婚約者とのお茶会
リーリエ視点です。
ノークス様はわたしを婚約者としてちゃんと尊重してくれている。
結婚してもきちんと妻として尊重してくれるだろう。
その役割をきちんと果たしていれば。
でも、もっと『ちょうどいい』相手がいればわたしなど簡単に切り捨てるのだろう。
「どうかした?」
声をかけられてはっとした。
今はノークス様とのお茶会中だった。
定例の婚約者とのお茶会だ。
「あ、いえ、何でもありません。すいません」
「あまり根を詰めないようにね。母上もリーリエはよくやっているとおっしゃっていたよ」
「……ありがとうございます」
優雅に見えるように気をつけて微笑み、頭を下げた。
ノークス様は満足そうに微笑う。
これでいい。
わたしは顔を上げて控えめに微笑む。
一つ頷いたノークス様が話題を変えた。
「リーリエ、ちょっと急なんだけど、五日後は空いている?」
確か何も予定は入っていなかったはずだ。
たとえ予定が入っていたとしても、よほどのことでなければノークス様を優先しないとならないけれど。
今までだったらデートかしら、とそわそわしたが、今日は凪いでおり、どちらかというと少し緊張していた。
「ええ、空いておりますわ」
「よかった。実はガーデンパーティーの招待状が届いていて一緒に参加してもらいたいんだ」
デートの誘いでなくて密かにほっとする。
「わかりました」
「衣装は贈る時間はないから自前で頼むね。ああ、宝飾品は贈るよ」
「ありがとうございます」
だとしたらもう少し情報が欲しい。
主催者や格式で着るドレスが異なるのだ。
「主催者はどなた様でしょうか?」
「ああ、伝えてなかったね。ワイズ公爵家のガーデンパーティーだよ。気楽な集まりだと言っているけれど勿論それなりの装いをしなければならない。ああ、前にノード侯爵家のお茶会の時に着ていたドレスがあっただろう? あれがいいんじゃないかな?」
そのドレスは栗色のシフォン地のもので持っている中でも比較的大人っぽいドレスだ。裾のところに金糸で刺繍が施されており、地味になるのを防いでいる。
「そうします。ノークス様はどのようなものをお召しになるか決まっていますでしょうか?」
いくら貴族とはいえ、毎回ドレスを新調できるわけではない。
装飾を変えたり小物を変えたりして着回すのが一般的だ。
今回はドレスが指定されたので装飾でノークス様の装いと一体感があるようにしなくてはならない。
「僕はリーリエの色を纏う予定だ」
「お互いの色を纏うということですか?」
「そういうこと。ああ、宝飾品はトパーズを使ったものにする予定だ」
「わかりました」
それならばそれに合わせてあのドレスをリメイクしなければ。
帰ったら母や侍女たちに相談しよう。
この婚約は順調であると周囲に示す意図があるのだろう。
少しでも隙があれば突かれる。
それが貴族というものだ。
婚約が順調だと適宜周囲に示すのも隙がないことを示す一環だ。
「お茶会は午後からだからお昼過ぎに迎えに行くよ」
「お待ちしています」
頭の片隅で帰宅後の段取りを考えながらリーリエは微笑んだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




