ワイズ公爵家のガーデンパーティー
リーリエ視点です。
そして迎えたワイズ公爵家のガーデンパーティー当日。
迎えに来たノークス様はわたしを見て満足そうに微笑んだ。
「さすがリーリエだ。上品な装いがよく似合っていて可愛いよ」
「ありがとうございます。ノークス様も素敵です」
「うん、ありがとう」
ノークス様に言われた通り、わたしは栗色のシフォンのデイドレスを着ている。
袖口には金色の刺繍を足し、琥珀色の細身のリボンがつけられている。
胸元と耳元にはノークス様が贈ってくださった品のいいトパーズのアクセサリーを身につけている。
腰の後ろ側に大きめのリボンが結ばれている。そのリボンは中心が空色で両端に向かって琥珀色になっていくグラデーションのものだ。
髪は胡桃色のリボンを編み込んでハーフアップにした。
一方のノークス様は空色の上下で、中のベストは一段濃い水色だ。
胡桃色のループタイを身につけておゆ、タイを留めているブローチは優しい色合いの琥珀のもの。
難しい組み合わせだが、着こなしているのはさすがだ。
「行こうか」
「はい」
軽く差し出された腕にそっと手を添える。
ノークス様にエスコートされてそのままフワル侯爵家の馬車に乗り込む。
合図が出され、ゆっくりと動き出した。
馬車の中で、ノークス様と向かい合うのに緊張したけれど、ノークス様は気にされなかったみたい。
気づかなかったのか、ガーデンパーティーで緊張していると思われたのか。
どちらにせよ、やはりノークス様はわたしには興味がなさそうだ。
以前は馬車の中で向かい合うだけでもそわそわと落ち着かなかったけれど。
それに気づけば、身体から余分な力が抜けた。
ようはノークス様の婚約者として失格なことをしなければいいのだ。
それはもちろん緊張するけれど、そうとわかってしまえば気は楽になった。
わたしがきちんとしている間はノークス様に見限られることはないということだから。
嫌われたらどうしようとびくびくする必要はなくなった。
好かれていると思っていたから、好きだったから、嫌われたくなかっただけだ。
もともとさほど関心を持たれていないのならば、失望されなければいい。
それだけでいいのだ。
……痛むのは、心だけだ。
*
ガーデンパーティーの会場はワイズ公爵家の庭だ。
ガーデンパーティーを開くというのは、庭作りに力を入れているということだ。
主催者の公爵夫妻に挨拶し、庭を褒める。
花々が見事な調和を成していて本当に素晴らしいのだ。
心からの賛辞に気づいたのか公爵夫妻の微笑みが深くなった。
その様子にノークス様はわたしを見て満足そうに微笑った。
今までなら嬉しく思うところだけど、わたしはただほっとした。
あちらこちらで歓談の輪ができている。
ノークス様と会場内を歩き、挨拶をして歓談する。
そうやって何人もの方々と話し、次の輪に向かっていると、
「あら、リーリエ様」
聞き覚えのある声に名を呼ばれてわたしはそちらに視線を向けた。
「あ、トワイト侯爵令嬢、ごきげんよう」
そこにいたのはグレイス様で、紫色のデイドレスをお召しになっている。その場に高貴な花が咲いたかのように美しい。
「ごきげんよう。リーリエ様もいらしていたのですね」
ノークス様は怪訝そうな顔だ。
「リーリエ、トワイト家と付き合いがあったかい?」
「あ、いえ。先日、トワイト侯爵令嬢が栞を拾ってくださって」
「リーリエ様のものかどうかはっきりとわからなくてうちに来ていただいたのですわ」
「その節はありがとうございました」
「ああ、先日、ユフィニー家の馬車がトワイト家を訪れていたというのを聞いたが、それだったのか。トワイト侯爵令嬢、リーリエが世話になったね」
「いえ。お返しできてよかったですわ。リーリエ様、また是非ゆっくりおしゃべりしましょう」
わたしはちらりとノークス様を見る。
ノークス様が軽く頷いたので笑顔で返す。
「ありがとうございます、是非」
「またご連絡差し上げますね」
「はい」
ひらりと手を振ってグレイス様が離れていく。
ノークス様がわたしを見てにっこりと微笑む。
「あちらにザラント小伯爵夫妻がいる。行こうか」
「はい」
ノークス様が少し離れた場所にいらっしゃるザラント小伯爵夫妻のほうに足を向ける。
「トワイト侯爵令嬢とのお茶会は他に誰かいたのかい?」
「いえ、お気を遣ってくださったのでしょうね。二人だけのお茶会でした」
「そっか。その時サージェス殿は屋敷にいたのかな?」
わたしは首を傾げた。
ノークス様のおっしゃりたいことがわからない。
「わかりません。何も言われませんでしたし」
「そっか」
にっこりとノークス様は微笑う。
「リーリエを信じているよ」
どうやらサージェス様と会ったのではないかと疑われたようだ。
何故だろう?
ノークス様の本心を知る前だったら、嫉妬されたのかしら、なんて密かに浮かれることもできただろうけれど。
「はい」
きょとんとした顔をすれば小さく苦笑いされた。
「うん、わかっていないようだから大丈夫かな。眼中にないようだ」
小さく呟かれた言葉はよく聞こえなかった。
「何でしょうか?」
「ううん、何でもないよ」
そう言われてしまえばそれ以上は訊けない。
わたしは大人しく引き下がり、ノークス様がザラント小伯爵夫妻に声をかける隣で笑顔を作った。
読んでいただき、ありがとうございました。




