第六話 ~風音ちゃんの書~
風音が伶に向かって宣言する。
「うちもドロシーさんみたいにデキる女になる!」
伶は特に何も言わないが、怪しげな目つきで見返した。
「大丈夫だよ! 色んな事件や依頼は解決してきたし」
「ぼくねむいからねる」と、そっぽを向く。
言われるや否や、ベッドに腰掛ける伶の肩を揺さぶる。
「お願いー! 頼ってー!」
「昔からお姉ちゃん、じけんのかいけつ以外だめじゃん」
部屋の隅で、角に向かって体育座りで落ち込んでしまう。それを気にする様子も無く、本当に眠り初めてしまった。
伶が眠ったのを確認して、寝てる中横に立って、落ち込んだ表情を浮かべる。
「自分って、役立たずなのかな」
しばらく見つめたのち、女性の執事が風音に報告に来た。
「あの、玄関に知らない人が立っているのですが……」
「うん? うちが見に行く」
流れるように案内され、大きな玄関の扉をくぐる。
銀髪の例の子、緑川六が物珍しそうなのを見るように、別荘を眺めていた。
ゆったりと近づき、六が風音に手を振る。
「あー! 人いたー!」
「君は? うちは猩々緋風音」
「僕は緑川六」
六を品定めするかのように、目を凝らして体の隅から隅まで拝見。
「へー。結構いい子なんだね!」
「どういうことー?」
「あ、いや気にしないで。とにかく、こんな山奥にどうしたの?」
困り顔で唇に人差し指を当て、体を揺らす。
「道に迷っちゃってバス間違えてー。新都に戻りたいんだけど、歩いて帰れるかなー?」
「ここ新都から結構遠いけど」
六が仕切りに腕時計を気にする。
「ええー? またお父さんに怒られるー。でも帰らないと」
「今日はもう遅くなると思うから、うちの家に泊まりなよ!」
「ありがとー。お邪魔するねー」
何の遠慮もなく風音を横切った。
後を追いかけるように風音も蜻蛉帰りして、六を自分の部屋へ案内。
部屋についていなや、六が歓声を上げた。
「わお。伶君が寝てるー」
「伶と知り合いなの?」
「そうだけど、風音さんも知り合いー?」
「知り合いっていうか、兄弟なんだよね」
六は持っていたホットドッグを拭いて、露骨に驚く。
「ええー? 全然雰囲気違うよー」
「そうだね。うちたちにも色々ある」
いきなり携帯の着信音が、陽気なメロディを乗せる。携帯の主は六。
「六! お前どこにいるんだよ! 俺から離れたら何やらかすか分からん!」
頬を染めて片手を手に当てつつ、目をやたらと光らせる。
「許してー。今新都から結構遠い所にいるから、よろしくー」
「ふざけるな――――」ブツッ。
風音が苦笑い。
彼女らが騒いでいるにも関わらず、伶はすーすー寝息を立てる。
「後でメール送っておこー」
日が暮れた頃、やつれた表情で別荘に六の父親が到着。六と風音が門の所まで来る。
「六が山奥にいると聞いたが……謎解かない少女、なぜお前がいるのだ」
「うちの別荘だからね、んで、六ちゃん連れて帰るんでしょ? 優秀な探偵さん」
六の父親が空の缶コーヒーを握りつぶす。
「その呼び方はやめてくれ」
一方六は風音の腰をがっちり捕まえ、後ろから覗き込むように自分の父親を見つめる。
「怖いよー。お父さんも風音さんも喧嘩しないでー」
「そいつは敵だ。今すぐ離れなさい」
風音が右手を振りかざす。
「敵対してるのはうちと探偵のオジサンだけ! 自分と六ちゃんに敵と言う関係はない!」
「そうだよー。風音さんと僕は仲良しだよー!」
「……勝手にしろ。とにかく帰るぞ」
強引に六を引っ張り、連れ帰った。




