第19話:白金獣魔師は請け負う
爺さんは信じられないことを聞いたかのような気の抜けた声を出した。
「そ、それは本当なのじゃ!?」
「え、ああ。でも見た目だけの雑魚だったぞ。一撃で死んだし」
「それはユートがとんでもなく強いだけですよ!」
「そうなのか?」
「そうです! 私も一撃は無理だったと思いますし」
俺たちの会話を聞いていた爺さんは、さらに目が飛び出るんじゃないかというくらい驚いたのだった。
「し、信じられぬ話じゃ……。しかしワシの小屋に辿り着いたということは本当なんじゃろうな……驚いたわい。お主らなら、ダンジョンをなんとかできるかもしれんな……」
「ダンジョンですか!?」
爺さんの言葉に、レーナが強い反応を示した。
急に大きな声を出すものだから、驚いてしまう。
「ダンジョンってなんだ……?」
正確にはゲーム的なアレのことはわかるのだが、俺の認識が正しいのかどうかはわからない。
「ダンジョンというのは瘴気の塊です。瘴気で作られた空間の中には強力な魔物が潜んでいますし、ダンジョンの周りの魔物は強くなってしまいます。存在自体が悪なのです。ダンジョンは出来たらすぐに潰して瘴気を晴らさなきゃいけません!」
そういえば、レーナは世界の瘴気を晴らすために旅をしているとかなんとか言ってたっけ。
「なるほど。それで、そのダンジョンがどうしたんだ?」
「む、それなんじゃがな。……ワシは、ダンジョンの研究を長年しておっての。それがこの地に研究所を建てたことにも繋がるんじゃが……」
ああ、この小屋って爺さんの中では研究所のつもりだったのか。
認識と齟齬があることが何となく申し訳無くなってしまうな。
「ビストリア山にはダンジョンの元になる成分……魔素というんじゃが、これがかなり多い地域での。昔はここにダンジョンがあったんじゃないかと睨んだのじゃ。そうして研究するうちにの……ダンジョンができてしまいおった」
「……どこにできたんだ?」
「ワシの研究所の裏じゃ。小さなダンジョンを復活させて研究するつもりじゃったんじゃが、思いの外魔素を吸い込んで大きくなってしまっての……。放っておくとどんどん広がっちまうというところで村のギルドに行こうと思ったんじゃが……周りの魔物が強化されて出るに出れなくなったというところじゃ」
「それで、そのダンジョンを俺たちなら何とかできると。……そういうことなのか?」
「そうじゃ」
爺さんはこくんと頷いた。
あの弱い大熊を倒しただけで物凄く過大評価されている気がするな……。
「ダンジョンは何があるかわからん。村に帰って報告してくれるだけでも構わん。いち早く解決できるようお願いしたいのじゃ。ワシが村に出向くより早いじゃろうからな……」
この場所はFランク冒険者が多く訪れる雑魚敵の多い場所だ。
強化された魔物に遭遇すれば、新人冒険者はひとたまりもないだろう。
爺さんの驚きようから見て、新人じゃなくても厳しい相手だったのかもしれない。
こうしてゆっくりしている間にも誰か冒険者が死んだら……なかなか目覚めが悪いことこの上ない。
「レーナ、どうするのが良いと思う?」
「ユートと一緒なら二人でも小さなダンジョンくらい何とかなると思います!」
「そうか」
レーナはダンジョンを目の敵にしているようなので、少し冷静に考えた方が良いかもしれない。
「ダンジョンの中の魔物っていうのは、どのくらいのもんなんだ?」
「正確なところは入ってみんとわからんが、規模はおそらくEランクダンジョン。基本的には熊の魔物より少し強い程度じゃ。ダンジョンをクリアすれば消滅する仕掛けになっておる。しかし、出来たてのダンジョンでも低確率でダンジョンボスが潜んでおる可能性は否定できん。その場合は絶対に撤退するんじゃ」
「そんなに強いのか……?」
「数人の冒険者でどうにかできるレベルではないの。普通は何万年もの月日をかけて復活するもんじゃから、まさかいないとは思うがの……」
なんかそんなことを言われると死亡フラグみたいに聞こえるのは俺だけか……?
まあ、たとえそのダンジョンボスとやらが出てきても、俺にはレッドもついている。最悪撤退することはできるだろう。
「わかった、俺たちに任せてくれ」
「本当にいいのかの……?」
「ああ。ただし条件がある。その条件に関連して確認したいんだが……爺さんの立場としては、実は俺たち二人に解決してほしいんだろ? そんなヤバイもの作ったって白状したらロクでもないことになるのは目に見えてるからな」
「……お見通しなんじゃな」
「まあな。ただしそうなると俺たちだって命をかけてダンジョンってやつに潜るわけだ。働く限りは報酬をもらいたい。それはいいか?」
「それはもちろんじゃ。ギルドからもらうより良い報酬を約束しよう」
「オーケー、交渉成立だ」





