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1話:中間テストと柊まりこ

ヒロイン登場です。柊まりこちゃんです、可愛いです。

 クラスがそわそわしているのは、入学して初めての中間テストが返却されようとしているからだ。

 これまでの授業の雰囲気で、誰がどのくらいの学力かはなんとなく予想はできる。


 例えば僕の前の席の前田君は、いつも宿題をやってこないくせに授業で当てられたときは、まぁ、意外と正解する。テストも少し勉強すれば赤点なんてことはないだろう。

 器用な人だなとは前から思っていた。


 そういえば、前田を例に出してしまったからにはどうしても取り上げたいことがある。


 それは前田君のくしゃみが、「アッチョン!」であることだ。そしてポイントは、しっかり発音しつつ自然なところ。

 この前田という男は、絶対に意識してアッチョンと言っている。くしゃみが出そうになったら、出るか出ないかのフェイントタイムより、アッチョンに命を懸けている。


 アッチョン前田ならぬ前田アチョ、僕はひそかに君にこんなあだ名を付けたせいで、本名を忘れてしまった。


 「……ざき、神崎!」

 「!」


 まさかアチョ君が僕に話しかけてくるなんて予想外だった。

 これはテスト返却前の効果だろうか?アチョ君もなんだかソワソワしているように見える。 


 「おい、聞いてんのか?」

 「あ、アチ……」

 「は?あち?」

 「あ、いや、前田君、ごめん、聞いてなかった」

 「だからー、お前はテストどんなもんよ」

 

 アチョ君は僕のテストの手ごたえを聞きたいらしいが、

 それは一番聞いてはいけない。

 ちょっとした癖があり、テストは必ず50点を狙うようになった。

 内容によっては±10点の時もある。

 したがって、正直かつ伝わりやすく答えるとなると「テストは基本50点を取るゲームをしているから50点前後かな!」になる。

 こんなことを言った日にはきっと、きもがられて臭いと言われ、神崎菌が移ると騒がれてしまう。


 「赤点はない? かな……」

 

 変人扱いされない一番無難な答えを導き出すことができた気がする。おまけに噓もついていない!


 「お前、真面目眼鏡付けてるくせに赤点レべなん! 逆にピッタリじゃん!」


 アチョ君の顔を見ながら考え事をしていて存在に気がつかなかったが、横から突っ込んできたのは、アチョ君と仲の良い長野君だ。

 

 (まぁ、ちなみ、赤点とは言ってないですけどね)


 早々に眼鏡いじり、赤点いじりをされたが、僕にとってはどうでもいい。ましてや、いじってきた張本人も眼鏡を付けているが、突っ込もうとも思わないし、そこは華麗に無視するべきだ。


 なぜなら、そんなことより気になってしまうことがあったから。


 それは、何故レべルの「ル」をめんどくさがるのかが気になって仕方がないのだ!!


 僕は悔しい。本当は僕より「ル」の方が悔しいはずだ!

 高校生時代は仲良し三人組だったのに、結婚式に自分だけ呼ばれなかったときくらい、悔しくて悲しいはずなんだ。だって、呼ばれるのが当たり前だと思っちゃうじゃん!

 クラスメイトだったり、同級生だったりは、

 コンビニ(エンスストア)くらいでなんとも思わないけど_ 



 「長野、お前も眼鏡だろぉ!」


 あああああ!!!!そこは突っ込んじゃダメなのにぃぃ!!!

  

「前田君達は何の話してるの?」


 脳内であらぶっていると、一人の女子生徒が話しかけてきた。

 すると、彼らはいきなり瞳孔を開き、肩を上げ窮屈そうな姿になった。


 「ひ、柊さん!」

 「長野も眼鏡のくせに、神崎に眼鏡いじりしたんすよー!」

 「こいつが真面目っぽいのに赤点ギリかもって言ったからだよ!」


 (だから、赤点を取りそうだなんて一言も言ってないってば……)


 「あれ? 神崎君って、勉強できるよね?」

 

 「?!」


 柊さんは、「真面目眼鏡だから勉強ができそう」と、偏見を言ったわけではなさそうだった。

 その真っ直ぐに向けられた不思議そうな顔に、なぜかすべてを見透かされている気がして、ただただ彼女の目を見つめるしかできなかった。


 「えっと……?」


 「テスト返すぞー、席に着けー」


次の言葉を探す前に、本命のテスト返却の時間が来てしまったようだ。



---



 夏前にも関わらず、自動販売機のサイダーが売り切れている。


 「仕方ない、レモンティにするか」


 たまにはサイダーにしたかったが、結局いつもと同じになってしまった。

 学校帰りは特に腹の虫が止まない。最高の状態で胃袋に夕飯を入れたいため、自動販売機でジュースを買うプチ贅沢がルーティン化している。


(今日は金曜日だし、カレーかなぁ)


 キンキンに冷えたレモンティが喉に通るのを感じ、冬用の制服で少し暑くなった体を冷ましてくれる。


 夕日を背中に自分の影を追いかけながら、さっきの柊さんとの会話を思い出した。



---



 下駄箱に朝ぶりの柊さんがいる。誰かを待ち伏せているかのように見えるが、それは僕だったらしい。


 「神崎君」

 「柊さん、僕に、何か?」


 すると彼女は、また見透かした顔をした。これまでほとんど接したことのないのに、待ち伏せしてまで…何の用だろうか。

 

 (まさか、まさか! こ、こく……!)


 「なんでテスト真面目に受けないの?」


 (きゃはーー、告白なわけないかーー!!)


 分かっていたが、少し期待してしまった自分がいる。

 仕方ないよね、初心な男の子だもの!


 「神崎君?」


 (あっ!)

 一人で気持ち悪い妄想をしていて、完全に柊さんの問いを無視していた。


 「あ、えっと、んー、一応寝ずにテストは受けたつもり、だけど、なぁ?」


 なぜ僕が不真面目にテストを受けたと思っているのだろう? 

 アチョ君達と話したときかな。


 「前田君たちが勘違いしてただけで、

赤点は取らないよ」

 「そうじゃなくてさ……」


 少し顔が濁り、何か言いたそうにしている。

 正直テストの点数なんて自分自身の問題だと思うんだけど。


 「柊さんがどんな答えを求めているのかが、

  僕には――」


 そう言うと、なぜか彼女は悔しそうにした。


 「……なんで…」


 急に声が弱々しくなって顔を下に向けてしまったせいもあり、うまく聞き取れない。


 「ん、ごめんね、ちょっと聞こえない、かも」


 「やればできる、のに、

   なんで…手を抜こうとするの……」


 「ん……?」


 「っは、ダッサ、かっこ悪」



---

 


 あの時、柊さんはいきなり顔を上げ声を張り上げ、なかなかスパイスの効いた言葉を残していった。

 僕は、立ち尽くすしかなかった。柊さんはクラス、いや学年で相当人気の女の子らしい。アチョ君と長野君の会話からしか情報がないが、まとめると、文武両道で才色兼備の超完璧でありつつ、謙虚でフレンドリーなところが男女ともに人気の理由だそうだ。

 しかし他人に対し「ダサい、かっこ悪い」と言ってしまうだなんて誰も知らないだろう。


 そんなことを言われたら、「何も知らないくせに!」と言いたくなったり、腹が立ったりショックを受けてしまったりが普通かもしれないが……

 僕は、違った。



 だって……




 (((か、可愛いかったんだよ!!!!)))

 (((何あの怒った顔!!!)))


 僕の柊さんに対する好感度が爆上がりした。とんでもない秘密を知れた気がする!



 それにしても怒られた理由は本当に分からない、どうしてあんなにムキになるのかも心当たりはない。

 真相が分からない状態で考えてばかりでも意味はない、本人に聞いても火に油な予感もするからここは一旦なかったことにしようと決めた。


 

 家に入る前にも関わらず、すでにカレーの匂いが漂う。

まだまだ続きまする。

誤字等ご報告ください。

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