表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/98

第33話 一回目 リンディは18歳(15)


「ふっ……んん」


漏れる吐息すら甘い。

甘くて、柔らかくて、温かくて……

唇をくすぐり、その向こうへ。溶け合ってはまた唇へ。行ったり来たりを繰り返しながら、彼女を味わう。


全てを飲み込んでしまいたいと、夢中で重ねている内に、リンディはくたりと力を失い、ルーファスの腕に身体を預ける。それでも止めることが出来ず……むしろ余計に熱くなった彼は、華奢な身体をしっかりと抱き、甘美な一時ひとときに溺れていった。


彼女から自分へ移ったアルコールの香りが、正常な神経を麻痺させる。欲望のまま、唇を白い首筋へと滑らせた時……息も絶え絶えの状態で、リンディがとんでもないことを口にした。


「おい……しい?」

「……え?」

「私……美味しい?」


何てことを聞いてくれるのだろう……そんなの、決まっているじゃないか。


潤んだ青い瞳、火照った薔薇色の頬、何度も重ねたせいで赤く艶めく唇。改めて見下ろした顔の鮮やかさに、身体が一層熱を持つ。ルーファスは自分を落ち着かせる為に、低い声で答えた。


「どうだろう……何か甘い……生クリーム食べた?」

「うん……ケーキ食べたの……ブルーベリーの……」

「やっぱり……道理で甘いと思ったよ」

「……甘過ぎる?」

「どうだろう……分からないけど……もうおかしくなりそうだ」


彼女の香りを吸い込みながら、ぎゅっと抱き締める。


「舐めてるばかりで全然齧らないから……私、美味しくないのかなと思って」

「なめ……かじ……?」


思考が停止する。

リンディはルーファスの身体を見て、「あっ!」と声をあげた。


「そっかあ。お兄様、裸じゃないからかじらないのね」


漸く意味の分かったルーファスから、力が抜けていく。リンディを腕に抱いたまま、床にズルズルと腰を下ろした。


このタイミングで、昼から何も食べていないルーファスの腹が、ぐうと音を立てる。リンディは何やらうーんと考えると、顔を赤らめながらブラウスのボタンを外し始めた。


何を……!

思いもよらない彼女の行動に、ルーファスは固まる。


「まだ唇しか舐めてないでしょ? よかったら、身体も舐めて味見してみて。それで美味しかったら、齧ってもいいわ。お腹……空いてるんでしょ?」


開け放たれた薄いピンク色のブラウスの下には、透ける様な白い胸元が輝いている。思わず喉がごくりとなるも、ルーファスは慌てて目を逸らした。


────もしかしたら自分は、彼女にとんでもないことを教えてしまったのかもしれない。



なるべく胸元を見ない様にしながら、ルーファスはリンディへ真剣に向かう。

「リンディ……君は……もし、タクトがお腹が空いたと言っても、同じように味見させるのか?」

リンディは一瞬小首を傾げると、顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「タクトにはしないわ! 絶対に! だって本当は、齧られるなんてすごく怖いもの! ……お兄様だから、お兄様にだったら、食べられてもいいの」


本当に……何てことを言ってくれるのだろう……


ルーファスの顔が、カアッと燃え上がる。


理性を試されているのだろうか……彼女から次々と与えられる試練に、ルーファスは打ちのめされていた。


「私……」と言い淀むリンディの顔が、不意に哀しげに変わる。


「お兄様が、他の女の人を食べるの嫌なの。考えるだけで哀しくて、苦しくなって。でも……そんなの、そんな風に思うの、やっぱり変?」


何も答えないルーファスに、リンディはしゅんと下を向く。

「前にね、お兄様が幸せになるなら結婚して欲しいって言ったでしょ? あれ……嘘なの。本当は、結婚なんかしないで、ずっと私の傍に居て欲しいって思ってるの。……ごめんなさい、嘘吐いてごめんなさい」


青い瞳から、ポロポロと涙が溢れる。

可愛くて、愛しくて、もう何も言葉にならない。


ルーファスは彼女の顔を熱い両手で挟むと、瞼、目尻、頬と、順番に唇を落としていく。

そして……胸元にポタリと落ちた雫を舐めとると、白い肌がピクリと震えた。


「甘いけど……少ししょっぱいな。でも……美味しい」

吐息を漏らしながら呟くルーファスに、リンディは嬉しそうに微笑む。


「お兄様は……私が他の男の人と結婚したら嬉しい?」


リンディが……他の男と?

鋭い痛みが胸を刺す。彼女の唇を知った今となっては、考えるだけで気が狂いそうだ。


「……嬉しい訳がない。僕以外の男が君を食べるなんて、絶対に許せない。僕も君以外の女なんて、絶対に食べたくない」


リンディはルーファスの瞳を覗き込む。熱っぽくて、苦し気で、今にも泣きそうで……その言葉が偽りでないことを、真っ直ぐ伝えてくれていた。


「私……お兄様の傍に居てもいい? お兄様が離れろって言うまで、傍に居てもいい?」

「もちろん」


リンディの幸せ。そんなもん知ったことか。だって……


「だって僕の傍じゃなきゃ、君は幸せになれないだろ?」

「……うん!」


すりすりと頬を寄せるリンディに、もう一度唇を重ねた。




小鳥のさえずりに目を覚ませば、腕の中でリンディがすやすやと眠っている。


あれから唇を堪能している最中に、こてんと寝てしまった彼女。……散々味見をさせておあずけなんて。天使の顔をした悪魔かもしれない。

ベッドに運び寝顔を見ている内に、そのまま自分も寝てしまった。前にもこんなことがあったな……だけど、あの時と違うのは……


ルーファスは彼女の金髪を、指でくるくると弄びながら考える。

互いの気持ちを確認し合った今、もう “ 兄妹 ” ではいられない。モラル、法律……そして、両親の反応。どうしたら彼女と共に生きていけるだろうか。……最悪、何もかも捨ててしまえばいい。地位も身分も財産も、どれも彼女より、大切なものなどないのだから。

ずっと恐れていたというのに、いざ壊れてしまえば、呆気ない程に覚悟は出来ていた。


くるんとカールした金色の睫毛が開き、青い瞳が覗く。

「お兄様……」

「おはよう、リンディ」

「私……また寝ちゃったの?」

「うん」

「ここで?」

「うん」

ルーファスは、ベッドから突き落とされない様身構える。


だが、今日のリンディは至って冷静だった。ルーファスのシャツをちょいちょいと触り、裸でないことを確認すると、申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい、味見の途中で……何か食べた?」


ルーファスはわざと口を尖らせてみる。

「……食べてないよ。お腹空きすぎて死にそう」

「わあ、大変! ちょっと待ってね!」

がばっと身体を起こし、ブラウスのボタンに手を掛けるリンディを止めた。

「今はまだ……これでいい」


顔を引き寄せ、再び甘い唇を味わった。



惜しみながら離れ、額をコツンと合わせた時、玄関のドアが何者かに強く叩かれた。


誰だ……こんな朝早くに。

嫌な予感がする。


さっとシャツを整え開けてみれば、そこには息を切らせた、セドラー家の兵が立っていた。


「朝早くに申し訳ありません。奥様よりご伝言を預かりました。旦那様が急変されたので、至急お二人にお戻り頂く様にと」



────天罰が下ったんだ。

義務も責任も放棄しようとした、愚かな自分に……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ