第5章:竜王、魔王、最悪の一行
「ルフィ様、こいつは…」
はぅあっ!ついついラギスの存在忘れて、目の前の存在に見入ってしまった!
けど…この状況、不味くない?
言ってもラギスは次期竜王、そしてディールは魔王の分身。
水と油のようなこの2人がであって、和やかな雰囲気になるはず無いじゃない!
さぁっと顔から血の気が引く私に気付いているのかどうなのか、物凄く険のある顔で、ラギスはディールを睨みつけている。
睨まれてる方はと言うと…対照的に、どこか楽しんでるようにも見える笑顔を浮かべている。
「こいつからは、物凄い穢れを感じます。この国に似つかわしくない…瘴気を。」
「おっと次期竜王殿。口の聞き方には気をつけた方が良いぜ?」
ディールはそう言うと同時に、笑顔のまま…とてつもない殺気をラギスに向ける。
私も傭兵と言う職業柄、指向性があるとは言え、殺気には敏感だ。
…普通の人間なら、向けられただけで心臓が止まりそうなほど、強烈な殺気。その中を、ラギスは特に気にした様子も無く…ただ、苦々しげに吐き捨てるように呟きを落とす。
「…やはり、魔王なんですね。汚らわしい。」
ケッて言う表現が似合いそうな、そんな不機嫌モロ出しの顔で、ラギスはギロリとディールを睨む。
ディールの方も、それに何かカチンと来るものがあったのか、笑みを消し、ラギスと同じ様な…それこそ、双子じゃないかと思えるくらいそっくりな、不機嫌そのものの顔をこちらに向け…
「うっわ。ムカつくわぁ。ルフィ姐さん、こいつ殺して良い?」
「ルフィ様、こいつ、抹殺しても?」
おいおいおいおいおい!何を物騒な事を同時に言ってやがるのよこの2人は!
そりゃあまあ、確かに竜族と魔王って、相容れない存在なのかも知れないけど…こんなトコで戦われたら、私止められないわよ。
って言うか逃げるからね!?
巻き込まれたく無いもん、そんな派手そうな戦い!
心の中でのみツッコミつつ、私はズキズキと痛むこめかみを押さえながら、2人に向かってできるだけ呆れた口調と表情を作り…
「ダメだから。って言うかラギス、相手魔王だし。簡単に殺せる気でいたら大間違いだから。」
「分かってます。相打ち覚悟で殺します。」
「やめなさいって。迷惑がかかるから。」
主に私とダルに。
そんな本音を飲み込む私。だけど、どうやらダルにはその本音が伝わったらしい。彼もまた、私と同じ様な…物凄く複雑そうな表情で、こくこくと頷いていた。
そんな中、ラギスは唐突にはっとしたような表情になり、私達の後ろにいるダークドラゴンとディールを交互に見やり…
「…まさか!この『死なず』はお前が!?」
あ、その可能性は高いわ。
何しろ相手をこんな「不死」にできる存在と言えば…三大神または三大魔王、そしてそれに次ぐ力を持つ者…神に近ければ「エンジェル」とか呼ばれるし、魔王に近ければ「デビル」とか呼ばれる。
そして…ディールには、相手を不死にしてしまうだけの力がある。
普通に考えれば、こいつが犯人って事よね。うわ勝てる気がしない。
…と、思ったんだけど……
「『死なず』…?」
何の事か、本当に分からなかったらしい。彼は年相応に見える仕草で、軽く首を傾げ…私達の後ろの存在が、ようやく目に入ったらしい。
ぽんと手を打つと、納得したように1つ頷き…
「ああ、そこにいる絶賛大絶叫中のダークドラゴン?違う違う。俺、こんな不完全な不死を与える程、飢えてないし退屈もして無いもん。」
「なら、他に誰がいるって言うんだ?魔王以外にこんな事が出来るのは…」
「デビルだけ、です。」
警戒態勢を通り越し、既に何故か戦闘態勢に入っているダルとラギス。
…ちょっと、やめてよ?私、流石にここで戦う気無いからね?
って言うか、何でこの2人こんなにやる気満々なのよ。あー、頭痛い…
酷くなる頭痛を堪えつつも、とりあえずいつでも逃げられるように体勢を整えた瞬間、ディールはにっこりと…それはもう、「邪心の欠片もありません」って顔で笑う。
…相手の正体を知っているだけに、あまりにも怪しすぎるんだけど…
「あ~…そう言えば、俺、ここに来る前に見たわ、デビル。『こんなトコに面白い奴がいるな~』って思ったもん。あれは完全に『黄玉』の部下だな。」
をい。
「何故分かる…」
「ルフィ姐さん、俺を誰だと思ってるんだよ?曲がりなりにも紅玉の魔王の欠片、ディール=ルビィだぜ?」
ニヤリ、と小悪党な笑みを浮かべ、私の力ないツッコミにディールはさも当然のように言い放った。
……って言うか…魔王の癖に、小悪党な笑みってどうなのよ。