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第18話:白金獣魔師は手を借りる

 物置小屋のような質素な建物。

 入り口扉はあるが、呼び鈴のようなものは見当たらない。


 本当に人なんているのか? と思いつつも、まずはノックしてみる。

 ——しかし、反応はない。


「すみません! 私たちは通りすがりの冒険者です! 中に人がいるなら返事してください!」


 レーナが大きな声で問いかけてくれた。

 しかしなんの反応もなかった。


 中には誰も住んでいないのだろうか? もしくは留守にしているという可能性も考えられる。

 絶対に伝えなければならないということもないので、村に帰還しようかと思ったその時だった。


 ボンッ!


 爆発音が聞こえ、屋根の煙突から黒い煙が朦々(もうもう)と立ちこめた。


「!?」


「だ、大丈夫でしょうか!?」


 人がいるにせよ、いないにせよ、中で爆発が起こっているのだとすれば、木製の小屋はすぐに火が燃え移り、山火事に発展するかもしれない。

 異世界の消防能力がどれほどあるのかわからないが、ここは山の麓。


 村の方にも何か影響が出てしまうかもしれない。

 となれば、この小屋の持ち主が困るわけじゃなく回り回って俺たちにも影響が出るかもしれないのだ。


 放っておけない——か。


 まずは、扉の鍵が空いているかどうかの確認。

 ……当然ながら空いていなかった。


 魔物が潜む場所でさすがにそこまで無用心じゃないか。

 となれば、


「扉を壊して中に入る。中に人がいるなら救助しよう」


「わかりました!」


 レーナの返事を確認してから、俺は小屋の扉を蹴り飛ばした。

 レッドをテイムしてからというもの、魔法が使えるようになっただけではなく、身体能力も大幅に向上している。


 木製の扉を壊すくらいのことは容易い。


 俺が小屋の中へ突入すると、煙突から出てくる黒煙とは比べ物にならないほどの濃度で充満していた。

 前がほとんど見えない。


 煙が目に染みて痛みを感じる。

 催涙ガスなのだろう。


 吸い込まないように咄嗟(とっさ)に鼻と口を塞いだ。


 ただし、どこかで火が出ているような感じではないらしい。

 燃えるような臭いは感じられなかった。


 どうする? レッドを巨大化して翼で扇いでもらうか?

 それとも、ブレスを今から改変して火が出ないように工夫してみるか……。

 いや、換気していればそのうちなんとかなるか……。


 なかなかすぐに解決できる名案が浮かんでこない。


「ユート、この煙を無毒化しますね!」


「そんなことできるのか!?」


「だってこれでも聖女ですから!」


 そう言うと、レーナは腕をクロスさせて両手を胸に当てた。

 レーナの身体が眩い光に包まれ、その光が広がるにつれ黒煙が消えていく。


 一瞬で部屋全体の煙が消え去ってしまった。


「聖女ってこんなこともできるのか……さすがだな」


「ありがとうございます。でも、普通の聖女では難しいと思いますけどね……」


 何やら意味あり気なことを言うレーナ。

 専門職との違いということなのだろうか。


 そんなことを思いながら、クリアになった視界を確認する。

 小屋の中は生活感もあるが、いたるところに謎の液体が入った瓶や、空の瓶が並んでいる。まるで小さな研究室のような趣があった。


 そして、床に倒れている白髪の老人の姿。


「まさか死んでるんじゃないだろうな……おい、大丈夫か!?」


 俺は爺さんの肩を揺らして声かけをしてみた。


「んん……はっ、なんじゃお主らは!?」


 開口一番、このような(しわが)れた老人の声が聞こえてきた。


「悪いが、非常事態だと思って入らせてもらったんだ。大変なことになってたみたいだからな」


「んん……? そ、そういえばワシは……実験をしておって、失敗しちまって……死ぬかと思ったわい。お主らが助けてくれたのかの?」


 この爺さん、状況把握が早いな。

 どの程度かはわからないが、さすがは研究者といったところだろうか。


「端的に言うとそういうことだ。実験は知らないが……」


「いやーすまんの、恩に着る。今回の失敗はちとまずかったからのう……」


「いったいなんの実験をしてたんだ? こんな人里離れた山の中でやらなきゃいけないことだったのか?」


「村の中でやると危険じゃからここで隠居生活しておる。さっきは魔物を退治する煙を作っておったんじゃが、失敗してしまってのう」


「なるほどな。……でも、だからと言ってこんなところでやらなくてもいいんじゃないか……?」


「お主のいう通りじゃ。魔物退治用の煙を作るだけならそれで良いんじゃ。……じゃが、ワシの本来の研究はまた別での。急ぎで必要じゃったから作っておった」


 いまいち理由がわからない。

 魔物退治用の煙……つまり殺虫剤のようなものを作っていたら失敗して危うく自分が死にかけた……というところまでしかわからない。


「お主らもしかすると見たかもしれんが、この辺に大きな熊の魔物がいたじゃろう?」


「ああ、いたな」


「あれはワシの研究で強化させちまった魔物での……。あいつのおかげでワシは村に帰れなかったのじゃ。食料が底を尽きて焦っておった……」


 爺さんの話で、俺はこの小屋を訪れた本来の理由を思い出したのだった。


「ああ、その魔物なら倒したからもういないぞ」


「…………ふぁ!?」

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