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第1話:白金獣魔師は追放される

「なんだここは! 夢でも見てんのか!?」


「な、なにこれ!? 何か新手の特撮とか? 私たちドッキリかけられちゃってる!?」


 真っ白な視界が晴れると、俺たち音鮭高校1年A組の生徒は全員が不思議な空間に立っていた。

 一言で表現するなら——聖域。


「……」


 足元からはピチャピチャと音がする。巨大な浅い水溜りの上にいるらしい。

 水溜りの中心にはうねった大木がドンと構えており、まるで妖精でも出てきそうな雰囲気を漂わせている。


「さて、今回は当たりがいるのかなー?」


 背後から声がするので振り返ると、いつの間にか青髪の幼女が俺たちを値踏みするように覗いていた。

 小学生くらいの幼い女の子のような顔をしているが、落ち着き払っていて、なんとなく俺よりずっと年上な気がした。


「ふうーん、こんな感じか。……おっ、逸材発見!」


 なにやら独り言をブツブツ呟く謎の少女。


「おい、そこのお前。ここはどこだ? 状況を説明しろ」


 こいつに風神聖斗が声をかけた。はっきり言って褒めるのは大変不本意だが、ナイスである。

 幼女は若干イラッとしたように眉を潜めたものの、すぐに興味を失った様子で口を開いた。


「ん、貴様らは傭兵として異世界に召喚されることになったのだ。魔王軍の侵略でちょっとヤバいので、世界を救う冒険者になってもらう。ここは前世と異世界の中間」


「はあ!? 何意味わかんねーこと言ってんだよ! てめえが何かやったんならさっさと元の場所に戻せよっ!」


 少なくとも見た目は幼い女の子であるにもかかわらず、聖斗が強引に胸ぐらを掴もうとした。その時だった——


 ドン——


「ぐはっ——!」


 聖斗の身体は幼女に届かず、それどころか避けるように大木の方に吹っ飛んだ。

 何が起こったのか分からず、一帯が静寂に包まれる。


「女神である私に気安く触るな。汚らわしい」


 ——そのように吐き捨てる幼女。

 見た目で言えばずっと年上である俺が気圧されるほどの迫力があった。


「……貴様らに拒否権はない。これを見ろ」


 幼女——否、女神が右手を上げると、頭上にスクリーンのようなものが表示された。AR映像とかだろうか……?


 ————————————————————————————————————————————————

 〜レア度〜

 SSR:『賢者』『聖女』

 SR:『剣士』『魔法師』『弓魔師』『召喚師』

 R:『錬金術師』『鍛冶師』『回復術師』『魔道具師』……など

 N:『獣魔師』『無職』

 ————————————————————————————————————————————————



「貴様らには一つ、ジョブが付与されているはずだ。確認してみろ」


「か、確認しろって……どうやって? っていうか何を確認するんだ?」


「目を瞑って、頭の中で『What's my job』と思い浮かべてみろ。感覚的に答えが理解できるはずじゃ。手間をかけさせるな」


 俺を含めて大半が不本意ながらという雰囲気ではあったが、全員が作業に入ったみたいだ。みんな目を閉じている。


 頭の中で思い浮かべる——

 すると、確かに答えが帰って来た。


 俺のジョブは——


 白金獣魔師(プラチナテイマー)……なんだこれ?


 表示されているレア度でいうNランクの獣魔師ということだろうか……?


 俺が疑問を浮かべていると、いたるところから一斉に声が上がった。


「うっし——なんか知らねえが『賢者』ってことはSSRか! 俺様に相応しいじゃねえかよ!」

 ——と歓喜するのは風神聖斗。


「私は……『聖女』ね! ということはSSR……ふふっ、私に相応しいわね。とりあえずレア度が高いということだけはわかったわ」

 ——と調子付いているのは乙峯湯乃佳。


 賢い者と書いて賢者、聖なる女と書いて聖女——字面とは全く一致しない二人がレアジョブを引き当ててしまったらしい。

 全く、なんてことだ……。


 他のクラスメイトたちもSRや、低くてもRなどそれなりのジョブを引き当てているみたいだった。

 もしかして、俺だけがNなんじゃ……?


 というか、無職と同等ってことは、とんでもない外れなんじゃないか……?


「貴様ら、今からグループに分かれろ。最大七人まで同時に転送しよう」


「なんで生意気な子供の命令を聞かなくちゃいけないわけ?」


 気が大きくなっているのか、湯乃佳がいつもの意地の悪い笑みを浮かべた。


「サービスで言ってやってるだけだというのに……まったく貴様らは。べつにワシは貴様らを一人ずつ転送してもいいんじゃ。しかし転送地は指定できん。貴様らみんなバラバラ。たった一人で過酷な異世界を生き抜けるのか?」


「なっ……聞いてないわよ」


「ふん、嫌ならはよ決めろ」


「……チッ」


 湯乃佳は舌打ちすると、右手を挙げた。


「はーい、みんな聞いて。このクラスは22人よね。ということは、7人ずつ分けると一人余るわけ。だから、残念ながら1人仲間外れになっちゃうの。誰にするー?」


「いや……最大7人なんじゃから1人除け者にせんでも良いのじゃが……」


「何があるのか分からない。人数は多いに越したことはないだろう。外れた一人は可哀想だが、強く生きてもらうしかないだろう。全体のためには尊い犠牲も必要なのだ……へへっ」


 聖斗はニヤニヤしながら女神の声に被せた。

 つまり、これが意味することは——


「じゃあ多数決を取りまーす! ハブる人だあーれだ?」


「ちょ、ちょっと待ちなよ」


「ん、なに? ガリ勉」


 湯乃佳がとても楽しそうに俺を指さそうとした直前。

 クラスの学級員長が待ったをかけた。


 もしかして、俺一人にならずに済むのか……? いや、でもみんなよってたかって虐めに加担してたんだ。誰も助けてくれなかった。助けてくれなかったら加害者と同じじゃないか。

 それなら、一人で死んだほうがマシなんじゃないか?

 ——そんな考えが頭を過ぎる。


「ボクとしてはですね、レアリティを参考にするのが良いと思うのですよ。好き嫌いで組んで生き残れるほど甘くない可能性も考えられる。そう思わないかい?」


「……う、一理あるわね。じゃあ一人ずつジョブを発表していきましょう。私、聖女。SSRよ」


「俺は賢者……SSRだな。当然だが」


「ボクは魔法師……SRですね」


 クラスメイト一人ずつがジョブを発表していく。

 そして、俺の番になった。


「ユートの番よ。早く答えなさいよ。早く」


「……白金獣魔師」


「はっ、テイマー? えーと、Nランク? ぷぷっ……決まりじゃない! たまにはアンタも空気読めるのね——! ギャハハハ!」


「こりゃ傑作だな! 最高だぜユート、さよならだ」


「…………」


 湯乃佳と聖斗は腹を抱えて笑った。

 つられて、他のクラスメイトにも爆笑が起こる。


 その後、一応は投票が行われ、全会一致で俺がハブられることが決まった。


 ……もう、踏んだり蹴ったりだ。

 神様は俺のことなんかちっとも見てくれてないのだろう。


 俺は大きく脱力して、その場にしゃがみこんだ。

 その後のことはよく覚えていない。


 徐々に笑い声が消えていき、いつの間にか俺の意識は遠のいていった。

 転送の順番は俺が最後って話だったっけ。


 どうでも良かったのではっきり覚えていない。


 もう、どうにでもなってしまえ——

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