神殺し
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この世には絶対に交わることがない三つの世界が存在している。
一つ目は神が人々に魔力を与えた魔法世界。
二つ目は人々が自力で技術を身につけた科学世界。
三つ目は人々に異能が発現した魔技世界だ。
西暦205年、新月が差し込む夜。
魔法世界にてイリス・ロードという男が神に刃を向けていた。
「なぜお前らはこの魔法世界を消滅させようとするのか?」
目の前にいる時空神とやらに問う。
「それが世界であり理、我ら神の理である」
それが正しいことだと言うように淡々と言葉を並べる。
「…………神はどいつもこいつもつまらん奴ばかりだな。この世界の神は理に縛られ、操り人形として義務を真っ当する。なぜそんなことしか出来ないのか?」
「我々は人間のような心は持ち合わせていない。この世界は文化の発展、魔法世界の人間はもう成長しないと判断した。ゆえに魔法世界を創造し直す。それが世界の結論であり、我々神々の結論である」
「そうか‥‥‥‥‥‥‥‥だが、俺たち、人間は例え神であるお前たちがその答えを導き出してたとしてもそれに抗う。それに気づいているだろ?この世界の人間たちも前に進もうとしていることを」
「‥‥‥‥‥肯定しよう。しかし、この魔法世界はどうだろうか?ただ、人種が違うだけで争い、戦争を何度も我々の期待を裏切ってきた」
一度、賛同したものの意思は変わらないらしい。
他の二つの世界が魔法世界と違い、争いがない世界っていうのは知っている。
だが、なぜその事実だけでこの世界を見限るだろうのか?
「この世界はもう少しで平和になる。俺の弟子たちが成し遂げてくれるはずだ。それを俺は楽しみにしているんだ」
俺は平和な世を見てみたい。
例え、それが500年、1000年かかろうとも優しい世界になってることを願ってる。
「ありえない、3000年以上争いが続いているのなぜそんなことが言いきれるのだ?」
「さっき言っただろ、人間は成長出来るって。他の世界の人間が出来て、この世界の人間が出来ないことはない」
俺は真っ直ぐと返し、時空神の元に歩き出す。
「しかし、魔法世界を滅ぼすのは神々の決定事項。考えを変えるつもりはない」
時空神が立ち上がり、鎌を向けてくる。
「そうか」
交渉決裂した俺は歩み寄るのをやめ、両脇にある妖刀を抜刀した。
「混沌の神殺し、下民が時空神アビルスである我を倒せると思っている?」
「……………………お前たちがこの世界を滅ぼそうとするのならば俺はただそれを止める。それだけだ」
イリス・ロードは玉座のような物に座っている時空神を睨みつける。
「神の御前で偉そう……………一瞬で終わらせる」
「〖権能 神の威厳〗」
アビルスが何か唱えた瞬間、身体に重いものに押しつぶされたような錯覚を覚える。
堪らず、をひざを地につけてしまう。
そんな俺を見た時空神は性格が変わったように高笑いをする。
「ふふふっ、どうだ?権能のお味は?所詮、神殺しといえど人間にはこれは解けない。すぐに終わらせる。我々、神に手を出したと言うのがどういうことなのか、教えてやる」
「その程度で俺の歩みが止められるとでも?」
「なんだと!?」
俺は不敵な笑みを浮かべ、右手に持っている妖刀に魔力を込めてこう唱えた。
「〖権能 強欲〗」
すると、身体の重いものに押しつぶされている感覚が取れ、俺は立ち上がる。
その姿を見た途端、目の前にいる時空神が動揺を見せた。
「な、なんで我の権能が効かない?もう一度!」
「〖権能 神の威厳〗」
アビルスはもう一度、唱えた。
しかし、何も起こらない。
「な、なんで使えなくなっている?神殺し、何をした?」
「…………………この刀には強欲、半径三キロ圏内ならあらゆる権能を刈り取ることが出来る能力が付与されている。その権能でお前の権能を奪っただけだ」
俺は親切に説明してゆっくりとアビルスに近づく。
時空神は後退りし、距離をとる。
つくづく神って傲慢だな。自分のことを殺しに来るかもしれない奴がいるって分かっているのに下調べしないで俺に勝てると思っているのか?
と、自分も傲慢的考えを抱いたがすぐにかき消す。
「ならばこれならどうだ!」
アビルスは鎌を振り下ろす。俺はわざと攻撃を受け、反撃を仕掛ける。
しかし、時空神も馬鹿ではない。軽い足取りで攻撃を躱した。
「結構やるな、今の攻撃がかすりもしないなんて」
「お主も出来る、その実力は神をも超えるかもしれない」
「どうだか‥‥‥‥‥ただ、俺は守りたい物ために強くなっただけだ」
そして刀と鎌がぶつかり合う。
その衝撃で大地は抉れ、俺たちの周りには大きなクレーターがいくつも出来ている。
激しい攻防の末、先に攻撃が届いたのは時空神だった。俺の右腕は切り刻まれ、見るも無惨な状態になっている。
「ちっ」
俺は後退し、形勢を整えようと考えたが時空神の攻撃が激しすぎて防御に徹するしかなかった。
「‥‥‥‥‥‥お前に神に逆らったらどうなるか、教えてやろう」
時空神は攻撃をやめ、鎖状の物を空中に生み出す。
「さすがにあれを避けるのは無理そうだな‥‥‥‥かと言って右腕が使えない今、受け止められそうもない。いや、使えるようにすれば良いか。仕方がない、あまりこの権能を神に見せたくないがやるしかないようだ」
独り言のように呟き、身体中に力を込めて権能を使った。
「〖権能 超速再生〗」
俺の右腕の傷口はみるみる塞がり、元通りになる。
両腕に持っている刀を構え、時空神に向かって斬り掛かった。
「腕が治っただと!?だが、もう遅い。これでも食らえ!」
「〖闇魔法 死の支配者〗」
時空神は禍々しい鎖を放った。
俺は直前まで鎖を引き寄せ、弾き返しながらアビルスに接近する。
しかし、アビルスは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「よくも我の死の支配者を‥‥‥‥‥だが、残念だった、我の勝ち」
「〖権能 時止〗」
その時、世界の時間が止まり、俺も動けなくなる。
「ふふふ、すまない。我もなりふり構ってはいられない」
時空神はでっかい鎌で俺を斬りつける。しかし、その鎌の刃が俺に届くことはなかった。
「〖権能 傲慢〗」
左手にある妖刀がその問いかけに反応し、俺は鎌を受け止める。
「なぜ動ける!強欲で権能を奪っている素振りなんてなかった!」
取り乱したように時空神が言う。
俺は「はぁ」とため息を吐きながら言う。
「俺が持ってる権能は強欲だけじゃない。|左手にある妖刀にはな、傲慢というあらゆる権能を無効化する能力が付与されているだ」
「そ、そんな‥‥‥そんなの!お前は何者!?」
少し恐れが入った表情をした時空神。
「何者か‥‥‥‥自分が何者かなんて考えたこともないな。強いて言えば数多の権能を所持しているただの人間だろうな」
「そんな馬鹿な」と口パクで言う時空神。
俺はゆっくりアビルスに近づく。
「まだ戦う気はあるのか?」
「‥‥‥‥負ける訳にはいかない」
アビルスはそう言い、俺から距離を取る。
ほぅ、意外と負けず嫌いなんだな。
思わず感心していると時空神アビルスが高らかに宣言した。
「‥‥お主はそうでもないようだが我はもう余力は残っていない。この一撃で勝敗は決するだろう」
「‥‥‥だろうな」
俺たちは構え直す。双方の間には長い沈黙と緊張感が漂い始める。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥今だっ!
アビルスと俺は地面を思っきり蹴って相手の首を狙う。
「〖闇魔法 死の刃〗」
「〖技法 雷切〗」
刃と刃が交わり、決着が着いた。
果たして立っているのは‥‥‥‥。
「お主はさすが‥‥‥‥数多の神を葬ったことのだけの事はある」
「お前こそ、技量は足りないが今の一撃は凄かったぞ。俺じゃなければやられていた」
「ふふ、手厳しいことで」
それだけを言い残し、時空神アビルスは塵となって消えた。
なかなか骨がある神だったな。途中からは人間だからと言って手を抜くことなく真正面から俺と戦って敗れた。ずる賢い方法を使わず‥‥‥‥。
すると、そんなことを考えている俺に女の子が近づいてくる。
「やりましたね、兄さん」
「そうだな、ミゼラ」
俺は意識を彼女に向ける。
この子は竜人と魔族のハーフで俺が神殺しの旅している時にある森で捨てられていたところを発見した。数年前までは赤ん坊だったのに竜人の血が入っているからか、成長スピードが早く、俺とそんなに歳が変わらないほどまで大きくなっている。
「それにしてもその妖刀、万能ですね。兄さんの基礎的な身体能力も人間離れしてますけどあの神と互角、いやそれ以上の力を秘めている妖刀。これがあればどんな神だろうと負けませんよね」
「そうだな、だが油断はしないほうがいいと思うぞ………………まだ、あの創造神アザゼルがいる」
創造神アザゼルがいる限り神が生まれ、この世界を滅ぼそうとする。俺はその度に神を存在ごと消していた。
「さてと、もうここには用はないし帰るか」
「そうだね、早く帰ってご飯作ったあげるよ」
その時、空間に裂け目が生まれた。
「わぁぁぁ」
「ミゼラ!」
ミゼラは裂け目の中に吸い込まれそうになっている。
即座にミゼラを突き飛ばし、庇った。
だが、俺はミゼラの代わりに裂け目に吸い込まれそうになる。
「兄さん!」
「こっちに来るな!」
俺に近づこうとしたミゼラを制止する。
この裂け目はどう考えてもあの創造神の仕業だろうな。恐らくはあの裂け目の先には亜空間と呼ばれる無の世界があるだろう。
「ここに閉じ込めようってわけか。ち、これ以外で俺を倒す方法が思いつかなかったのかよ」
あのクソ神に思わず呆れたように言う。
これは権能じゃないので妖刀は役に立たない。
俺は意を決して、ミゼラに向かって妖刀を投げた。
「ミゼラ、その七つの妖刀はこの世界を守るために必要なものだ。それにもし、俺がいない間に神たちがこの魔法世界を滅ぼそうとしたときにそれを使ってくれ‥‥‥‥‥頼む」
「兄さん、そんなこと言わないでよ。ずっと私のそばに居てよ」
「ごめんな、だが絶対戻ってくる、約束する。一人にしないって。その時はお前がもっと綺麗になってるミゼラを見たいな」
俺は優しい口調で言い残し、裂け目に吸い込まれた。
「にいさんのバカ」
ミゼラの呟きが静かに響き渡るのだった。