聞く彼女の話に心配は募るばかりだ
サージェス視点です。
「お兄様、リーリエ様とお会いしましたわ」
グレイスが部屋を訪ねてきて、人払いさせた後で唐突に告げてきた。
面食らいながら記憶を辿る。
グレイスは今日、ガーデンパーティーに招待されていたはずだ。
「お前が行ったのはワイズ家のガーデンパーティーだったよな? 彼女も招待されていたのか?」
「ええそのようですわ。フワル侯爵令息と一緒でしたわ」
「そうか。彼女は……大丈夫そうだったか?」
婚約者と一緒にいて彼女はまた傷つけられていないだろうか?
ノークスは無意識だろうからたちが悪い。
「表面上は婚約者を立てて仲の良さそうな感じでしたわ」
表面上は、か。
つまりは。
「無理をしていたか?」
「恐らくは」
やはりノークスの傍にいるのは負担なのだ。
グレイスしかいないのだから、と隠すことなく表情を曇らせた。
グレイスは表情を変えずに「それから、」と切り出す。
「フワル侯爵令息はリーリエ様がうちの屋敷を訪れたことも知っていました」
その言葉に驚いたが、すぐに思考を巡らせる。
「……監視されているのか?」
グレイスは軽く首を傾げる。
「そこまでではないのではないでしょうか? そうであればあの時リーリエ様が傍にいたことを知っていてもよさそうですし」
「確かにな」
グレイスの意見に賛成だ。
もし監視させているなら、下手したら私と会ったことも知っているかもしれない。
それをあのノークスが見逃すとは思えない。
彼女に苦言を呈し、こちらにも何かしらを仕掛けてくるだろう。
今のところそのような兆候はない。
大方、たまたまうちに入っていくのを見かけた誰かが親切にも親切にも注進したのだろう。
何を狙ったやら。
リーリエ嬢過失の婚約破棄だろうか?
トワイト家とフワル家の不和だろうか?
迷惑な話だ。
狙いはノークスの婚約者の座か、それとも両家の不和によって何らかの利を得ようとしたのか。
それともただの意地悪か。
引っ掻き回したかっただけとも考えられる。
本当に余計なことをしてくれる。
これでリーリエ嬢に監視などついてしまえば厄介だ。
リーリエ嬢付きにとフワル家から侍女でも送り込まれれば接触が不可能になってしまう。
それではリーリエ嬢を助けられない。
思わず歯噛みしてしまう。
仮にそこまで行かなくとも何かしらの疑念があれば、それとなくリーリエ嬢に訊いて行動把握をしたり、誘導して行動範囲を狭くしたりするだろう。
そうなればリーリエ嬢がこの屋敷を訪ねてくることすら難しい。
「ご安心くださいませ。フワル侯爵令息からはリーリエ様との友人付き合いの許可もいただきました」
「本当か?」
「はい」
「さすがだな」
本当にそういうところは抜け目ない。
「ありがとうございます。」
これでリーリエ嬢がグレイスを訪ねて我が家を訪れても問題ない。
「近いうちにリーリエ様を我が家に招待致しますね」
「頼む」
「大丈夫ですわ。今度はお兄様を仲間外れには致しません」
「……頼む」
さすがに前回のように後から訪問があったことを聞かされるのは御免だ。
そしてふと思い出す。
「いや、少し待ってくれ。調べたいことがある」
「あらでしたらしばらくはわたくしだけでリーリエ様にお会いすることにしますわ」
「…………わかった」
グレイスがころころと笑う。
笑われる要素があっただろうか?
普通にしていたはずなのだが。
「万が一リーリエ様に監視用の侍女がつけられていてもそれなら誤魔化せるでしょう。なんならお友達も紹介致しますわ」
グレイスの意見にも一理ある。
だから頷いた。
「そうだな。では頼めるか?」
「ええ。お任せくださいませ」
ふふ、と楽しそうにグレイスが微笑う。
今後の予定を立てているのだろう。
グレイスに任せておけばリーリエ嬢を悪いようにはしないだろう。
それは安心できる。
だが、私自身がリーリエ嬢に会うのはまだ少し先になりそうだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




