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3 夜会に参加します

「はあ。パーティでは良い人が見つかりませんでしたわ。これからどうしましょう。どこかに良い男性は落ちていないかしら」

「落ちているわけがないだろう」

「うるさいですわよ、お兄様。やっぱりまた領土へ帰ろうかしら。ここでは体が鈍ってしまいます。ドラゴンたちにも会いたいし」


 最近はドラゴンの卵を盗むという不届きな者も増えている。ドラゴンの卵は高く売れるそうだ。ペットにしたがる貴族はどの国にもおり、売れば多額の金が手に入るとか。そのため、密猟者が後を絶たない。

 我が領土でも卵を盗もうとした輩がいた。ドラゴンたちの返り討ちにあって事なきを得たが、許し難い所業である。他の地域にも種類の違うドラゴンは住んでおり、今はどこでも密猟を警戒している。

 それもあって、もう帰ろうかと算段する。


「茶会の誘いがあったんじゃないのか? それに行ったらどうだ?」

「私を嘲笑の的にしたいのですか?」

「他に招待状をもらっていただろう。あれに行ったらどうだ?」


 兄は聞かぬふりをして別の話に変える。ギロリと睨め付けて、そういえばとその招待状を思い出した。

 元婚約者からいただいた招待状である。特別な招待がなければ入ることができないとかなんとか。


「鼻を高くしてお話ししてましたわね。夜会には興味ありませんけれど、先日は不発でしたし、こちら、行ってみようかしら」

「一人で行くのか?」

「招待状は一枚ですわー」


 一緒に行きたそうな顔をしてくるが、残念ながら招待状は一人一枚である。元婚約者から渡されたので、彼も行くのかもしれないが、そこは無視しておきたい。


「一人で出るのなら、ペルグラン家の者として装いだけは気を付けておけよ」

「承知しております」


 兄に注意をもらいながら、エルヴィールは部屋に放置しておいた招待状を探しに部屋に戻った。






「お兄様は時折過保護でいらっしゃるのよね。私、腕には自信がありますのに。お優しいお兄様にもいい人がいると良いのですけれど」


 ほうっと息をついて、エルヴィールは目の前の荘厳な扉を一人潜る。

 中は人々が集まり華やかな雰囲気で、しかしどこか怪しげな気配を感じた。なんといっても、本日は仮面が必要な夜会である。

 扉前で招待状は渡したが、身元を問われることはなかった。


(これが元婚約者様のおっしゃっていた、選ばれた者だけが来られる場所かしら?)


「選ばれた方々は、少々羽目を外し気味のようですけれど」


 ぽそりと呟き、エルヴィールは部屋の中をゆっくりと進んでいく。

 大広間に入れば談笑している人々がいるが、皆が仮面や仮装のような獣の被り物をしているので、これでは顔どころか目を見ることもできない。


「レディ、どうぞこちらを」


 のんびり歩いていると、さっとグラスを差し出してきた男がいた。

 派手で真っ赤な仮面には、片方の耳の上から羽が何本も生えている。

 あれは貴重な鳥の羽ではないだろうか。珍しい虹色の羽を持つ鳥で剥製にする貴族が多く、絶滅が危惧されている。


(お肉は美味しいのだけれど、あまり数がいないから獲ってはいけない種類になったのよね)


 数年前に禁猟になったので、その前に得た羽だろうか。そんな羽をつけた男から出されたグラス。受け取ると、嗅ぎ慣れた匂いがした。


「この香り。レナ草。ラタの種?」

「なんですか。それは?」


 男はなんのことかと問うてくるが、この匂いを間違えるわけがない。


(毒を抑えるために必要な、レナ草とラタの種をすりおろしたものよね。ドラゴン用だけれど)


 ドラゴンは好んで毒のある草を食べることがある。体内に必要な栄養分がその植物に入っているためだが、その毒消しにレナ草とラタの木の種も食べるのだ。その毒消しは人にも効くのだが。


「人が飲むと量によっては昏倒したり、混乱したりするのですけれど、どうしてそんなものを混ぜたのかしら? 毒消しのためにしては香りが強いので、量が多いような。どこかお悪いのです?」

「な、なんのことですか? いや、あちらでお話をしましょう。こちらに来ているのですから、あなただってそのつもりでしょう。お一人なんですし」


 返事もしていないのに、腕を取られて、エルヴィールはつんのめりそうになる。

 高いヒールを履いているのだから、急に引っ張らないでほしい。あまり履き慣れていないのだ。

 少しばかり気分が悪くなる。失礼ではなかろうか。エルヴィールでなければ転んでしまっているだろう。


(お顔も見えないし、心根も分かりにくいわ)


「さあ、さあ」


 引っ張られるが、エルヴィールはそれ以上微動だにしない。男は力を入れてきた。

 しかし、エルヴィールがまったく動かないので、口元を歪ませる。


「失礼いたしますわ」


 エルヴィールはさっとその手を取ってくるりと捻ってみた。男はあっという間にエルヴィールに背を向けて、背中に腕をつける。


「は? いっ、いたっ!」


 悲鳴を上げられる前にその手を離して軽く押してやると、男はバランスを崩しながらエルヴィールから離れた。何が起きたか分かっていないか。けれど、一瞬の痛みは忘れないようで、口元をぴくぴくと引き攣らせる。


「遠慮しておきますわね」


 エルヴィールはその男の反応も見ずに歩きだす。後ろにいる男を無視したまま、渡されたグラスを仮面を被ったボーイに渡して、きょろきょろと周囲の様子を伺った。

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