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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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19/85

あまり追及されたくはないのだが

サージェス視点です。

馬車の前では私付きの従者のアルノーが待っていた。

馬車を回してもらうために彼を先に行かせたのだ。


「遅かったですね、サージェス様。何かありましたか?」


心配の(にじ)む声で訊かれる。

すぐに追いつくはずの私がなかなか来ないので、何かあったのかと心配させたようだ。


ここで言うべきか、中でにすべきか。

(やま)しいことはないのだから、むしろ彼女のためにはここで軽く告げておいたほうがいいのかもしれない。

大したことのないように告げる。


「目に砂が入ってしまったご令嬢がいて、ハンカチを貸していただけだ」


さすがに言葉遣いだけは相手の身分に合わせる必要がある。

基本的に王族・貴族には敬語、それ以外には敬語なしにしている。


「そのお嬢様は大丈夫でございましたか?」

「幸いすぐに取れたようだ」

「それはようございました」

「ああ」


目線で促せばアルノーは馬車の扉を開ける。

馬車に乗り込む。


「サージェス様、このままご帰宅でよろしいでしょうか?」

「ああ」


アルノーは御者に指示を出し、向かいの席に乗ってきた。

扉が閉められ、馬車がゆっくりと動き出す。


「それでそのハンカチはどうされたのですか?」

「ハンカチ? どうとは?」


言った意味が咄嗟に取れなかった。

その私の反応で悟ったらしい。


「ハンカチを返してもらわなかったのですね?」

「ああ。……とても言い出せる雰囲気ではなかったからな」


こればかりは嘘になってしまう。

回収しようと思えばできたがしなかった。

次に会うための口実として置いてきたのだから。


アルノーが何かに気づいたような顔になった。


「それでハンカチを回収し忘れたのですか?」

「……そうだな」

「サージェス様はお優しいところがおありですから」


どうやら別の理由で泣いている令嬢にハンカチを貸したと思われたようだ。

あの言い方ではそうとっておかしくない。

むしろそう思わせた。


「ですが大丈夫でしょうか? そのハンカチを悪用されたりとかは……?」


アルノーの心配は正しい。

だが私はむっとした。

彼女はそんなことはしない。


「大丈夫だろう」


アルノーは訝しげな視線を向けてくる。


「お知り合いでしたか?」

「いや、そういうわけではないが……」


はっきりと言うわけにもいかなくて歯切れが悪くなってしまう。

アルノーの顔が険しくなる。


「お気をつけください。見かけがどれだけ純粋そうでも、したたかなご令嬢というのは五万といるのですからね」


乳兄弟でもある彼は長年仕えてくれているだけあって容赦がない。

心配してくれていることももちろんわかっているが。


「……わかっている」

「わかっているのでしたらやはりハンカチは回収してきていただきたかったですけどね」


アルノーの言葉が説教じみてきた。


「サージェス様はまだ御婚約者様もいらっしゃらないので、その座を狙っているご令嬢方も多いのですからね」

「……わかっている」


昔は幼い頃から婚約して交流を図らせるということがされていたが、昨今では成人してから相手を吟味して決める、ということが主流になってきている。

幼い頃の婚約では相手がどのように育つかわからないし、時流もその時々で変わるから、との考えのもと、らしい。


どちらも長短はある。

自分たちに合うと思ったやり方をすればいいだけだ。


はぁとわざとらしく溜め息をつかれたが無視する。


「……そのご令嬢はどなたなのですか?」


一瞬アルノーになら教えてもいいかと考えたが、回収に行かれても困るのでやめた。


「……彼女も知られたくはないだろう」

「なるほど。誰かはわかっているのですね?」


鎌かけに引っ掛かったようだ。


「それはさすがにな」

「それならば回収もできますね」


ここで彼女の名を明かせばアルノー自身が回収に赴きそうだ。

無論そのつもりはないが、この様子だとあの手この手で聞き出そうとするだろう。

仕方なく告げる。


「心配するな。回収する手筈(てはず)は整えてある」

「それならようございました」


これ以上の追及を避けるために手帳を取り出して開く。

たまたま開いたのが先程お互いに名前を書いたページだった。

不意打ちで彼女の名前が視界に飛び込んできた。



リーリエ・ユフィニー



何度見ても可愛い名前だと思ってしまう。

口許が緩みそうになり、慌てて引き結ぶ。


アルノーは私の手帳を覗き込むような無作法はしないが、念の為自然な動作で手帳を捲った。

白紙のページが現れる。


そこで思考を切り替えた。


ユフィニー家はどんな家だったか頭の中にある記憶の本を捲る。

野心のない、実直な家という記憶がある。

確か彼女の下に弟がいたはずだ。


ついでにフワル家のことも記憶を探る。

二家がどのような政略で繋がりを求めたのかわかれば次の一手の参考になるだろう。

彼女に手を貸すと約束したのだから、きちんと彼女の選択を手助けするつもりだ。

両家の関係についてもう少し調べたほうがいいだろう。


彼女との再会までにやるべきことはいくつもある。

さすがに手帳にメモするわけにはいかない。

頭の中でこれからのことを考えていく。




そんな私をアルノーが探るように見ていることには気づいていなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。


一話の分量が増えてきたので来月から週一の更新に変更します。

また書き溜まりましたら元に戻すかもしれません。

楽しみにしてくださっている皆様申し訳ございません。

毎週金曜日更新の予定です。

よろしくお願いします。

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