第八話 ~逆転の書~
「では検察よ、入廷したまえ」
入り口らしき扉が厳かに開く、今度は似つかわしくないスポットライトが当てられ、一人の女性のシルエットが浮かび上がった。
「はーい! これから法廷に入って華麗な推理をするから、よろしくねー!」
「おー!」
何故か傍聴人と裁判長まで盛り上がる。
一気に法廷は熱気に包まれ、女性が堂々と検察席に立った。
青い髪をしており、衣装は如何にもアイドルを彷彿とさせる物。マイクを握りしめ、法廷の中心に向ける。
「みんなー! もりあがってるかー!」
「うおー!」「青ちゃんかわいいよー!」「こっち向いてくれー!」
「わたしは青空桜花! 青ちゃんって覚えてね!」
ドロシーが冷や汗垂らして、気怠そうに。
「私も異世界に迷い込んできた気がしてきた……」
再び青空にスポットライトが当てられる。法廷の熱気がとどまる事を知らないようだ。
「それでは行くよー! 今日の被告人を紹介! 少女なのに殺し屋をしてて、何百人何千人と人を殺害してきた、凄い子!」
緑埜も特に否定する素振りはなく、寧ろ肯定に走る。
「はい、あたしは様々な人間を殺してきました。間違いありません」
風音がドロシーの方を見て。
「ひ、否定しないとこあちゃんが死刑に……!」
「異議! 私は誰も殺してないと主張します!」
ドロシーの額にマイクが飛んできた。一瞬赤くなる。
「痛い!」
「それはできませんね」
膨大な資料を騎士に用意させ、検察席に机に置く。本当に多く、一瞬机が揺れたくらいだ。
法廷も静かになり、かたずを飲んで裁判長も青空を見守る。
「ここに政府が極秘に集めた証拠が何百個もある。これを一つ一つして行ったら、一生かかっても終わらない。わたしはこの全ての証拠を提出しちゃいます!」
「流石青ちゃんだー!」「カッコいいし可愛い!」
再び熱気に包まれる。一方ドロシーと風音は自分の体の体温が下がっていくのを実感しながら、必死に突破口が無いか思考をグルグル回す。
裁判長がわざと咳払い。
「では、さっそく判決を」
とりあえず異議を唱えようと風音は考えたが、緊張の余り声すら出せず。
ドロシーも似たり寄ったりの状況だった。
そこに、更に人が介入する。
「ちょっと待って頂きたい」
「む? 発言する前に名乗りを上げなさい」
缶コーヒー片手に、異質な状況に手を震わせながらカッコつける。
「俺は一介の名探偵、それだけだ」
ゆっくり弁護席に移動。来て早々ドロシー達に助言の船を渡す。
「いいかお前ら。この状況で無罪を勝ち取るのは正直言って不可能だ。だがな『減刑』という道がある。それで年数のつく罪まで減らせば何とかなる。といいなぁ」
ドロシーが人差し指を自分の額の右側に当て、考え込む。
考え込んだ結果、絶望した。
「でも、100個も罪の証拠があったら、どこをどう攻めれば」
「まあ、奴らの事だから、それ以上洗い出してるだろうな」
マイクをドロシー達に差し向けて、決め顔になる。
「こそこそどうしたの? もう判決決めちゃおうよ!」
「そうですな。では」
一人、ドロシーが手を上げる。
「ちなみにですが、やっぱりこちゃんは死刑、なんですよね」
裁判長は目を瞑り。
「裁判の依頼人から言われてるので、そうする予定ではあるが」
更に考える。内心焦っているが、自身を落ち着かせようともしていた。
「どうしたの? 何か閃きそう?」
考えた結果、閃いた。
「私はその依頼人を召喚したいです。裁判の依頼人が発言を変えれば、罪が変わるのですね?」
提案に困った表情。
「うーむむむ。悪魔でも参考程度ではあるが、大きく変わる事もあるだろう」
「では、お願いします!」
「招致した。騎士達よ、裁判の依頼人を連れてくるように。一時休廷!」
ドロシー達は休憩室へ案内された。
入って早々、風音がドロシーに抱きつく。
「ドロシーさんありがとー! 首の皮三枚ぐらい繋がったよー!」
照れくさそうに。
「そんな大げさな。まだこあちゃんが助かったと決まったわけじゃないし、気を引き締めよう」
まだ缶コーヒーを持つ手をプルプル震わせる六の父親。大体6割飲み干した所だろう。
「その通りだ。依頼人と言うと、やはり風音の父親だろうな」
「うん。お父さん一度思い込んだら絶対そうだと考える人だから、意思を崩すのは簡単じゃない」
ドロシーが杖の真ん中ぐらいを持って腕を伸ばす。
「でも、やるしかないでしょ? こあちゃんの『これから』の為に!」
「……うん。だね! うちも能力使って頑張る!」
「そのいきだ」
騎士が来て、六の父親はビックリして一瞬体が跳ねる。
「裁判の依頼人が来たので、今すぐ入廷するように!」
男達の歓声に包まれる法廷、同じくらいのタイミングでドロシー達と青空は入廷した。
証人席では、伶の父親がドロシーをレーザービームが出るのではないかと思うぐらいの強い勢いで睨む。
「魔女、貴様…‥さっきも言ったが、タダで住むとは思わない事だ」
睨まれた本人は冷や汗をかくも、戻れないと思い発言に出る。
「私はどうだっていい。こあちゃんのこれからを守るだけ」
「そうだそうだ! このダメ親父が!」
「父親に向かって言いたい放題しやがって」
六の父親が俯いて、自分の携帯にある家族写真を見る。
「自分の娘にさえ言われた事ないぞ……」
青空が証人席にマイクの先端を向ける。
「ではライブ特別席のお客さん! ズバリ罰の内容を変える気は!」
「無い。こいつは死ぬべきなのだ。人類の敵だ」
裁判長も畳み掛けるように。
「だ、そうで。これは尺だが、言わざるを得ない。諦めろ」
「やだ!」
風音が必死に抵抗しようとするが、何も言葉が思い浮かばず、この発言に。
「やだ! じゃない。成人してる我が娘なら、素直に発言を受け入れろ」
「やだやだ!」
「あのー……一応裁判なので、もっとキッチリした理由でカタをつけるように」
「そう。気持ちは分かるけど、何か提示しないと動かないと思うよ。って!」
六の父親が缶コーヒーを丁度飲み干す。
「どうした」
「風音ちゃん、成人してたのね。てっきり年下かと」
「うちも年上だと思ってた」
今度は風音の額にマイクが飛んで、思いっきりぶつかる。
「いたい!」
「異議あり! 法廷での雑談禁止!」
「その通りですな」
青空の異議に頷くファン一人。
「あ、失礼しました。で、風音ちゃんのお父さんは娘が駄々こねても意見を変えないのですね?」
伶の父親が両手を広げ。
「自分が愛してるのは亡き妻のみ。今となっては子供など、重荷にすぎんのだ」
ドロシーが急に眉毛を釣り上げて。
「な!」
逆に風音がドロシーを宥める。
「ドロシーさん。怒りたい気持ちは分かるけど、裁判中だし抑えて」
「いいの!? 重荷なんて言われて!」
頬に手を当て、視線を明後日の方向に向けてためいき。
「昔伶を捨てた人だし、半ば諦めてるとこあるかなー……」
バンバン机を杖で叩き、やり場のない怒りを八つ当たりという形でぶつけた。
決めた顔でワインを飲み、怒る人間を高みの見物していた。
急に風音の方を向き、ビックリされる。勢いで杖が風音の頭にクリーンヒット。
「風音ちゃん! この人なんか犯罪とかしてないの!」
「あうう……してるにはしてるけど、今うちらが証明する手段が無いよ」
「ま。そこは緑埜と似たり寄ったり、だな」
杖を思いっきり床に叩きつけ、机を額をそのまま机へダイブ。
「伶を捨て、風音ちゃんを重荷呼ばわり。更にはこあちゃんの命まで奪おうとしている。それなのに、それなのにどうして私は!」
風音も恐怖心で震える。
青空が真顔になり、マイクを机に置く。
「ちょっといいかしら、特別観客席の人」
「なんだろうか」
突然またマイクを持ったと思ったら、伶の父親にマイクを投げつける。華麗に避けられた。
「貴方の意見、肯定できません」
「は?」
辺りがざわつき始める。裁判長も動揺している。
「わたしは真実の味方です。もし真実にたてつこうとするなら、考えがあります」
ドロシーが顔をゆっくり上げる。
「え? ど、どういう風の吹き回し?」
またしても青空がスポットライトを浴び、一瞬静けさが訪れる。
「観客席のみんな、真実の歌が聞きたいかー!」
「うおー!「おー!」
法廷が明るくなり、青空は歌い始めた。しかも内容はフルで、最後まで歌いきる。
歌い終わると、一枚の写真を叩きつけた。金髪の若い男性と、赤毛の女性。夫婦の写真のようだ。
「それは、亡き妻の写真。なぜそれを!」
「わたしの人脈を舐めない事、ですね。ところで思い出しませんか? 妻に言われた事……」
「止めろ! これは裁判と何ら関係無い!」
裁判長は目を瞑って動こうとしない。
「寝るな! 裁判中だぞ!」
「これは命令です。少しの間、黙りなさい」
「何だと?」
「もう二度とは言いません。黙りなさい」
伶の父親はしゅんと黙ってしまう。その光景を、風音は悲しい心境で見ていた。
ようやく状況が呑み込めたドロシーは、床に叩きつけた杖を拾う。
「えっと、口を挟んで申し訳ないんだけど、どういう事?」
青空は、ただウインクした。
「考え直して、本当に緑埜こあを死刑にする事が本望なのかと。わたしはそう思わない」
すっかり意気消沈した伶の父親は、過去の事を語り始めた。
「とある日だ。自分と妻は殺人を繰り返すあの少女を更生させようと誓った。だが、伶が起こした火災によって、妻は亡くなった」
すかさず風音が割り込む。机から身を乗り出す。
「伶はやってない!」
「やってないかもな、だがやってない証拠は無い。自分の思った事を信じるしかないのだ。察しの良い風音なら、誰が分かるかもな」
「それは……分かるけど、うちには追求できない」
ワインを証人席に置き、更に斜め下に俯く。
「hじゃなしが逸れたな。じゃあ何故緑埜こあを憎むようになったかだ。自分は半年の間努力した、したが、いざコイツと対面した時に、嘲笑ってこう言ったのだ」
貴方には無理です。どうあがいてもあたしを更生させるなんて、できません。
ドロシーが弁護席に杖を置く。驚いて、顔の表情が固まったままだ。
「こあちゃんそんな事言ったの?」
「言いました。どうせ殺し屋という憎まれ役、当時は何を言っても何かしら報復を喰らうと思ったのです」
伶の父親が思いっきり檻の方に走って、ガシガシ揺らす。
「だから、だからコイツは死ぬべきなのだぁぁぁ!!!」
息を荒くして、檻をゆさぶり続ける。
「自分は変えん、変えんぞ。妻の想いを踏みにじったコイツが死刑になる運命を!」
その場に崩れ落ちて、何も言わなくなった。法廷も沈黙が支配している。
「……違う」
否定したのはドロシーだった。
「何が?」
目を瞑って、大きく深呼吸。杖の先を伶の父親に向けた。
「怒りと悲しみ任せて全てを判断してるように、私は見える。伶のお父さん、証言台に立ってください。自分が真実を引き出してみせます」
すっかり枯れ果てた声で反論。
「さっきも言ったが、なんら裁判と関係無い」
「弁護側が尋問する事を許可する」
またしても、伶の父親は黙ってしまう。
風音がドロシーを見つめて。
「流石ドロシーさんだ……」
「風音ちゃん、あのね」
「どうしたの?」
もう一度深呼吸。
「何となく感じるの。言葉では表しきれない『違和感』というのが」
両手に拳を作って、ドロシーを応援。
「それ、うちは正しいと思う。ドロシーさんも勘がいい人だからね!」
とぼとぼ歩いていた伶の父親が、やっと証人席へ立つ。凄まじい哀愁のオーラを放つ。
ドロシーが人差し指を振りかざして。
「本当は……」
裁判長、傍聴人、青空、六の父親、風音、誰もが彼女を見守る。
「こあちゃんの事が好きなのでは?」
「は、は?」
「じゅなきゃこんな子を更生させようなんて思わない。ね! 六ちゃんのお父さん」
いきなり振られて、本日二本目の缶コーヒーを落としそうになるが、何とかこぼさずに済んで一安心。
「お、ああ、勿論だ」
「好きだったかもしれないな。今となっては過去形に過ぎん」
「そんなはずない! 本当に嫌いだったら無視しようと思うはず。伶に会いにきたのだって、きっと気にしてるから!」
「やめろ。そんなわけない」
「私は諦めない!」
六の父親が缶コーヒーの三杯目を手にしかけ。
「待て。今のまま論争を続けても、水掛け論のままだ。何か緑埜が好きだった証拠は無いのか。風音、何か持ってるだろう」
「んな事言われてもー……」
持っていたバッグをガサガサ漁り始めた。
「そうですな。私めから見ても、有効な論争とは思えなくなりました。ただの言い合い、とそう言わざるを得ません」
青空がお願いのポーズをして、目をうるうるさせる。
「お願い。彼女たちの考察を続けさせてあげて」
「うーむむむ。息子がファンの青ちゃんに言われると……では、少しの間だけチャンスを与えましょう」
「ありがとう」
風音が青空に向かって棒つきの飴を投げ、ナイスキャッチ。
「青空ちゃんって意外といい子なんだね!」
「意外とって失礼な! まあ、とりあえず頑張ってね!」
仕切りに風音の方をちらちら見るドロシー。傍聴席も妙なざわつき方に切り替わる。
「ほら、何でも家族に関係ありそうな物とか出して! 時間が無い!」
「えーっとえっと」
取り出したのは一枚の家族写真で、風音の部屋にあった三兄弟に咥え父親、四葉のクローバーの髪飾りを付けた母親らしき人物が写っていた。
奪い取るかのように取り、目を仕切りに動かしながら、何か突破口を探す。
必死に数分も探したが。
「何も見つからない。ここから何を探すって言うの……」
腕を伸ばして両手を机に置き、ヒラヒラと家族写真が机の上に落ちる。
焦った風音。
「もう、いっそ裁判無視して救い出すのも!」
「ダメだ。お前まで更に罪を重ねるつもりか」
必死に止める六の父親。
思いっきりドロシーが頭を掻き毟る。帽子が床に落ちて、たまたま手に当たった髪飾りが家族写真の上に落ちた。
「こあちゃんが! 伶の人生が! 私が不甲斐ないせいで終わっちゃう!」
音に気付いた風音が、机をぐるっと回ってドロシーの前に立って、机をバンバン叩く。
「ドロシーさん! ねえ、ドロシーさん!」
「うるさい! こあちゃん死んだら、私も一緒にあの世に行くんだ!」
家族写真と髪飾りを持って。
「あのね! 突破口見つけたかも!」
掻き毟るのをとめ、顔を上げる。
「……本当? 嘘、じゃないよね」
風音の持っている写真と髪飾りを見て、やっと類似してる点に気づく。
それを見た伶の父親は。
「おい。何故貴様が妻の形見を持っているのだ。紛失して、ずっと見つからなかった物だぞ」
四葉のクローバーの髪飾りを持ち、緑埜の方を見る。
「これはこあちゃんから譲り受けた物。こあちゃんが持っていたという事は、貴方の妻がこあちゃんに渡したのでは?」
ワイングラスを握りつぶす。
「そんなバカな。死ぬ前日までつけていた」
「前日にこあちゃんに渡したと言えばつじつまが合う! でしょ? こあちゃん」
こあが初めて立ち上がって。
「はい。あの火災が起きる前日、こっそりあの方が会ってきて、応援してるからって、この髪飾りをくれました」
ドロシーが裁判長を指さして、大声を上げる。
「本人が証言してくれました。証拠も出た以上、議論の余地はあるかと!」
頷く裁判長。
「ええ、十分です。議論を続けなさい」
「自分も気になる。緑埜が盗んだのか、妻が渡したのか……」
「こあちゃんが盗んだ証拠はないよ!」
「渡した証拠もないな」
「そんな!」
緑埜が涙を流す、震えた声で。
「あの方は本当にあたしを想ってくれたのです! そんな方の物を盗むなんて、できません!」
伶の父親が腰に手を当てて、少し角度をつけて。
「今更良い人ぶったって遅い。貴様は自分が判断を変えない限り、死ぬ運命なのだ」
今度は風音が父親の前に立って、同じポーズで。
「もうウンザリだよ!」
ポーズを変え、腕を組む。
「何?」
「好き放題例を捨てて死ぬべきと言ったり、うちに酷い事言ったり、自分達三兄弟はお父さんの所有物じゃない! 酷い、酷すぎる!」
もう一度ワイングラスを握りつぶす。
「黙れ。所詮お前は、自分無しに生きられないのだ」
「伶はお父さん無しで生きてるもん。うちらだって!」
「あー言えばこう言いやがって……!」
何かガチャリ、みたいな音がする。全員が音の方に視線を向けると、いつの間にか脱出した緑埜が、伶の父親に向けて大型の銃を構えていた。
「すべての武器を取り上げたはずだ。なぜ、武器と持っているのだ!」
突然の事に汗が止まらない。それもとびっきり熱い汗。
「それは企業秘密ですね。まあ、死ぬ運命の貴方に教えても意味が無い、とも言えます」
ドロシーは真っ直ぐ緑埜の方を見て。
「それが、こあちゃんの答えなのね」
そして心配そうに緑埜を見つめる風音。
「こあちゃん……」
「待ってくれ。貴様ら、助けてくれよ! 法廷だろ、騎士を出せ!」
裁判長が首を横に振った。それは重く動く振り子時計のようにも見えた。
「それはできません。検察が伝説の殺し屋と証明してかつ、脱出してしまった以上、取り押さえに行くだけ無益」
弁護席の方に首を動かす。
「うっ、なあ風音」
風音は俯いて何も言わない。
「魔法使いのお前」
ドロシーも俯いて、何もしようとしない。
今度は検察席に首を動かす。
「検察、助けてくれよ」
青空は机に腰をかけて、聞く耳すら持とうとしない。
「誰も、味方はいないのか……チクショウ!」
両手の拳で思いっきり証言台を叩く。凄まじい地鳴りが法廷に響いた。
緑埜が的確に左胸をロックオンし、引き金に指が当たる。
が、法廷の扉は厳かに開かれた。
最後に現れた人物に、ドロシー達はこの世の物ではない物を見るかのように驚く。
「伶? どうしてここが?」
「わからない。おとうさんがきけんな気がした」
伶既に泣いていたが、更に多くの涙を流し、緑埜に抱きついて撃つのを止めようと試みる。
風音が今にも身を乗り出しそうな雰囲気で。
「伶を捨てた父親に報復できるんだよ? どうして、助けようとするの?」
「すきだから!」
緑埜に振り払われたが、大型の銃はどこかに滑ってしまう。
「やめて! 君まで巻き込みたくありません!」
「嫌だ! これいじょうかぞくがしぬのを見たくない!」
しばらくの揉みあいの内、やっと緑埜側が諦める。
「分かりました! ドロシーさんが信頼する伶君の頼みなら、殺すのはやめましょう。でも罰は受けるべきです!」
今度は小型の銃を取り出して、足に銃弾を命中させた。
裁判長の指示で伶の父親は医療室へと運ばれる。
すぐにドロシーは伶に近づいて、膝をついて抱きつく。満面の笑みで頬を擦り合わす。
「やっぱり、伶は私の思った通りの人だったよ」
裁判長がまたもわざと咳払い。
「え、依頼者が倒れ、満身創痍が解放された以上は心理の続行が不可能となりました。それでは判決を下したいと思います」
全員が裁判長の判決を、心臓をドキドキさせながら待つ。
「その前に一つ、緑埜こあに確認したい事がある。判決を呑んでくれるだろうか」
「中身次第では」
「うむ。では『緑埜こあが普通の少女に戻る系に処す!』」
ドロシーが拍子抜けしたように。
「し、死刑じゃないの?」
「自分なりの優しさ、受け取るが良い」
「……悪くないですね。その罰を受けるとしましょう」
黙ってたと思った青空が手を上げ。
「はいはーい! 注目してくださーい!」
ざわめく傍聴席と弁護席。
「わたし青空桜花も、アイドルから、普通の女の子に戻りまーす!」
「えー!?」「なんだとー!」「そんな!」
風音が頬を手に当てて、首を傾げ。
「そ、そう。良かった。のかな?」
「アイドルの衝撃的な引退宣言もありましたが、全員が無事で何より。以上で閉廷!」
翌日。緑埜の部屋に、こあとドロシーと伶の三人。
伶は疲れているのか、すっかり眠っている。
ドロシーが照れくさそうに髪飾りをいじり。
「結局、この面子だ」
こあも照れてるのか、若干頬が赤い。
「それも伶君がいてくれたからですよ。日常ってありがたい事です」
「ね。……私達も寝ようか」
「そうですね」
いつも通りいきなり勢いよく玄関を開ける六。
「おはよー! 伶君とドロシーさんとこあちゃんー」
「あ、おはよう! 急にどうしたの?」
背後には六の父親もいた。
「風音のやろうに伝言を頼まれてな。パーティ開くから別荘に来い、と言っていた。俺は出ないつもりだがな」
「伝言ありがとう! 行かなくていいの?」
「いい。水を差すと悪いからな」
六がホットドッグを食べる。
「残念だよー。僕は先に行くー」
こあが伶を起こして、手を引っ張って外に連れ出す。その後を追いかけるように、ドロシーも駆け出した。