お茶会での再会
リーリエ視点です。
グレイス様は本当に親切で、屋敷に招いてくれた折に彼女の友人を何人も紹介してくださった。
そのご友人たちもわたしが子爵令嬢だからといって見下すことはなかった。
グレイス様もそういう方を選んで紹介してくださっているのだろう。
本当に細やかな気遣いが大変有り難い。
ちょっと、どうしてそこまで気遣ってくださるのか疑問ではあるけれど。
今日もそうなのだろうと思い、トワイト家を訪れた。
何回かお茶会をした四阿に通される。
そこで思いがけない人物を見つけ、思わず固まってしまった。
「久しぶりですね、ユフィニー嬢」
穏やかに微笑んで挨拶してきたのはサージェス様だった。
まさか、サージェス様が現れるとは思っていなかったのだ。
「お、お久しぶりです」
動揺しつつも何とか挨拶する。
全然駄目だ。
ここにフワル侯爵夫人がいたら叱責される。
「驚かせてしまいましたね」
まさか、はい、驚きました、とは言えない。
バレバレではあろうけれど。
わたしは貴族的微笑を浮かべる。
サージェス様は見逃してくれるようだ。
「お元気でしたか?」
「ええ、お陰様で。トワイト侯爵令息はお変わりなく?」
「ええ。恙無く過ごしていました」
「よかったです」
一通りの形式的な挨拶は済んでしまった。
ここにいる理由を訊いてもいいのだろうか?
それとも、わたし日時を間違えてしまっていた?
サージェス様は別の方と会う予定でわたしは誤って案内されてきたのだろうか?
サージェス様はわたしが恥を掻かないように挨拶をしてくださったのかしら?
ぐるぐると思考が回る。
これはサージェス様に直接訊いてしまったほうがいいだろうか。
「リーリエ様、事前にお知らせしていなくてごめんなさいね」
グレイス様の声が聞こえ、思わず肩が小さく跳ねた。
本当に今日は失態ばかりだ。
もちろん最初からサージェス様のお隣にはグレイス様がいらした。
動揺のあまり視界に映らなかっただけだ。
「いえ、大丈夫です」
そもそも言えるはずもなかっただろう。
手紙に書くには誤解されかねないことだ。
ということはわたしは日時を間違えたわけでもなく、誤って案内されてきたわけでもないようだ。
それにはほっとする。
だけれどそれならサージェス様は何故こちらにいらっしゃるのだろう?
今までグレイス様のお茶会に参加させていただいて、一度もサージェス様と会うことはなかった。
「ごめんなさいね。お兄様がリーリエ様に挨拶したいと聞かなくて」
「妹が親しくしているから挨拶だけでも、と思いまして」
一瞬きょとんとしかけて、すぐに近くに使用人がいるからだ、と気づいた。
「そうでしたか。それはご丁寧にありがとうございます」
「グレイスが迷惑をかけていませんか?」
「いいえ、大変よくしていただいております」
「それならよかったです」
他人行儀なやりとりだ。
もちろん親しくないのだから当然ではあるけれど。
だけれどそれならいっそのこと初対面を装わなくてよかったのだろうか?
先程お互いに久しぶりだと言ってしまったけれど。
「随分前に一度ご挨拶したことがありましたが、その時はまさかグレイスと親しくなるとは思いませんでした」
特にそうした記憶はないからそういうことにしておくことにするようだ。
「どんなことで縁が繋がるかわかりませんね」
「そうですね」
お互いに貴族的な微笑みを交わし合う。
しばらくはお茶を飲みながら当たり障りのない話をしていた。
それぞれにお茶のおかわりが饗される。
それが済むとグレイス様が手を振る。
給仕をしてくれていた侍女たちが下がっていく。
もちろん完全には姿を消さない。
大きな声で話さなければ内容は聞き取れないであろう距離で待機している。
これは婚約者のいる身であるわたしへの配慮だろう。
グレイス様もご一緒にいらっしゃるけれどどこで曲解されるかわからないから。
となれば意図は一つ。
ここからが本題なのだろう。
サージェス様がここにいらした本当の理由は何だろう?
ハンカチは返してしまったのでもう縁は切れていると思っていたのだけれど。
まだわたしに何か御用事があるようだ。
そう言えば次に会った時に返事を聞かせて欲しいと言われていたのだった。
ハンカチを返却したことで返事をしたつもりだったのだけれど。
サージェス様にとってはそうではなかったのかもしれない。
あるいは誤解のないように確認しようとした可能性もある。
ふとそれが正しいのではないかと思った。
とにかく話を聞いてみなければ正確なところはわからない。
何を言われるのかと、真剣な瞳をサージェス様に向けた。
読んでいただき、ありがとうございました。




