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植え込みの陰にいたのは

サージェス視点

『砕け散った初恋の傍らで』と重複部分があります。

同じ侯爵家の嫡男であるノークス・フワルとその友人が行く手から歩いてきた。

お互いに興味はないのでそのまますれ違う。

聞くともなく聞こえた話はどうやら婚約者の話のようだ。


婚約は政略的なもの。

お互いに気持ちはない。

事業提携のための婚約だ。

そこに愛だの恋だの持ち出すのは馬鹿げている。

その点、婚約者はそのへんきちんと(わきま)えているから気楽なものだ。


そんなことを声を(ひそ)めることなく話している。

誰に聞かれても構わないということなのだろう。

場合によっては婚約者の立場を悪くするかもしれないなどと気づいていないようだ。


サージェス自身は気にしないし、そもそも彼らには興味はないので関わるつもりはない。






そう思っていたのにーー






何故気づいたのかはわからない。

少し先、植え込みの陰に誰かがいる。

あの位置なら先程の話は聞こえているはずだ。


さらには何故歩み寄ったのか。

気づかないふりをするのもマナーのはずだが、ふらりとそちらに向かっていた。


そこにいたのは、体を小さくするようにうずくまった少女が一人。

状況から見て彼女がノークスの婚約者だろう。


どうやら、政略結婚の相手だと思っているのは彼だけのようだ。

彼の目は節穴のようだ。

彼女のほうは恋の熱に浮かされていたのだろうか。


知らなかったのだろう、彼の本心を。

それを思いがけない形で知らされて動揺している。

いや、傷ついているのだ。


人の気持ちを察するのは苦手だ。

だが早く立ち去ってほしいと彼女が思っていることは伝わってきた。


そのまま彼女の意を()んで、何も見なかったことにして立ち去るのが紳士的なのかもしれない。

だが、何故かできなかった。


誰にでも優しくする、そんな善人ではない。

それなのに、何故か、気づいたら声をかけていた。


「助けてあげましょうか」

と。


そう言ったことにも動揺した。

普通、こういう場合は「大丈夫ですか?」くらいが妥当だろう。

勿論、動揺は表には出さない。


彼女が顔を上げた。

涙は一滴もこぼれていない。

泣いていたわけではなかったようだ。


ほっとしたような胸が痛むような複雑な感情を持った。

それを表に出すことなくいくつか年下であろう少女を見る。


春の空のような優しく柔らかい空色の瞳に、木漏れ日のような淡いふわふわとした金髪を持つ可愛らしい顔立ちの少女だった。


何かの均衡が崩れてしまったのか、不意にその瞳が涙に(うる)む。

知らず息を呑んだ。


涙に濡れた瞳が宝石以上に綺麗だった。


ぽろりとこぼれた涙が、彼女の頬を滑り落ちていった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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