第17話:白金獣魔師は無双する
◇
時刻は昼前。
朝一番で依頼を受けにいくつもりでいたのだが、寝坊してしまった。
肉体的には疲れがほとんどなかったように思うが、環境の変化で色々と精神的に疲れていたのだろう。
たった一日で異世界に来て冒険者になって……ととんでもないことになったからな。
冒険者はいわゆる自由業だし、寝坊しても誰にも怒られることはない。
とはいえ早めに冒険者として経験を積んでいきたいし、お金を稼がないとそのうち資金も尽きてしまう。
……ということで、冒険者ギルドへ向かっていた。
その途中。
「昨夜のユート激しすぎです……!」
「いやいやその言い方は誤解を招くだろ!?」
いきなりレーナがとんでもない発言をしたので、軽く嗜めておく。
「だって、私何回も目が覚めたんですよ!?」
「寝相が悪くて迷惑かけたな! その節は申し訳なかった……が、言い方はなんとかしてくれ!」
「私、何か変なこと言いましたっけ……?」
きょとんと俺を見るレーナ。
やれやれ。
昨日、やっと入れた部屋にはベッドが一つしかなかった。
全ての部屋が埋まっている状態なので、他の部屋から持ってくることもできない。
レーナはベッドで眠らないと疲れが取れないというので譲ったのだが、レーナは俺にも隣で寝るよう勧めてきたのだった。
同じ宿泊費を払っていながら一人だけベッドを使わないというのは不公平だと言われると、『確かに』と思わされた。
俺さえ何もしなければ……ということで隣を失礼したという流れである。
なので変なことは何一つ起きていないし、レーナもそれを分かっているのだが、言葉の表現ってやつは難しいもんだな……。
◇
ガラン。
扉を開け、冒険者ギルドの中へ。
木製の掲示板上に大量に貼られた依頼書の中から、今日受ける依頼を探し始めた。
「引越しの手伝い、手紙の輸送、建設現場の作業、倉庫内の軽作業……なんか便利屋みたいな扱いだな」
コンビニに置いてあるバイト求人誌みたいな内容がずらりと並んでいたのだった。
Eランク以上の魔物狩りが絡む依頼を受けるにはこうしてFランクの依頼で下積みしなければならないのは分かっている。しかし試験に合格した冒険者が受けられる最初の依頼がこれか……。
依頼単価は半日の拘束で銀貨5枚程度と、あまり割が良いとは言えない。
二件こなしてなんとか少し貯金ができるという感じだろうか。
「Fランクの依頼って、依頼を通して冒険者に適しているか確かめるためにあるらしいですよ」
「なるほどな。試用期間ってところか」
「でも、ユートの場合はどれも簡単すぎてつまらないですよね。それならできるだけ割りの良い依頼を受けられるといいんですが……あっ、これとか単価高いですよ!」
そう言って、レーナが持ってきて依頼書は『七色草』の採取依頼。
「七色草?」
「ポーションの原料です。薬草って言えばわかりますか?」
「体力を回復したりするあれのことか?」
「そうです! それです!」
この世界がなんとなくゲームっぽい感じだなぁと思いつつ当てずっぽうで言ってみたのだが、俺の予想は当たっているらしかった。
ただし俺が知っている特定のゲームというわけではないみたいだが。
「七色草は村から離れた場所に生えていますし、あまり纏まって手に入りません。強くはないにせよ魔物と戦闘になることも稀にあるみたいなので、単価が高く設定されているみたいですね」
「魔物と戦うこともあるのか? それってFランク依頼が簡単になってるのと矛盾してないか?」
「私もそう思いますが、ポーションは高ランクの冒険者ほど消費が激しいですし、高ランクの冒険者にとっては単価が安すぎて受けたくない依頼なので……」
「大人の事情ってやつか。まあ、採集なら冒険者っぽい依頼だし楽しくなりそうだ。これに決めた」
こうして、俺は依頼書を受付に持っていき、手続きを済ませた。
◇
それから数十分後。
ビストリア村を出て、東に位置するビストリア山の麓を歩いている。
この辺りが最も七色草の出現率が高い——と受付嬢から聞いたからだ。
ただの採集依頼のはずなのだが、今朝失敗したパーティがいたらしく俺たちが受けると言うとかなり喜ばれた。
どこの誰が受けたのかわからないが、Fランク依頼に失敗するのはさすがにまずいだろう……。
根本的に冒険者に向いていないので、今すぐ辞めた方がいいと思う。
どこの誰だか知らないが。
緩やかな斜面を上っていくこと数分。
「レーナ、あれってもしかして?」
「ユートは運がいいです! あれですよあれ! しかもいっぱい!」
「なかなか見つけられないって言われたけど案外簡単だったな!」
思ったよりも早く七色草と出会うことができた。
しかも、一本回収するのでも数時間かかると言われている目的の品が群を成して大量に生えているのだ。
まるで掴み取り大会である。
レーナの話だとポーションの原料だとかでかなりの数が必要らしいし、Fランク冒険者に依頼するほど切羽詰まって欲しいものらしい。
ということは常に依頼募集が出ている類のものなのだろう。
まとめて持って帰れば10件の依頼数を簡単にこなして、すぐにランクアップできるかもしれない。
期待が膨らむな。
「確か、根元から優しく抜くんだったな……こうか?」
一本の七色草を引き抜いた瞬間、俺の背後に大きな黒い影が浮かんでいた。
「ん? なんだ魔物か。邪魔だな」
見た目は、大きな熊のような魔物。とは言ってもこの辺に出てくる魔物は大したことがないらしいので、軽くファイヤーボールをぶっ放して黒コゲにしておいた。
俺たちの前に受けてたっていう冒険者たちがここを見つけなくてラッキーだったな。
もし見つけていたら、この量の七色草が一気にギルドに持ち込まれることになる。
依頼がなくなっていたかもしれないし、少なくともこんなに楽に依頼を達成することはできなかった。
俺はポイポイとアイテムスロットに七色草を詰め込んで行った。その数なんと、100本以上。正確な数は後で数えるとして、これだけの数があれば受付嬢もさぞ驚くことだろう。
「ユート、あの魔物は回収しないんですか?」
焦げた大熊を見て、不思議そうに尋ねるレーナ。
「回収したほうがいいのか?」
「魔物の素材は売れるので、たくさん運べるなら回収するのが良いですよ! 個体とか状態によって値段はマチマチなので値段まではわからないですけど、余裕があるならおすすめです!」
「なるほど、そういうことか。いくらでも入りそうだし、回収しておくよ。ありがとう」
レーナのアドバイスには助けられてばかりだ。
確かに言われてみれば丈夫そうな毛皮だし、どこかに需要があるのかもしれない。
……黒こげだけどな。
こうして七色草と邪魔してきた魔物の回収は終わったのだが——
ふとレーナを見ると、俺を通り越して向こうを見ていた。
「ユート、あそこに小屋があるみたいです」
「本当だな。こんなところに人が住んでるのか……」
その小屋には煙突も設置されており、少し煙も吐き出されている。
中に人がいるのだろう。
「さっきユートが倒した魔物、冒険者じゃない人が見たらすごく怖いと思います。この辺ではかなり強い方だと思いますし」
「え、さっきの強かったのか? 一撃で死んだぞ?」
「それはユートが強すぎるだけです!」
「そうなの!?」
俺的には経験が少なすぎていまいち客観的に自分の実力を捉えられていないのだが、レーナ曰くそういうことらしかった。
「そうか……となると一応、倒したってことだけ伝えておこうか」





