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第8章:黄犬、悪魔、余裕の戦闘?

「キエロ…フシシャ!」

 リーダー格らしき「犬」が喋ったかと思うと、犬にしてはありえない脚力でこちらに向かって飛び掛る。

 口からむき出した牙を、私に突き立てるべく。

 だが甘い!

 私は抜き払っていた剣を横に薙ぎ、その牙を叩き折ると同時に、その勢いのまま相手の体を吹き飛ばす。

 こっちだって、今まで悪魔相手に戦い抜いてるのよ!中には人型とか悪魔の上位に位置するデビルとかも相手にしてるの!

「『ギンパツノ アクマ』ノ イミョウ…ダテデハ ナイナ。」

「『銀髪の悪魔』って呼ばないでくれません!?私、その呼び名が何より嫌いなんです!」

 悪魔の言葉に僅かに苛立ちながらも、私はゆっくりと相手との距離を測る。

 ラギス、ディール、ダルの3人は、各々他の「黄色い犬」を相手にしているようだし、早めに決着つけて加勢に行った方が良いかもしれない。

 ディールはまだ良い。アイツは曲がりなりにも魔王の分身、この程度の悪魔相手に、負けるとは思えない。

 問題はラギスとダルだ。

 ダルは神官と言う職業上、あまり戦闘には向いていない。魔法を使うにしろ、僅かな詠唱時間と言うものが必要になるが…今の「犬」の動きから考えると、その詠唱時間を与えてくれるとは思えない。

 そしてラギス。あれは別の意味で心配だ。

 何しろ、デビルを倒すために城の塔を1つ壊滅させた前科がある。悪魔殲滅のためなら、多分、手段を選ばないだろう。それじゃ流石にまずい。

 ラギスの事だ、下手をすると魔王の分身であるディールごと悪魔達を倒しかねない。そして、「巻き込んじゃいました、テヘ」とか言ってうやむやにするだろう。

 …悲しいかな、その様子が容易に想像できてしまう。

「カンガエゴトトハ ヨユウダナ!」

 おっとしまった、今はとにかく、目の前の敵に集中しないと!

 飛び掛り、襲い来る犬達を次々に薙ぎ、一匹、また一匹と悪魔達を黒い靄へと還していく。

「質より量…そういう考えで私達を倒す気だったのであれば、それは過ちだと言う事、教えて差し上げます。」

「シツモ リョウモ ソロエタツモリダ。キサマコソ ワレラヲ アマクミルナ。」

 ……質も量も揃えた…?

 訝るより先に、体の方が動く。多方向から同時に襲い掛かる犬達を、その場でくるりと回りながら叩き切る。

 さっきまでとそう変わらない実力…そう思っていたんだけど……

 2つに割った犬の体が、見る間に再生していく。しかも、割った分だけ増えている。

 うわぁおぅ。成程、分裂してくる訳ね。ってさっき叩き斬った奴、普通に靄になったじゃないの!?

「サキホドマデノハ タダノ ステイシ。」

 捨石って。

 苦笑混じりに思いつつも、私はリーダーらしき犬を真っ直ぐに睨みつける。私に斬られ、それ故に数を増やした犬達がぐるりと囲んでおり、リーダー格の犬はその人垣…と言うか「犬垣」の向こうで、ニヤニヤと牙を失くした口で笑っている。

 うん、見た目に情けない。

 こう言う時の定石は、トップを叩く事にあるんだけど……そう簡単には通してくれそうに無い、か。

「イケ!」

 って考えてる最中に号令!?

 リーダーの命令の元、囲んでいた黄犬達が一斉にこちらに向かって襲い掛かる。

 人間ならおそよ死ねる部位…急所とも言うべき箇所に向かって、その角を、牙を突き立てるべく突進するが…甘い!

 真っ直ぐに急所を狙ってくるのは、確かに正しいかもしれない。並の人間ならば、間違いなく死ぬだろう。

 しかし…残念ながら、私とてそれなりの場数を踏んでいる傭兵。軽く上へと飛び上がる事で、犬の突進を回避する。

 目標を見失った獣達は、互いにその角をぶつけ、噛み付きあい、やがて地面に転がりその場でのた打ち回る。

 よし、狙い通りの相打ち!それを確認すると、私は下で群れる獣の体を踏みつけ、そのままリーダー格の歯抜け犬に向かって駆け抜ける。

 うう…足場が悪い!何か動物愛護団体からクレーム来そうな光景だけど、流石に相手が悪魔じゃそうも言ってられないし。

「ナニ……!?」

「こっちも場数、踏んでるんです!」

 慌てて飛び退く黄犬。だが、遅い!

 私の剣は相手の喉を捕らえ、突撃した勢いのまま刃先をずぶずぶと沈める。

 私の剣は、ダル曰く、かなり強力な魔剣。通常の剣ならば悪魔に傷すらつけられないが、この剣はいとも容易く悪魔を切り裂く事が出来る。

 …いや、まあ、ヘルゲート・ソードに耐えられるって時点で、普通の剣じゃないんだけど。

「ギャウン!」

「申し訳ないけれど…消えて下さいね?」

 ジタバタともがく相手など、全く気にも留めず、にっこりと笑いながら無慈悲な宣言を送る。それを聞いた相手は悔しげに一声吠え……そのまま、黒い靄へと還っていった。

 同時に、周囲を囲んでいた犬達も、途端に苦しみだして見慣れた靄へとその姿を変える。

 実体を保てなくなった悪魔の、なれの果てだ。

「どうやら、何とかなったかしら?」

「お疲れ、ルフィ姐さん。いや~相変わらず見事な剣さばき。惚れ惚れしちゃうね。」

「流石です、ルフィ様!これ以上増えるようだったら、僕、竜の息吹を使って一掃しようかと思ってました!」

 ディールとラギスが、にこやかな笑顔を向けながら、余裕気な表情で声をかけてくる。

 ……やっぱりラギス、あんたは物騒だわ。本当にそんなんで竜王になれるのかしら……?

 …って、ダルは!?

 唯一声をかけて来なかった男を捜し、きょろきょろと周囲を見回すと……居た。

 肩で息をし、片膝を大地につけながら、既に消え去った犬達の痕跡を睨みつける青き神官の姿が。

「無事…じゃなさそうね……」

「いや、大丈夫だ。避けまくるのに体力を使っただけで。」

 軽く笑いながら、茶化すようにダルは言う。確かに、本人はボロボロのようにも見えるが…服には破れどころか解れも無いようだし、相手の攻撃は貰っていないらしい。

 多分、本人の言葉通り…体力がついて行かなかったのだろう。

「全く…なさけない。」

「面目ない。」

 まぁ…無事なら良いけど。

 そう胸を撫で下ろす私の笑みに気付いたのか、ダルも少しだけその口の端に笑みを浮かべ…その瞬間だった。

 私達の背後……ロンジュの、街のある方で、大きな爆発が起こったのは…。


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