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7 ドラゴンです

 部屋の中は一瞬で騒ぎになった。


 窓から覗けば、南の空に何かが飛んでいるのが見える。小さな鳥などではなく、巨大な何かで、しかもそれが一匹や二匹ではなく、何匹も空を飛んでこちらに向かってきているようだった。

 廊下から大声や悲鳴が聞こえて、部屋の中が騒然となった。


「きゃああっ!」

「ドラゴンだ! 逃げろ!!」

「卵を取りにきたんだ! ここから離れないと!!」


 一人がエルヴィールの持っているドラゴンを指差した。途端、悲鳴が高くなり、捕らえられていた者たちが暴れ出す。マントの騎士たちもどうすべきかアレクサンドルを仰いだ。


「待機している者たちに合図を。レディ、その卵を私に」

「無理ですわ」

「それを持っていると、ドラゴンに襲われます!」

「孵化が始まってます。今動かせば、孵化に影響が」


 卵にヒビが入り始めている。動かせば孵化を早めて羽に傷をつけてしまうかもしれない。ここで動いてドラゴンに何かあれば、ドラゴンたちの怒りは止められなくなる。

 アレクサンドルは舌打ちする。ドラゴンの孵化を邪魔するのは悪手だ。


「レディは卵を動かさず、ここで待っていてください」

「おまかせください! ドラゴンには慣れておりますので!」


 エルヴィールはドラゴンの卵を持ったままにこりと笑んで見せた。アレクサンドルは一瞬肩の力を抜きふわりと微笑む。


 その笑顔に、なぜか胸がきゅっと締まるような気がした。


(なにかしら。とっても不思議な感覚だわ)


 顔がほてってくるし、胸が熱い気がする。実際卵に熱がこもっているので、そのせいだろうか。


 数人の騎士を残してマントの騎士たちが外に出て行く。アレクサンドルもその後に続いた。


「ちょっと、アレクサンドル! この紐を解きなさい! 私を見殺しにする気!?」

「こんなところに置いていくな! ちくしょう! 僕を殺す気か!!」

「お父様! なんとかしてください! ドラゴンの卵は安全だって仰っていたじゃないですか!!」

「あ、安全装置を付ければ問題ない。そう言われている!」


 ドロテアの父親が、後ろ手を結ばれて転がったまま顔をエルヴィールに向ける。ドロテアがすぐに安全装置を付けろとがなった。


「無駄ですよ。ドラゴンたちはこの卵の気配に気付いています。孵化が近い卵に装着させていなかった時点で、彼らに気付かれていたでしょう」

「孵化したら付けろって話ではなかったの!?」


 ドロテアは叫び、ドロテアの父親は真っ青な顔をしているが、知識がなさすぎるのだ。ドラゴンの中でも仲間意識の強いダンベル種は、孵化前から卵の気配を感じる力がある。南に生息しているのにここまで飛んできているのだから、もっと前に卵の気配に気付いていただろう。


 卵はパキパキと鳴り続けている。中にいるドラゴンが殻を崩しはじめ、パキリ、と殻が半分に割れた。


「ケ、クウェ、クウェッ!!」


 愛らしい鳴き声を出すと、殻の中からキョロキョロと大きな赤色の瞳がこちらをとらえる。鋼鉄のような硬い赤の鱗を動かして、大きな口から舌を出し、もう一度、「クウェーッ」と鳴いた。仲間を呼んでいるのだ。


「まあ、なんて愛らしいの! よく生まれてきてくれましたね。すぐに親御さんにお返ししなければ。お母さんとお父さんが来ているわ。一緒に行きましょうか」


 羽は広げているがまだ飛べないドラゴンに優しく声をかけると、エルヴィールはただ微笑みかけた。






「ドラゴン騎士団に合図は!?」

「すでにしてあります! すぐに来るはずです!」


 部下の言葉を聞きながら、アレクサンドルは空を見上げる。建物の隙間から赤い軍団が羽を広げてこちらに向かってきていた。

 ドラゴン騎士団とは連携をとっていた。待機していたドラゴン騎士団が灰色のドラゴンにまたがって、赤のドラゴンの方向へ飛び立つのが見えた。


 しかし、ドラゴンにまたがって飛んだところで、怒りを伴っているダンベル種を止めることは難しい。せいぜい他に被害がないように周囲を包囲するぐらいだろう。

 卵が完全に孵りそのドラゴンが助けを呼べば、ダンベル種たちの怒りは収まることはない。


「建物内にいる限り、ドラゴンは攻撃できないが」


 卵の気配は察しているのだから、建物を攻撃すれば卵が下敷きになるくらいはドラゴンも想定する。ドラゴンの知能は高いのだ。ドラゴンの大きさでは屋敷内に入られない。それを逆手に取って、ドラゴンが屋敷の中で孵るのを待つことはできる。

 周囲の建物から人々を避難させるだけの時間は稼げるだろうか。


(だが、その後どうする?)


 密猟を行った者たちも知っていたはずだ。ダンベル種は危険だと。そのための気配を断たせる魔法具も同時に売っていたのだから、付けさせなかったのはバリエンダルの判断だろう。競売に出すのに見目でも気にしたかもしれない。


「愚かにも程がある」


 今言っても仕方はないが、愚痴りたくもなる。

 最後の手段は、卵から孵ったドラゴンを、ドラゴンに乗りながら返すしかない。種類が違うドラゴン同士だが、ダンベル種も無関係なドラゴンを攻撃したりはしない。


「来るぞ!!」

「こちらにいらしたんですね」


 ダンベル種が雄叫びを上げて降り立たんとする時、女性の声が耳に届いた。

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