表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/121

愚かな心の残骸

リーリエ視点です。


夜。

わたしは眠れないでいた。

何度寝返りを打っても眠れないので諦めて身を起こした。

寝台の端に腰を下ろす。


少しだけ開いていたカーテンの隙間から月明かりが室内を照らしていた。

その光の先には花瓶に()けられた薔薇がある。

ノークス様からいただいた薔薇が。


ノークス様はよく薔薇を贈ってくださった。

わたしは室内に大切に飾って、飽きもせずにそれを眺めていた。

それを知っている侍女が気を利かせていつも寝る時には薔薇を寝室に運び込んでくれていた。


今日はその気遣いが、余計だった。

今はあの薔薇を見るだけでつらい。


窓に背を向ける。

見つめるのは部屋の暗がりだ。

月の柔らかい光が差し込むからこそ浮かび上がる闇がそこにはあった。


それはまるで、わたしの心のようでーー


頬をぽろりとこぼれた涙が伝う。

もう我慢しなくていい。

次から次へと涙がこぼれ落ちる。


枕を手繰(たぐ)り寄せ、そこに顔を(うず)めた。

涙は全て枕に吸い込ませていく。

嗚咽(おえつ)も、また。


そうやって泣きながらぽつりと言葉がこぼれ落ちた。


「わたしって、本当に、馬鹿……」


そう、馬鹿なのはわたしだ。

だってノークス様は何も悪くない。

わたしが勝手に期待していただけ。

わたしが勝手に思い上がっていただけなのだ。


好かれている、だなんてーー。


何を勘違いしていたのか。

恥ずかしい。

消えたい。

消えてしまいたい。


見えていない薔薇が脳裏に甦る。

背を向けている窓際に置かれ、月の光を浴びている薔薇。

ノークス様から贈られた薔薇。


あの薔薇にだって何の意味もない。

ただ婚約者に贈るのにちょうどいい花だったから。

ただそれだけだ。

そこに彼の心など何もこもってはいなかったのだ。


そこに勝手にわたしが気持ちを読み取ったつもりになっていただけだ。

薔薇は婚約者に贈るのに一般的な花だという事実を無視して。


だって、そう信じたかったから。

そうであってほしいと願っていたから。


それは全て儚く散った。


ノークス様にとってわたしはただの政略の婚約者。

それ以上でもそれ以下でもなくて。

それはつまり、ーーわたしに対して何の感情もないということだ。


きっとノークス様もわたしが彼に想いを寄せているだなんて思っていない。

(わきま)えているーーとはそういうことだろう。


だけど、

だけど、本当に好きだったのだ。


ノークス様にもわたしを好きになってほしかった。

両親のように想い合う夫婦になりたかったのだ。


きっとその考えは幼いものなのだろう。

誰かに言えば嗤われる類いのもの。


それでも、それが、わたしの小さな頃からの夢だったのだ。

ノークス様となら、それが叶うと思ったのに……。


涙が止まらない。


確かに伝えてはいなかった。

だけど態度にまったく出ていなかったか、と言えばそんなはずもない。

それでも気づかれなかったということは、ノークス様はわたしに何の興味もなかったということだろう。


後から後から涙はこぼれてくる。


今夜だけ。

今夜だけ沢山泣いて、ノークス様への恋心を捨て去ってしまおう。


それがノークス様の望み。

そうしなければ、きっとこの先わたしもつらいことになる。


わたしの気持ちがどうであれ、ノークス様といずれは結婚する事実には変わりない。

侯爵夫人としての勉強も順調に進んでいるし、二家の提携事業も軌道に乗っている。

今さら婚約解消など望めるはずもない。


サージェス様が力を貸してくださるとおっしゃってももう確定事項なのだ。

わたしは自らの恋心を捨て去ってノークス様に嫁ぐ。

だからこれからは信頼できるパートナーを目指さないと。


わかっているから。

だから、今だけは。

叶わなかった想いのために泣いてしまおう。

涙がこぼれ落ちるままに。




ああ、でも本当に、夫婦になるなら、相手を想い合う両親のようになりたかったなーー。


読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ