ふと気になったのだが
サージェス視点です。
「ノークス様は個人の感情で動く方ではありません」
ノークスは確かに侯爵家の嫡男としてそのような教育を受けているだろう。
個人の感情よりも家を第一にする。
普段はその通りに生きているのだろう。
だが人間は機械ではない。
時には感情が揺さぶられることはある。
私だって感情に揺れることはある。
だが私はそれを知っている。
だから揺れたところで自分を見失うということはない。
そういうものだとわかっているから動揺することもない。
だが、普段、感情を制御できていると思っている者ほど感情が揺さぶられた時にそれに動揺し、感情の波に浚われやすい。
ノークスはまさにそのタイプだろう。
まさか自分が感情的に行動するとは考えていないはずだ。
むしろ感情的な人間を軽蔑しているのではないか。
その点で言えばリーリエ嬢はノークスに相応しいのだろう。
彼女は控えめで謙虚だ。感情的でもない。
少なくともノークスが嫌悪するタイプの人間ではない。
だからこそしっかりと婚約者として扱っている。
そもそもノークスのあの発言からして恋愛感情というものに振り回される人間を嫌悪しているようである。
そういう人間ほど一度恋に落ちればのめり込む。
ただリーリエ嬢には残念なことにノークスの女性の好みはリーリエ嬢のようなタイプではないのだろう。
もしノークスの女性の好みがリーリエ嬢のようなタイプであったならば、リーリエ嬢は苦しまずに済んだはずだ。
そうしたら円満で何の問題もなかった。
私とリーリエ嬢が出会うこともなかったわけだが。
それは、少し、残念だがリーリエ嬢が傷つかないならそのほうがいいに決まっている。
だが現実はそうではなく儘ならない。
ならばせめてリーリエ嬢がこれ以上傷つかないようにしたい。
ノークスの傍ではそれが叶わない。
彼女は自分の幸せより家への益を優先させている。
それでは彼女は傷つく一方だ。
それに。
この先、ノークスが誰かと恋に落ちる可能性だってあるのだ。
絶対にないとは言い切れない。
恋とは理性でするものではないのだから。
いつの間にか心の中にあるものだ。
恋という感情を疎んじる者ほどそれを認められないものでもある。
ノークスなんてまさにそのタイプだろう。
気づいた時の動揺さえも手に取るように想像できる。
そうしたらどうするか?
その感情をもっともらしい理由をつけて優先させることだってあり得るのだ。
いや、慣れていない者ほど正当化しようとする。
慣れてない故に振り回されるのだ。
かといって恋をしてそれを優先する者ばかりではない。
心の中に仕舞って誠実に婚約者や伴侶に向き合う者もいる。
こればかりはその人物の人柄としか言いようがない。
ノークスは良くも悪くも高位貴族の傲慢さがある。
自分の意見を押し通すことに躊躇がない。
言い方を変えれば我慢などしないのだ。
そんな人間が恋をして相手も気持ちを返してくれそうな時に我慢などするだろうか?
そこに婚約を解消してもフワル家にとって損がない状況だったら?
もともとこの国では婚約解消など珍しくない。
だから婚約の解消は他国に比べても比較的多い。
婚約破棄となると変わってくるが、婚約の解消くらいなら傷物と言われることはない。
それならばノークスは乗ってくる可能性は十分あると思う。
乗らなければ、乗るようにさりげなく背を押すのもいいだろう。
十分に勝算はある。
ふと気になってリーリエ嬢に訊く。
「ユフィニー嬢から見てノークス殿はどんな人物ですか?」
私はそれが知りたい。
リーリエ嬢はノークスのどこに惹かれたのだろうか?
勿論ノークスがリーリエ嬢が想いを寄せる価値のない男だと言う気は毛頭ない。
ただ単純にどこに惹かれたのか知りたいだけだ。
それにはリーリエ嬢がノークスをどのような人物だと見ているかを知ることは不可欠な気がした。
読んでいただき、ありがとうございました。




