表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/98

第11話 一回目 リンディは10歳(4)


出店に誘われ脱線しそうになるリンディを、何とか引き戻しながら歩き回ったが、業者らしき人物は見つからなかった。


「もう帰ってしまったかもしれないね」

「そっかあ……残念。魔法のケーキ、食べたかったな」

ルーファスは、しゅんとするリンディの頭を優しく撫でる。

「出店で何か好きな物を買ってあげる。ほら、美味しそうな食べ物や……あっちには玩具もあるよ」

「うん!」

ぱっと顔を輝かせるリンディを見て、ルーファスはやっぱり、まだまだ子供だなと笑う。

理由は分からないが、何故か安心していた。



それから二人は、出店をあちこち見て回った。人混みが苦手なルーファスだが、こうして楽しそうなリンディを見ると、祭りも悪くないと思えるのだった。

手品を見てはしゃいだり、他国の珍しい菓子を見ては、一つ一つ味見をしたりスケッチしたり。

彼女のペースに合わせて、ゆっくり回った。


リンディには砂絵が描けるセットや白蝶貝の髪飾りを買い、ルーファス自身もリンディに勧められた白蝶貝のカフスを買う。


こんなに喜ぶなら、もっと早く連れて来てやれば良かったな……

ルーファスはそう思いながら、金色の美しい巻き髪を掬い、買ったばかりの髪飾りで留めた。


香ばしい匂いにつられて魚のフライを買ったはいいものの、ベンチは人で埋まっており座る場所がない。


「海辺で食べようか?」

「うん!」



砂浜には気持ちの良い潮風が吹いている。

二人は太い流木に腰を下ろすと、温かいフライをパクリと齧った。


……意外と美味しいものだな。


生まれながらの公爵令息であるルーファスは、こんな風に外で買い食いすることなど初めてである。リンディが居なければ、きっと進んでこんな体験をすることはなかっただろう。

隣を見れば、口にホワイトソースをつけた小さな義妹。ルーファスの胸が温かいもので溢れた。



食べ終わり、何とはなしに遠くへ目をやると、椰子ヤシの木の下に人影が見える。傍らには荷台らしき物が……


ルーファスは勢いよく立ち上がると、リンディの手を引きそちらへ向かう。

砂に蹴散らしやっと近くへ辿り着くと、幹に凭れ眠る老人の風貌をまじまじと見つめた。


白髪交じりの癖のある金髪。同じ色の長い髭。背中には、もはや何色だったか分からない傷んだ布を羽織り、雑貨らしき物が積まれた荷台に足を掛けている。


視線に気付いたのか……老人はゆっくり瞼を開け、こちらを見る。

ムジリカ国では珍しい、紫色の目。

間違いない! この老人が、探していた卸売業者だ。



「……何か用か?」

老人は両手を上げ、ふわあと欠伸をする。

ルーファスは、さくさくと老人の元へ近付き言った。

「お前は、魔道具店タクトに品を卸している業者か?」

「……初対面の大人に、随分偉そうな口の利き方だな。ああ、その身なりからして、上級貴族の坊っちゃんてとこか。じゃあ仕方ないな」

ふっと笑いながら、老人はルーファスへ向き直る。


「で?そのお偉い坊っちゃまが、しがない業者に何の用だ?」

「時を戻す砂時計。それを持っていたら譲って欲しい。勿論代金は払う」

「……ああ、この間渡したサンプルか。あれならもう一生手に入らない」

「何故だ?」

「あれを作った職人が、ぽっくり逝っちまったんだよ。まあ、もういい歳だったからな」

「そうか……」


隣のリンディを見れば、理解したのか、再びしゅんとしている。ルーファスは堪らず、老人に食い下がった。

「他に似た物はないか?」

「うーん……まあ、あると言えばあるが」

老人はよいしょと立ち上がると、荷台をごそごそと探り、小箱を取り出した。

「これも同じ職人が作った」


開かれた箱の中には、対の指輪が収められている。指輪の石には砂が入っており、それは確かにあの砂時計の砂と同じ色だ。

だがその輝きは、砂時計とは比べ物にならないほど強く、何かとてつもなく大きな魔力が込められている気がした。


「一応説明書は付いているんだが……実に不可解でな。読んでみろ」

手渡された箱から、小さく折り畳まれた紙を取り出し、ルーファスは開いた。



『この指輪は、夫婦めおとの契りを交わす男女に適している。互いの薬指に嵌めると同時に、石の砂は相手を表す。

それぞれ一度だけ、相手への想いで石を潤した時にのみ、願った時に戻ることが出来る。それまでの記憶は願った方にしか残らないが、指輪は互いの指に残る。

尚、指輪に愛された者達に限り、互いの砂を分け合うことが出来る』



ルーファスは眉をひそめる。


「な?訳分からないだろ? 安いから買い取ったんだが」

「……“石の砂は相手を表す”の所が特に分からない」


こんな怪しい物をリンディに与える訳にはいかない。

紙を折り畳み箱に戻そうとした時、指輪が一つなくなっていることに気付く。

はっと隣を見ると、いつの間にかリンディがそれを指に嵌めていた。夫婦めおとという意味を知ってか知らずか、丁寧に、左手の薬指に。


「リンディ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ