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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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39/85

まさかあのような申し出があるとは

サージェス視点です。

リーリエ嬢は言葉を失ったようだ。

無理もない。

考えもしなかったことだろう。

そんな彼女を見ながら先日の父とのやりとりを思い出す。




*




父の執務室に呼ばれた私は促されてソファに座った。

父が人払いをして室内には二人だけだ。

向かいのソファに座った父が軽い口調で口を開いた。


「最近、ノークス・フワル侯爵令息の周囲を探っているようだね」


内心でどきりとした。

さすがに父にバレずにはできなかったということだ。

咎められるだろうか?


「ああ、別に咎めるつもりはないよ」


本当だろうか?


「ただどうしてなのか理由が知りたいと思っただけだ」

「理由、ですか?」

「まさか理由もなく調べているのかい?」


それこそまさかだ。


「いえ、そんなことはないですが……」


まさか素直に全部話すわけにはいかない。

私自身の興味ではなく、リーリエ嬢に関わることだ。

他家の令嬢のことを軽々しく話すわけにはいかない。


どうしたものか。

私の逡巡を見て取ったのか、父が言葉を重ねる。


「別に知ったところで何かしようというわけではない」


……父は一体どこまで知っているのだろう?

それともただの鎌かけだろうか?

慎重にならなければ。

ここで間違えるわけにはいかない。


下手したら父に丸ごと潰される。

それに、リーリエ嬢に迷惑をかけるわけにはいかない。

これは私が勝手にやっていることなのだ。

彼女には何の非もない。

これで万が一彼女やユフィニー家に何かしらの悪影響が出てしまえば後悔しかない。


「本当に理由が知りたいだけだ。悪いようにはしない。話してみなさい」


腹を(くく)るしかないか。


「……本当に悪いようにはしないと約束してくれますか?」

「もちろんだ」


はっきりと父は頷いた。

その言葉を信用するしかない。


リーリエ嬢の名前は出さずにかいつまんで話す。

ノークスのことを調べている時点でリーリエ嬢のことはバレているだろうが。

それでもできるだけ隠しておきたかった。


私の話を父は微笑んで聞いていた。心なしかその微笑は嬉しそうに見える。


「なるほど。それでお前はどうしたいのだ?」


まさかそう訊かれるとは思わなかった。


「うん? ただ調べただけかい?」

「いえ、そんなことはありませんが……」


考えることなくぽろりと言ってしまう。

はっとして口をつぐむがもう遅い。


「ああ、別に邪魔するつもりはないよ」


それならば何故訊いてきたのだろう?


「それで何をするつもりだい?」

「……彼女の、気持ち次第です」


もともとそのつもりだ。

何も知らなければ手助けもできないから調べただけだ。

これが彼女の決断を後押しするようなものならいいのだが。


「お前にとって彼女はどんな存在なんだい?」


どんな存在……?

問われて改めて考える。

私にとってリーリエ嬢は……


「これ以上傷ついてほしくない人、ですね」


それ以上でも以下でもない。

別にリーリエ嬢とどうにかなりたいなどとは思っていない。

横恋慕などしてはいない。


だから婚約続行なり婚約解消なりした後で距離が開いても別に構わなかった。

ただ、できれば、何かあった時に手を貸せるくらいの場所にはいたい。


「……なるほど」


父は重々しく頷いた。

何が、なるほど、なのだろうか?

内心で首を傾げるが敢えて問うようなことはしない。

父も説明するつもりはないようだ。


そのまましばし二人の間に沈黙が横たわった。

サージェスにはこれ以上説明することはない。

だが父は何か考えているようで退室の許可が出ない。


私は静かに(もく)して父が何らかの反応をするのを待つ。

父がにこやかに微笑(わら)って口を開いた。


「私も手を貸そう」


予想もしていなかった言葉に咄嗟に言葉が出てこない。


「そんなに意外なことかい?」

「ええ、そうですね」

「まあサージェスが自主的に何かをやるのは珍しいからね。手を貸してあげようという親心だよ」

「そうですか」


そんな単純な動機ではないような気がするのだが。

私の気を逸らすかのように父が続ける。


「お前だって私におんぶにだっこにするつもりはないのだろう?」


当然だ。

はっきりと頷く。


元より父の力を借りるつもりはなかったのだ。

できることなら自分の力で彼女の力になりたい。


その想いが伝わったのか、父は軽く頷いた。


「まあ、まずはやってみなさい。自分では無理だと思ったら私を頼るといい。今の自分の力がどこまで通じるかを知るのもいい勉強になる」


それが父の意図したことか、とすとんと納得した。

そうでなければ何の利もない。


「はい」


何故か父が苦笑したのが印象に残った。




*




父が協力を申し出てくれたことは絶対に彼女には言えない。

萎縮してしまうだろう。

それでは駄目なのだ。


彼女の心に負担をかけたくない。

今でさえ混乱しているのだ。それ以上の衝撃を与えるわけにもいかない。


恐らく考えたこともなかったのだろう。

彼女の中で婚約続行が当然のことだったからだろう。

先程即答したことからもそれは(うかが)える。


逆に言えばそこで思考停止が起きているとも言える。

そこへ新たな選択肢を与えたのだ。

混乱するのも無理はない。


だから関係ない余計な情報は与えないほうがいいだろう。

余計に混乱させる。

それは本意ではない。

しっかり考えて結論を出してほしい。


私はリーリエ嬢が言葉を発するのを静かに待った。


読んでいただき、ありがとうございました。

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