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第四話 ~過去の事の書~

 まだ薄暗い緑埜の部屋に、いつも通りのように寝る伶とドロシーと、部屋の主である緑埜の三人。だが、珍しく伶は早起きし、特に意味もなく部屋を出ていつも通っていた公園に立ち寄った。

 脇の方に鎮座されていたベンチに座り、うたた寝しようする。

 そんな少年の前に、身長の大きな金髪の男性が、鬼の形相で立つ。

「……あ、おとうさんだ」

「貴様、まだ生きてたんだな」

「うるさい」

 伶の父親は腕を組んで、冷たい目で自分の息子を見る。

「まあ、縁を切ったお前に何を言われても響かんな」

 自分の父親に酷い事を言われても伶は特にアクションを起こさず、淡々と返す。

「じゃあ何しにきたの」

「そうだな……生きてるという噂を聞いたから、その確認だな」

 伶は黙ってしまった。その代り、棒つきの飴を咥える。

「愚問かもしれないが問おう、なぜ生きてるのだ」

「いわない」

 父親はそっぽを向いて、タバコを吸い始めた。

「妥当だな。じゃ、帰るから。生きてて残念だったよ」

 捨て台詞を吐いて、どこかへ歩いて行ってしまう。

 表情を変えないまま、ただ伶はベンチに座っていた。

 入れ違いで伶を探していたドロシーが、見つけるなり笑顔に切り替わる。

「誰と話してたの?」

「おとうさん」

 ドロシーはおねだりのポーズをするように両手を握って。

「へー、すごい頭の良さそうな人だね!」

「…………」

 また伶は、遠くを見るように黙ってしまう。遠くを見てると言っても何かあるわけではなく、ただ景色を眺めてるようでもあった。

 何となく悪い雰囲気と考えたドロシーは。

「さ、帰ろう。こあちゃんまだ寝てるけど、きっとそろそろ起きるよ」

「うん」

 部屋に戻って、ドロシーがふんふん鼻歌を奏でながら料理。伶もそれとなく料理に付き合う。

 ちらっと伶が緑埜の方を見て。

「おこした方がいいかな」

「いや、怪我してだいぶ弱ってるだろうし、そっとしておこう」

 呼ばれたのに気付いたかのように、緑埜は起きて腰だけ起こす。

「あ、おはようございます」

「おはよう!」

 伶だけつまみ食いをしながら。

「おはよ」

「まだいたのですね」

 ドロシーがお玉を持ちながら緑埜の方を向き。

「まだ元気じゃないみたいだから」

 否定するように、緑埜が首を左右に振る。

「もう大丈夫ですから、新しい住居探してください」

「だめ!」

 緑埜が人差し指を自分の顎に当てて、考え込むように視線を下へ向ける。

「本当に優しいです」

「照れる! 私は人として当然のことをしてるだけ。ささ、料理できたから食べなよ」

 緑埜は不器用に作った笑顔を見せた。

「はい、いただきます」

 美味しそうな料理が並び、ドロシーも食べ始める。自分で自分の料理を自画自賛。

 伶はつまみ食いしすぎてお腹いっぱいで、置いてあった漫画を読み始める。

 勢いよく玄関が開く。

「遊びに来たよー!」

 六が立っていた。

 まるでここに住んでる人のように、ドロシーは振舞う。

「あらいらっしゃい」

 湯気が立つ料理を目の前に、目を見開きながら、物欲しそうに見る六。ドロシーはそれを察し、一緒にお食事を誘う。

「いいの? ありがとうー」

 緑埜は、優しい表情で一連の流れを見ていた。

 漫画を読んで暇そうにしている伶を見たドロシーは、呆れたかのように柔らかに説教した後、お使いへ出かけさせる。

 六がドロシーの方を見て、じーっと見つめられてる事に気づいた。両手を頬に当てながら染めて、体を左右にくねらす。

「僕、ドロシーさんに見つめられると、照れるー」

「やっぱり、君達なら頼める」

「何がー?」

 急にドロシーが真面目な表情になり、財布の中身をチェック。

「六ちゃんのお父さんって探偵でしょ? 頼みごとがあって、伶の事を調べてほしいの」

「分かったー。メール入れるー」

「お願いね」

 数分してすぐに六の携帯に返信が入る。が、特に報告もせず、更にメールを返す。

 ことが始まってから10分ほど。

「タダでやってくれるってー」

「あ、そう。じゃあお言葉に甘えて」






 時は夕方。緑埜の部屋に、直接六の父親が訪問。伶はと言うと、昼寝の真っ最中であった。

「娘から聞いたが、伶君の事を調べればいいのだな」

「お願いします。そろそろ、彼の事を知らないといけない気がして」

 左手で缶コーヒーを握りしめつつ、右手で六の頭を撫でる。

「うむ。彼は猩々緋の者だろう? 我々が住んでる『大都市』の、有名なお金持ちで、警察関係の人間が多い家系、という所まで知っている。なぜこの子が勘当されたじゃは、調査が必要だ。それにしても、娘が自由な子すぎて、この依頼をタダでやらないといけないのだが……」

 被せるようにドロシーが六の父親から距離を詰める。

「ありがとうございます! 調べるのはゆっくりでいいので、真実を調べて!」

「……ああ、勿論だ」





 数日後。ドロシーが働くレストランに、六の父親がやってきた。ドロシー本人はと言うと客人が来たと言われ、六の父親とは反対側にある椅子に座る。場所は客が食事を取る広間で、ここで良いと言ったそうだ。

「こんにちは、来たという事は、分かったのですね?」

「そうだ、だが、一つ約束して欲しい事がある」

 ドロシーの表情が曇り、客のざわめきすらも聞こえないような錯覚へ陥る。

「決して伶君を捨てる真似はしない、と誓ってくれるか」

「そりゃあ、彼の悪い所も沢山見てるし、今更捨てるなんて」

 注文で頼んだ珈琲を一口飲み、首を小さく左右に振った。

「今まで以上の主ににはなるだろうな。まあ、そこまでの覚悟があるなら話そう」


 その昔、遠くの場所にあった豪邸で大火災が起きた。女性が亡くなった。

 警察でも上の方にいる人の妻が亡くなり、警察達、またその関係者は血眼になって犯人を捜した。

 捜したが全く目星がつかず、焦った警察の人達は猩々緋伶を犯人として挙げる事にした。

 妻の夫は激怒し、彼を追い出した。


 ドロシーは涙を流しながら、机に手の平を思いっきり打ち付け、六の父親に訴えかける。

「そんな、あの子放火なんてする子じゃないよ!」

 珈琲を飲み干し、落ち着いて手を小さく左右に振る。

「実際は分からないがね。だが、見てきた限り、放火するほどの勇気を持っているとは自分も思えない」

 立てかけてた魔法の杖をドロシーが持ち、立ち上がる。

「……私、決めた」

「何を?」

「お母さんから聞いた事あるの。何でも謎が解ける『謎解かない魔法の書』があるって」

「で、それを探すと?」

 涙をハンカチで拭く。

「はい! それを見つけて習得すれば、伶の冤罪を晴らせるはず」

「魔法が実在するかは分からないが、頑張りたまえ」

「では、私は忙しいので、ここで仕事に戻ります」

「ついでだからここで食事をとるよ。じゃ、また会えるといいね」

 二人は解散して、二人は日常へと戻る。

 その日、ドロシーは職場に辞表を出した。

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