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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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思いがけない話の具体的な話

リーリエ視点です。

「それは、どういうことでしょうか?」


何とかそれだけを訊く。


「言葉の通りです。お互いの家に同等の契約相手と婚約者を用意できるとしたら、貴女の気持ちはどうですか? それでも婚約を続けたいですか?」


考えたこともなかったので頭が働かない。


「お兄様、それは本当ですの?」


わたしの代わりのようにグレイス様が訊いてくださる。


「私は無責任な希望を与える真似はしない」

「え、ええ。お兄様でしたら、そうですわね。浅慮な問いでした」


きっとグレイス様はわかっていて訊いたのだ。

恐らくわたしのために。

混乱していることに気づいて時間を作ろうとしてくださったのだろう。


「ユフィニー嬢、どうでしょうか?」

「申し訳ありません。考えたこともなかったので……」

「なら、考えてみていただけませんか?」


ここまでサージェス様はわたしのためにその道筋を作ってくださったのだ。

真剣に考えなければ失礼に当たる。

ただ判断するには情報が足りない。


「具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。どのようなことがお聞きになりたいですか?」


訊かれて少し思考を巡らせる。

サージェス様もグレイス様も()かすことなく待ってくださった。


ティーカップを持ち上げて口をつけて唇を湿らせる。

それから口を開いた。


「まずは契約相手のほうからお聞かせ願いますか?」

「わかりました」

「そもそもどのような契約かはご存知ですか?」


失礼なことを訊いているかもしれない。

だがこれを確認しないことには話が先に進められない。


「ええ、調べられるだけ調べました。フワル家が資金を、ユフィニー家が技術を提供しているとか」

「そうです。その技術を(まかな)えるような家があるのでしょうか?」


それが一番の危惧だ。

双方に新たな婚約者を用意するとかは実は些末な問題だ。

正直、ノークス様ならわたしと婚約を解消したところですぐに新しい婚約者ができるだろう。


つきんと胸が痛む。

だけど今はそれを全力で無視する。

今は必要ない。

悟らせるわけにもいかない。

これはわたしの中だけに(とど)めておかなければならない痛みだ。

だから無理矢理思考を逸らした。


婚約を解消した場合、わたしにすぐに婚約者ができるかどうかはわからない。

だけどそのうち父が結婚相手を見つけてくるだろうとは思う。


幸いにしてこの国では婚約が解消になったとしても瑕疵(かし)にはならない。

状況により婚約が解消されるということは珍しくはないからだ。

いちいち瑕疵になっていては誰も彼もがまともな結婚などできなくなる。


他国で婚約解消になれば瑕疵に、特に女性の瑕疵のほうが大きいなどという話を聞くたびにどれほど女性の数が多いのだろうと思う。

随分と年の離れた結婚も珍しくないと聞けば、まあそうなるわよね、と思う。

婚約解消くらいで瑕疵となれば瑕疵のない婚約者もいない相手となると年齢が下がっていくものだ。

まあ、瑕疵となるくらいだから、婚約解消はさほど多くないとうことなのだろうとも思う。


うちの国ではそのようなことはない。

政略的なもので年齢の離れた婚姻などはもちろんある。


サージェス様はわたしにも婚約者を用意できるような発言をしていたが、そちらはどちらでもいいことだ。

どのみち父の許可を得なければならないので。

それに相性もある。


その前に事業の提携ができるかどうかね。

そのへんはサージェス様のことだから抜かりはないのだろうけれど。

わたしは父が決めた人と結婚する。

それで構わないのだ。

だから重要なのは家同士の取引に替わるもののほうだ。


「はっきり言いましょう」

「お願いします」

「全く同じ技術というのは無理ですね」


やはり、と頷く。

職人の技術の高さはユフィニー領の自慢だ。

おいそれと替わられてしまうと言われればもやもやするだろう。


「ですが、フワル家は資金を提供しているので、技術力のある家と組めばまた違う提携ができるはずです」

「それは一理あるとは思いますけど……」

「お兄様、それではただ単に新たな契約先ができるだけで解決はしませんわ」


グレイス様にわたしも同意見だ。


「似た事業になる、としたら?」

「それなら、利益があるほうを取るかもしれません」

「それでもし、ノークス殿のほうに他に婚姻したいご令嬢でもいたとしたら?」


ずきっと胸が痛んだ。

もしかして、そのような女性がいるのだろうか?

そんな気配など感じたこともないのだけれど。


本当にいるのなら、尚のことリーリエとの婚姻は家のためということだ。

わかっていた事実に改めて気分が沈む。


何も言えないわたしの代わりのようにグレイス様は眉根を寄せて訊く。


「そんなご令嬢がいるのですか?」

「いえ、そのような事実はありませんでした」


それにほっとしつつ、ならば何故そんなことを言い出したのだろうと疑問に思った。

サージェス様は続ける。


「ノークス殿に気になる女性ができ、さらに似たような事業が展開できる別の家を、それも利益が見込める家を見つければ婚約解消に向かって動くと思いますよ」


グレイス様は眉を寄せられている。


「それは希望的観測というものではありませんの? リーリエ様に希望だけ持たせて実現されなければ残酷ですわよ」

「いや。ノークス殿の性格を鑑みれば可能性は高い」


サージェス様はグレイス様には敬語じゃないのね。

思わずどうでもいいことを考えてしまう。

現実逃避、しているのだろうか?

だけれどそんなことをしている場合ではない。

わたしは口を開いた。


「ノークス様は個人の感情で動く方ではありません。」


二人の視線がわたに向いた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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