第2章:絶叫、上空、これ暴走!?
…さて、受けたのは良いんだけど…そもそも、「元凶を消せ」って言われたって、どこにいるかも分からないような奴を探すって…正直、無理じゃない?
何て思っていても仕方ないし…それに、どうやら私はトラブルを呼び込む体質のようだし、その辺を歩いていればいつかは襲って来てくれるかな~とか悠長な事を考えていた私の袖を、ラギスがくいと引っ張った。
「あの…ご気分を害されたなら、申し訳ありません、ルフィ様。」
「ああ、あいつら?昔っからああだったじゃない。それに、ラギスが謝る様な事じゃないでしょ。」
心底申し訳無さそうな彼に、私はいつも通りの顔で答えると、彼はどこかほっとしたような表情に戻る。
そりゃあ、ムカつかなかったって言ったら大嘘になるけど、古竜族の連中が不死者を快く思っていないのは事実だし、私だって普通の人間だったら、不死者なんて不気味だと思って石でも投げてたに違いない。
そもそもあんな連中の言った事に、ラギスが傷つく謂れなんてこれっぽっちも無い。
「あんたは、堂々としてれば良いのよ。」
「でも、僕……次期竜王なのに、長老達を抑える事が出来なくて……」
「だから、あんたのせいじゃ……」
………待て。今、ラギス、何と…?
確か…「次期竜王」とか…そう言ってなかった?
「ラギス、君…竜王候補だったのか…!?」
「あ、はい。一応。……申し上げていませんでしたっけ?」
「聞いてない。聞いていないわよそんな事。」
竜王とは、読んで字の如く竜族の王。全ての竜を取りまとめ、戦いの際は最前線に出る勇敢さと、分け隔てなく仲間に接する事のできる寛大さ、そして守る事が出来る聡明さが必要とされる存在。
その候補ともなると、それなりにドラゴン族に認められていなければならないはず。
しかも、ラギスの口ぶりでは、既に彼は竜王「候補」ではなく、竜王になるのが「確定」している存在と言う事になる。
……ありえない。言ってもラギスはドラゴンの中でもまだ若い部類に入るし、悪魔を倒すためなら人間の城の一つや二つは平気で壊すし、人に「若造」とか「小僧」と呼ばれたら切れると言う、寛大とは程遠い性格だし!
…大丈夫なのか竜族、こんなのを王にして。
「まあ、竜王って言っても、大した事ないんです!要は単なるまとめ役、竜の代表ってだけですから。」
「いやいや、竜王と言えば、神に最も近いドラゴンだろう?大した事あるって!」
へらっと笑いながら緊張感無く言うラギスに対し、ダルが慌てたように物凄い勢いでツッコミを入れてくれる。擬音としては、「ずびしっ」って感じかしら。裏手でラギスの胸の部分を叩いているあたり、かなり芸人根性が伺えるわね。
とか思っていたその刹那。誰か、苦しげな男の絶叫が、私の耳に届いた。
森の奥、だけど今いるところからはさほど遠くない位置。
ここが普通の街道だと言うのなら、「ああ、また誰かが野党に襲われてるな、可哀想に」くらいにしか思わないのだが、ここはドラゴン達が住まう国。
そこでこんな絶叫が聞こえると言う事は…何かとんでもない事が起きているに他ならない。
「今の…ただ事じゃありませんよ!」
「言われなくてもわかってる!」
ラギスの言葉に頷きつつ、既に私は声のした方向に向かって駆け出している。
とは言え、慣れない国の、始めてくるような森の中。私が先頭に立った所で、多分迷うのがオチだと思うんだけど…
とか思った瞬間、後ろで走っていたラギスの体が淡く光り、その姿を、見慣れた少年の物から本来の姿…美しい金色の鱗に覆われたドラゴンの物へと変える。
『ルフィ様、ダルさん!乗って下さい!!』
いつもの子供っぽい印象を抱かせる声とは、また異なる…だけどはっきりとラギスだと確信も出来る不思議な声でそう言うと、彼は私達の前にその背を向ける。
…成程、地上から探すより、上空から探そうって訳ね。
「ラギス、ここはあんたに任せるわ。」
それだけ言うと、私は遠慮なくラギスの背にその身を預け、その後を追うようにダルも彼の背に跨る。
『それでは御2人とも、僕の首にしっかり掴まっていて下さいね…!』
その言葉と同時に、ふわりと竜と化したラギスの巨体が、その姿に見合わぬ程軽やかに浮き上がる。
人間2人がその背に乗っていると言うのに、特に苦に感じている様子も無い。
バサリとその羽を羽ばたかせ、悠然と宙へと浮き上がったかと思うと、今度は途方も無いスピードで周囲を旋回し始めた。
……ちょちょちょ、ちょっと!?いくらなんでも飛ばしすぎよ!しっかり掴まってたって、気を抜いたら間違いなく振り落とされそうなスピード。
抗議の声を上げたくとも、下手に口を開けば舌を噛みそうになる。それに、どの道この風圧じゃ、声なんて出ないだろう。
後ろじゃダルが、さっき聞こえてきた悲鳴に劣らない、絶叫に近い悲鳴を上げてるし。
風圧のせいで首が動かせないから、顔までは確認できないんだけど。
『見つけた…あそこです!』
どうやら声の主を見つけたらしい。ラギスは嬉しそうにそう言うと、スピードを落とさずに大地に向かって急降下。
ぶつかる直前にそのスピードを落とし、彼は先程とは比べ物にならない程ゆっくりとしたスピードで大地に降り立った。
…もう二度と、竜の背中に乗るのはやめよう。うん。
そう心に誓いながら、私はいつの間にやら人間の姿で、嬉々とした表情を浮かべているラギスと、私の横でぐったりとした表情のダルを、交互に見比べたのであった。