動揺する心
リーリエ視点です。
「もしーー」
彼は言いかけて止める。
どうしたのだろう?
軽く首を傾げて彼をじっと見る。
彼は何かを逡巡しているようだったが、すぐに覚悟を決めたような顔になった。
何を、決めたのだろう?
「婚約者のいる貴女とあまり長く話しているとどんな噂を立てられるかわかりません。ですので後日、場所を改めて」
「は、はい」
頷いてから、後日? と首を傾げる。
そっとハンカチを差し出してくれて話を聞いてくれた。
それだけでもう十分だ。
わたしが口を開く前に彼はさらに言い募る。
「大丈夫です。ここで聞いたことは誰にも言いません。ですが、もう少し、話がしたいのです。貴女が心配なのです」
「心配……?」
「ええ。貴女は一人で何もかもを背負い込んでしまいそうです」
本当に心配しているような瞳をしている。
「そんなことは……」
「ないと言えますか?」
言葉に詰まる。
反論しようと口を開けたり閉めたりするが言葉が出ない。
そうしている間に彼が言葉を重ねてきた。
「貴女の不利益になるようなことにはしません。貴女の心の整理がついたとわかれば私も安心できますし、そうでないのであれば力になります」
そこまで気にかけてくれているとは。
思いがけない言葉に気持ちが揺れる。
とどめとばかりに言葉が重ねられた。
「私の我が儘なのはわかっていますが、駄目、でしょうか?」
ここまで言われて駄目だと言える者はどれだけいるのだろう?
わたしには、無理だ。
小さく、首を振った。
声に出すなんて、とても無理だ。
「ありがとうございます」
誤解もされずにきちんと理解してもらってほっとした。
気づかないうちにうつむいていた顔を上げてみれば、彼は何故か嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
思わず目を瞬かせる。
少し首を傾けた様子から無自覚なのだと気づいた。
動揺する。
幸いなことに彼は気づかなかったようだけど、でも何故?
嬉しそうに微笑った理由が本当にわからない。
しかも無意識だ。
彼を喜ばせるようなことをした覚えはない。
初めて言葉を交わしたわたしと再び会えることを喜んだということもまさかあり得まい。
本当に何でなんだろう?
わたしの動揺と混乱には気づかなかったようで、彼は話を先に進めるように口を開いた。
読んでいただき、ありがとうございました。