亜空間から帰ってきた
「んっ」
ゆっくりと目を開ける。
まず目に入ったのはアスタロトの顔だった。
「何してるんだ?」
「見ての通り膝枕………と言われるものです」
自信満々そうにアスタロトが言う。
そんな人間っぽい仕草をする彼女が妖刀だなんて誰が信じるだろうか。
「ここはどこだ?」
「ダメですよ、ちゃんと休んでなくちゃ」
身体を起こして辺りを見渡そうとするとアスタロトが制止し、膝の上に俺の頭を引き戻した。
「ここはどこかでしたよね?その問いは私が答えます。ここは魔法世界にある魔生の森だと思われます」
「……………………帰って来れたのか」
数百年ぶりの魔法世界に帰って来れた嬉しさを噛み締めながら思わず微笑んでしまう。
アイツら元気にしているかな。
数百年前に生き別れした弟子たちに思いながら目を閉じる。
「ここに帰れたことがそんなに嬉しいですか?」
無邪気な表情で質問してきた。
「もちろんだ、ありがとうな。この世界に帰ってこられたのはお前のおかげだ」
俺はアスタロトに礼を述べる。
「本当に主様はこの魔法世界に思い入れを持たれているんですね。私も主様のお役になれて嬉しいです!」
なんか俺の事を知っているような口振りだな。いや、神に作られた妖刀だったか。
それなら俺のことを知っててもおかしくはない。
ただ、なぜ八岐大蛇に追われていたのか?
俺は考えても答えが出ないことを脳内に過よぎらせる。
結局、考えても分からなかったので本人に直接聞いてみることにした。
「アスタロトって何者なんだ?なぜ、八岐大蛇に追われていた?」
「それは………………」
アスタロトが言いにくそうにする。
「言いたくないなら言わなくてもいいが‥‥‥‥」
俺は気を使ってアスタロトに言った。
「いえ、大丈夫です」
そう言って真剣な表情で続けた。
「私は妖刀アスタロト。神が妖刀べルフェゴールをモデルに作られた妖刀です」
「べルフェゴールをモデルに………か」
妖刀べルフェゴール。
俺が神に対抗するべく作った七つの妖刀の一つ。
神の野郎、俺の妖刀をパクリやがったのか!
険しい顔をしているとアスタロトが恐る恐る言葉を紡ぐ。
「怒ってますよね?」
「怒ってる?何が?」
「す、捨てないでください」
「えっ?」
俺はいきなりの事で素っ頓狂な声をあげる。
アスタロト、もしかして神の作り出した道具だから捨てられるとでも思ったのか?
舐められたものだな。
そう思い、優しい声をかける。
「捨てるわけないないだろう」
「ほ、本当ですか?」
どこか安心したような表情で言う。
「そんなことで嘘はつかない。それよりもお前のことを詳しく教えてくれ」
「は、はい。妖刀べルフェゴールをモデルに作られたのですがそこで神たちが自分たちの因子を私に入れたのです」
「それで人間体になれるように………自我を持つようになったと」
そう言うとアスタロトは頷きながら肯定する。
なるほどな、神の因子があれば妖刀に自我を持たせられると。
これは面白い事を聞いた。
もしも、また神に会うことがあったらもらうか。
「自我が芽生えたせいか、私の主様はあの人しかいないという何かよくわからない衝動にかられて気づけば亜空間に逃げ出していました」
「………………………」
なんか照れくさそうに話すアスタロトにどう反応していいか分からなかった。
「そこに八岐大蛇が追ってきたんです!思わず助けを呼んでしまったら主様が来ました。そこで私は運命を感じ、感動しました。私は今、主様と出会えて幸せです」
「そ、そうか」
思わず苦笑を浮かべる。
こいつ、なんか俺にベタ惚れ状態じゃないか?
その問いは誰も答えてくれなそうなので口に出さず、心に留めておく。
「それよりもなんか眠くなってきたな」
「そうですか?じゃあ、寝ていいですよ。主様の寝込みを誰にも襲わせません」
「そうか、じゃあ………」
やべぇ、一気に眠気がきて頭が働かない。
俺は目を閉じ、後のことはアスタロトに任せた。
「ここはおやすみなさいでしたっけ、主様」
アスタロトはそう言って俺の寝顔を眺めていた。