第一話 ~銃口の書~
雲一つ無い晴れた日。ドロシーは怜を連れて、同年代である19歳の友人の所に尋ねた。
どうやらその友人は大家をしている人の娘らしく、知り合い特権でタダで部屋を借りれたらしいが、友人は伝言でとある条件を提示する。
「ごめんドロシー。少しの間だけシェアルームしてくれない? 相手は何かよく分からない少女らしいんだけど」
「よく分からない少女?」
「ま、とりあえず会ってみてって事で」
半ば強引に引っ張られる感じで、小さなマンションへと引き込まれる。
ドロシーは部屋をノック。聞くだけで分かる幼い女の子声の返事の声。恐る恐る扉を開けると、ぺたんと座ってテレビを眺める、緑色の髪をして濁った瞳をした、可愛らしい子がドロシーと怜を見た。
「貴方達が大家さんが言っていたシェアルームする人達なのですね」
「本当に少女なんだ」
と、ドロシーは感動したように小さく漏らす。
「あたしは緑埜みどりのこあと言います。お名前は?」
「私はドロシー フォードで、こっちの大人しい子は猩々緋 怜と言うの。よろしくね!」
無理矢理怜にも頭を下げさせる。
「よろしくお願いします」
荷物の置き場所等を確認し、ドロシーは怜を部屋に置いて買い出しへ。
緑埜は座ったまま怜に近づき。
「おやつあげましょうか?」
「うん」
こあはポケットからおもむろに、ドロドロした肉片を取り出す。
怜の顔が引きつって、少し距離を置く。
「……気持ち悪い!」
「美味しいのに」
と、緑埜はしょんぼりしてしまった。
閃いたのか妥協案なのかは定かではないが、緑埜が伶の手を引っ張って、扉を開け。
「お菓子買いに行きますよ」
「いく」
繰り出したのは何の変哲も無い商店街。相変わらず伶は煙たがられるが、緑埜も含め気にする様子は無い。
「伶君はどんなお菓子が好きなのですか?」
「ぼうのついたあめ」
「そうですか。じゃあそこのお店に行きましょう。美味しいお菓子がいっぱいあるので、好みの物があるかも」
紹介されたスーパーに立ち寄ろうとした所で、二人の背後に4人ぐらいの集団が立ち寄り「おい! お前ら」と声をかける。二人は振り向く。
「前の時の復讐だぜ!」
以前の高校生3人組みと、
「よくも可愛い子分を可愛がってくれたなぁ?」
それに加え、親分的一回り体格の大きい男。
だが、緑埜も伶も動じる事は無く、ただ突っ立つ。
周囲の雰囲気が悪くなり、徐々に人は減る。
こあが尻ポケットをいじりながら、ジト目で不良達を睨む。
「あなたも大変なのですね。とりあえず、あたしが片付けますから」
親分が「ああ?」と片方の眉を上げ、一歩前に出て。
「こんな幼い奴らが俺様たちに勝てるわけねーだろ!」
相手達の提案で、この前いた河川敷の橋の下に移動。さらさらと風が小さな花を揺らす。
移動して早々、大きな銃声が鳴り響く。
親分の足、ズボンの上から赤い染みが出て、それがどんどん広がる。
怯えに怯えきった子分達は逃げ、その場に3人だけが残った。
緑埜が倒れた親分にのしかかり、鼻根に銃口を押し付ける。
「降参すれば特別に子分の命だけは助けましょう。しなければ諸共、ですね」
親分が激しく震えて、口からよだれすら垂らす。
「俺様が助かる道は無いのか?」
「残念ながら」
返り血の対策で距離を置き、もう一発銃声が鳴り響く。
緑埜が伶の手を引っ張り、沢山置かれたゴミの山の影に隠れる。伶もまた、強く震えていた。
緑埜が目を仕切りに動かし辺りを警戒しながら、銃をホルスターにしまう。
「この事はくれぐれも秘密です。ドロシーさんにも内緒ですよ」
「う、うん」
少しして野次馬ができ、緑埜の誘導で野次馬の中へ、そして何事も無かったように部屋へ帰宅する。
緑埜が何事も無かったかのように料理を初め、横目で伶に問う。
「あたし怖いですか?」
「こわい」
「貴方は撃ちませんよ。守られてますからね」
それでも震えて、布団の中で毛布を抱く。
料理が出来上がった頃に、ドロシーが帰ってきた。伶は寝てしまう。
緑埜が伶を優しく起こして「食べましょう」と提案。仲良く3人テーブルを囲んで食事を取り始めた。




