誤解されるのは不本意極まりないのだが
サージェス視点です。
目の合った彼女の瞳に一瞬失望が過った。
何故ーー
と思いかけて誤解されたと気づいた。
恐らく、私が動揺したのを見たのだろう。
彼女が失望したのなら、恐らく下位貴族だと知って動揺したのだと思われたのだろう。
ユフィニー家は子爵家だったはずだ。
高位貴族に横柄な態度を取られて嫌な思いをしたこともあったかもしれない。
私も横柄な態度を取ると思われた可能性は十分ある。
相手の身分に合わせて態度を変えると思われたなら先程の失望の感情にも納得できる。
逆に言えば、失望されたということはそういう人物だと思われていなかったということだ。
もともと私は他人にさほど興味がない。
だから相手の身分によって態度を変えるようなことは基本的にはしない。
だからまさかそんな誤解をされるとは思いもしなかった。
当然彼女の身分を聞いても態度を変える気も前言撤回する気もなかった。
私は。
まずい、と思った。
このままでは彼女はやはり、と断りの文句を告げてくるだろう。
思考を巡らせ、それっぽい言い訳を口にした。
「失礼。もっと可愛らしい字を書かれるのかと思っていたら端麗な字で、思わず見とれてしまいました。見とれたことに動揺してしまいまして」
さすがに可愛い名前だと思ったことに動揺したとは言えない。
「そうなんですね」
彼女が信じたかはわからない。
いやたぶん信じてはいないだろう。
どうにか不信を払拭しなければならない。
内心で焦っていると彼女がじっと私を見ていることに気づいた。
何だ? と軽く首を傾げる。
そして気づく。
彼女は恐らく私の真意を読み取ろうとしているのだろう。
何ら疚しいことも含むこともないのでそのまま視線を逸らさない。
不意に彼女の瞳に痛みが過った。
ノークスのことでも思い出したのだろうか?
私とノークスとの共通点など侯爵家の嫡男ということくらいしかないはずだが。
彼女は心配かけまいとしたのかその痛みを心に仕舞いこんだようだ。
物分かりのいい澄まし顔になった。
社交界では正しい表情だろうが、ーー彼女には似合わない。
私の前では痛みも悲しみも隠さないでいいーーそう言うのはさすがに踏み込み過ぎか。
今更隠さなくていいと言えば、少しは彼女の気持ちも軽くなるだろうか?
何故か彼女の瞳がまた揺れる。
何か動揺させるようなことをしただろうか?
心当たりはない。
ふと気づく。
今なら他に気を取られていてそのまま流されてくれそうだ。
彼女が断りの文句を言う前に次の約束を取りつけてしまおう。
そう決めて私は口を開いた。
読んでいただき、ありがとうございました。




