっているリーリエ嬢を見ながら思考を巡らせる。
リーリエ嬢が挙げたことは、最初の笑顔の件以外は高位貴族の男性なら概ね当てはまることだ。
穏やかというのも恐らく感情を揺らさないだけだろう。
本当の穏やな性格とは違う。
私は感情がどちらかというと希薄で、あまり揺れないのでそう想像がつく。
それを穏やかと捉えているリーリエ嬢は感情が豊かなのだろう。
それは悪いことではない。
悪いことではないが、それでつらい想いをすることもあるかもしれない。
ノークスの傍だと特に。
きっとノークスはリーリエ嬢の感情に配慮することはない。
それは今までの言動からでも断言していい。
だがそれにリーリエ嬢は気づいていないようだ。
だからこそ先程のノークス像だ。
その中で気になることが一つあった。
婚約者であるリーリエ嬢を尊重する、か。
心の中で呟く。
私からしたらそうは見えないが、リーリエ嬢からしたらきちんと尊重してくれていると思っているようだ。
だがリーリエ嬢のその意見から見えてくることはある。
身分の低い婚約者を見下す、という者も残念ながらいることにはいる。
それをリーリエ嬢は知っているのだろう。
ノークスは違うと言っていたから彼女の友人か親族にそういう扱いをされた者がいたのかもしれない。
本当に恥ずべきことだ。
たとえ婚約者の身分が低かったとしても婚約者を尊重するというのも当然のことなのだ。
何故なら婚約もまた家と家の契約なのだから。
それなのに婚約者を見下すということは相手の家を見下し、ひいては契約自体を軽んじているということに他ならない。
どんな小さな契約でも軽んじる者は敬遠される。
当然だ。
自分たちとの契約も軽んじられるかもしれないのだ。
わざわざそんな人間と契約したい者などいない。
だからそんな姿を他者に見せれば家が衰退していく。
貴族である以上それは避けなければならないことだ。
それをわかっていない者がいることが嘆かわしい。
これでも私にも高位貴族としての矜持も心得もある。
だから同じ高位貴族であるにも関わらず、何たるかも理解していない者を見ると苛立ちを覚えてしまう。
弱いものを虐げるなど高位貴族にあるまじき姿だ。
普段から気になっていることだからつい思考がそちらに逸れてしまっていた。
一つ静かに息を吐き、思考を切り替える。
一番に挙がったことからしてもリーリエ嬢が惚れているのはノークスの笑顔ということになる。
ノークスの微笑みなど貴族的なものだろうが、リーリエ嬢の前では違うのだろうか?
それはリーリエ嬢と一緒にいるノークスを見たことがないのでわからない。
わからないから判断はできない。
だが判断できなくとも問題はない。
これは今のこの話には必要ないとみていいだろう。
さてグレイスとリーリエ嬢の無言の攻防はどうなっただろうか。
意識を二人に戻す。
リーリエ嬢が訊いてくることはないと確信したグレイスが口を開いた。
「リーリエ様のフワル侯爵令息の評価はわかりましたので話を元に戻しましょう」
私は頷いた。
話を脱線させてしまったのは私だ。
それにあまり長々と話しているわけにもいかない。
万が一にも変な噂が立てばリーリエ嬢が困る。
それは避けなければならない。
読んでいただき、ありがとうございました。
来週は所用のため更新はお休みします。
楽しみにしてくださっている方々には申し訳ありません。




