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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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自分でも不可解ではあるが

サージェス視点です。

微笑んで「大丈夫です」と言うのは嘘だとすぐにわかる。

彼女はうまく誤魔化せると思ったのだろうが、さすがにわかる。


「無理をしなくて、いいですよ」


今のうちに吐き出してしまえばいい。

幸い辺りには誰もいない。

だが、彼女から聞こえてきたのは別の言葉だった。


「だって、どうにもならないのですもの」


私を見上げてくる彼女の瞳は存外強いものだった。

気を張っているのだろう。

だから結果として強く見据えているようになっている。


本音を話してはいけないと思っている。

当然だろう。

ここにいるのは見ず知らずの人間だ。

本音を聞き出して悪用するかもしれない。

信用されないのも当然だ。


「だからどうかお気になさらず」


やんわりとこれ以上の関わりを拒否される。

ここまで拒絶されたら本来なら退くべきなのだろう。


だが退く気は起きなかった。

何故か。


ほんの少しでいい。

ただ助けたい。


だが本音を言ってくれないと、手を差し出すこともできない。

少しだけでも力になりない、ただそれだけのことだ。


そこに偽りはない。


「私が、力になります」

「お気持ちだけ、ありがとうございます」


やんわりと拒絶される。

本当はそれで手を引くべきなのだろう。

だが、何故か諦めきれない。


心配そうな表情を作った。

いや心配しているのは事実だ。

だから感情のまま出したというほうが正しいか。


何故か逆に彼女の顔も心配そうなものになった。


「誰にも話せないのはつらくありませんか? 貴女は一人でどこまでも抱え込んでしまいそうです」


彼女は何も言わない。


その瞳の中をのぞき込めば本心がわかるだろうか?


いやさすがにそんなことはできない。

何を考えているんだ、と自分に呆れる。


そこに自身への油断があったのだろうか?


「私が味方になります」


するりと言葉がこぼれた。

本心だった。


だが動揺してしまう。

そこまで言う必要はあったのか。


彼女は今日初めて会った赤の他人だ。

他の男の婚約者でもある。

フワル家とは敵対関係にあるわけではないが良好な関係とも言い難い。

それなのに安易に告げていい言葉ではなかった。


ただその言葉は彼女の琴線に触れたようだ。


「彼の傍にいるのは、つらい、です」


ぽつりと彼女が言った。

思わず歓喜に心が震える。


それが少し不可解だ。

本音を話してほしいとは思っていた。

しかし、ほっとするならわかるが、それ以上の歓喜を感じたことに戸惑う。


ぎゅっとハンカチを握った彼女が窺うように私を見る。


私が軽蔑したり、(てのひら)を返したりするか不安なのだろうか?


ここまで来て信用されていないようで落ち込みかけたが、すぐに思い直す。

初めて会った男なのだ。信用されていなくて当たり前だ。


だが何故か安心したように彼女の口許が少しだけ綻んだ。

動揺してしまった私はまた口走ってしまう。


「婚約を、解消は……?」


言ってから馬鹿げたことを訊いたと思った。


家同士の婚約だ。

個人の感情で解消などできない。

ましてや、双方に落ち度はないのだ。

なおさら解消などできない。


それは彼女もわかっている。


「わたしの、失恋くらいでそんなことは、できません。家同士の契約ですから」


だからこそきっぱりとそう言ってのけるのだ。

さらに彼女は続けた。


「愛し合うことはなくとも、お互いを支え合うパートナーにはなれるはずです」


痛みの残る瞳で彼女は微笑(わら)って見せた。

それが痛ましい。


初恋とは潔癖なものだ。

砕け散ってしまえば元には戻らない。

それでいて、砕けた破片は幾重にも心を傷つけ、簡単には忘れさせてはくれない。

婚約者の傍で笑顔の仮面を貼りつけ、何度でも彼女の心は傷つくのだろう。

そして、あの男はそれに気づかない。


思わず手を伸ばしかけ、ぎゅっと握る。

それはさすがにでしゃばり過ぎだ。


だが、そんなふうに微笑(わら)ってほしくない。

そんな痛ましい笑顔は彼女には相応(ふさわ)しくない。

きっと何の憂いもなくふわりと微笑(わら)う姿のほうが似合うと思うから。

きっとあのノークスの元ではこの先、そんな笑顔は見られないように思う。

それは、ひどく不幸な気がした。


読んでいただき、ありがとうございました。

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