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友情と相棒と

登場人物


リナ・オースティン…剣聖ベルトランの娘、女性の身でありながら若干十四歳で上眼上陰流の免許皆伝を習得した天才剣士、〈理想の男性は兄〉と言い切る程のブラコンだが男性に求める条件は低く〈男は一つでもいいところがあればいい〉というモノ、背は低いがアイドル張りの可愛い顔をしており小柄な体には似つかわしくないグラマラスなボディをしている、サバサバしている性格であまり物事を深く考えない、滅多に怒らないが剣を持つと人が変わる。




ソフィア・ベルクマン…〈深淵の魔女〉ミラの最後の内弟子、天才的な頭脳を持ちずば抜けた魔法の才能を持っている、長い黒髪に整った顔立ち、スレンダーなボディとモデルばりの容姿をしていて〈息が止まる程美しい〉と評される美少女だが、感情の起伏が激しく激怒したり激しく落ち込んだりすることも多い、相棒のリナと違い家事はまるでダメで特に料理は壊滅的、思い込みが激しく惚れっぽい性格で妄想癖もあるという、いわゆる残念美少女。




グッドリッジ・ケンバートン…世界を救った三英雄の一人で神の知恵袋と呼ばれた僧侶、第一線を退いてからは冒険者組織アグムを立ち上げ大勢の冒険者の統括をしている、三英雄の仲間だったベルトランとミラからそれぞれリナとソフィアを預かり、二人を組ませたが常に問題を起こすのでいつも頭を抱えている。

「じゃあ明日も早いし寝るわね」


料理の仕込みも終わりシャワーも浴びたリナが二段ベッドの梯子を軽快に上っていく。


「うん、お休みリナ・・・」


すっかり機嫌の直ったソフィアが二段ベッドの下の段で横になりながら


リナの寝ている上の段を見つめていた、すると数分後には上から静かな寝息が聞こえてくる。


「相変わらず寝つきがいいわね、まだ床に入って3分も経ってないのに・・・」


クスリと笑ってリナの寝ている上を見つめる、そして真剣な表情で何か考え事を始めた。


『今回のモデリンド公国の護衛任務、名目上は〈私達に集団での規律を教える為〉


 という事だけれど、本当にそれだけなのかな?


 もしかして所長は何か別の根拠があって私達を同行させたいと


 思っていたのだとしたら・・・もしかして先日のムデルント村の


 ゴブリン退治も村長が嘘を言っているのをわかった上で私達に仕事を回したとか!?


 だったら本当に食えない人ね・・・まあ三英雄の一人〈神の知恵袋〉と言われた人だからな


 明日の護衛任務も何かあるのかもね・・・』


そんな事を考えている時、上から何やらヒラヒラと落ちてくる物体が目に入った


よく見てみるとそれはリナの使っている毛布だった


ソフィアは〈ヤレヤレ〉とばかりに思わずため息をついた。


「全く、本当に寝相が悪いわね、暖かくなってきたとはいえ


 まだ夜は冷えるっていうのに・・・」


〈しょうがないな〉とばかりに床に落ちた毛布をもって上の段に上がると


ぐっすり寝ているリナにそっと毛布を掛ける、するとリナは小声でボソリと寝言を口走った。


「兄さま・・・」


そんな姿をソフィアは愛おしい目で見つめた、そして思わず顔を近づけ耳元でささやいた。


「ずっと友達でいてねリナ・・・」


そう言った瞬間、急に恥ずかしくなりついつい周りをキョロキョロと確認する


わかっていたことではあるが周りに誰もいないことを確認すると


ホッとため息をつきジッとリナの寝顔を見下ろした。


「アンタが起きている時はこんな恥ずかしい事、絶対に言わないんだからね」


恐らく聞こえていいないであろう相棒に向かってそう言い放つとプイっと顔を横に向ける


その時、視界にリナが用意した明日の為の弁当が目に入った


「でも友情と愛情は別よリナ・・・愛は戦いなのわかってね・・・」


そう言って先ほどとは違った邪悪な微笑みを浮かべるソフィアであった。




翌日、モデリンド公国の警護任務の為に集められたアグム所属の冒険者たちが


集合場所であるアグム本部前に集まっていた、普段はパーティーごとに行動することが多く


これほどの大人数で仕事をするなんてことは滅多にない


各階級の冒険者達がザワザワと雑談をする中


リナとソフィアは今、部屋を出るところであった。


「早くしなさいよリナ、もう出発時間よ!?」


「ちょっと待ってよ、あと少し最後の味付けは朝にやらないとダメなのよ・・・」


「だったらもっと早く起きなさいよ‼︎いつもいつもギリギリまで寝てるし


 あんなに寝つきがいい人間は普通目覚めもいいはずなのに全く・・・


 点呼が始まるといけないから私先に言っているわよ‼︎」


「うんすぐに追い掛けるから先に行っててソフィア」


玄関のドアから飛び出す様に慌てて駆け出すソフィアの後姿を見て


思わずほくそ笑むリナ。


「最後の味付けは朝に・・・ね、ソフィア・・・」


リナは不気味な笑みを浮かべ小声でそう呟いた。


先に集合場所に着いたソフィアは不安げな表情で辺りを見回した


普段白等級者や銅等級者などはアグムの施設内で会うこともある為


ある程度顔見知りも多いのだが、高額報酬をもらっている金等級者や銀等級者のほとんどは


施設を出て外で暮らしている為、顔を知らない者も少なくない


普段はリナと二人でいることが多い為、わりかし誰とでも話せるソフィアだが


見知らぬ人が多い中で独りぼっちはやや心細かった。


『リナの奴おそいなぁ・・・何やってるのよ』


冒険者達でごった返している人混みの中、不安げな表情でリナの到着を待っていた。


そんな彼女の様子をジッと見ていた四人組の男達がいた


そのいかつい集団の男達は筋肉質でいかにも屈強そうな体を持っていて


その体には無数の傷跡がありひと目で数々の修羅場をくぐってきたことがわかる


そして全員目つきが悪くソフィアを舐めまわす様に見ながらヘラヘラと笑っていた


左腕には銀等級の階級を示すクラスインシグニアがあった。


「おい見ろよあの女、スゲーいい女じゃね!?」


「あんな美人アグムにいたか?」


「あの女の左腕見てみろよ、白等級だぜ」


「ホワイトかよ、じゃあシルバーの俺達が知らないのも無理はないな」


「じゃあ上位等級者として後輩に優しく指導してやるかヘッヘッへ」


四人の男はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら近づいて行くと


不安げな表情で相棒を待っているソフィアの背中から声をかけた。


「ちょっといいかいお嬢さん?」


後から急に声をかけられたソフィアは驚いて振り向くと


そこには屈強そうな大男が四人、ニヤつきながら自分を見下ろしていた。


「な、なんでしょうか?」


何で声をかけられたのかわからないソフィアは戸惑いながら不安げな表情を浮かべる。


「そんなに警戒しなくてもいいじゃん、俺達同じアグムの仲間なんだし」


「そうそう、上級等級者として先輩として後輩に優しく教えてやろうって言っているんだ」


「ありがたい話だろ、俺達シルバーが君の様なホワイトに指導してやろうっていうんだ」


「どうだい、今回俺達と同行してみるってのは、色々教えてやるぜ色々な・・・」


ヘラヘラといやらしい笑みを浮べながらソフィアを囲むように見つめる男達。


「いえ、結構です、私は相棒がいますのでその子と一緒に行きますから・・・」


愛想笑いを浮かべながらなんとか柔らかく断ろうとした


ソフィアは女ばかりの環境で育った為、基本的には男性としゃべるのはあまり得意ではない


リナと二人でなら安心感とリナへの対抗意識もあり普通に話すことも可能なのだが


こういった一人の時に数人の男に迫られるとどうしていいのかわからなくなってしまうのだ。


「ああ!?せっかく俺達シルバーがわざわざホワイトに指導してやろうって言ってんだぞ」


「先輩で上位等級者のいう事が聞けねえってか!?」


「素直に言う事聞いておいた方が身のためだぜへっへっへ」


恫喝に近い言葉をかけながらグイグイ迫って来る四人の男達。


「すいません、私は結構ですから・・・通してください」


身をかがめながらその場を立ち去ろうとする、その時一人の男がソフィアの尻を触った。


「きゃあ」


思わず小さな叫び声をあげその場を逃げ去るように立ち去った


逃げられた男たちはソフィアの背中を見つめながら舌打ちをする。


「ちっ、逃げやがって面白くねえ・・・」


「たかがホワイトの分際で、この仕事が終わったら呼び出してやろうか」


「先輩であり上位等級者である俺達に対して何だあの態度はよ」


ブツブツと悪態をつきながら不満を口にする男達


その様子を少し離れた所から見ていたリナはため息交じりに呟く。


「ったくしょうがないなぁ・・・」


そしてニコニコと愛想笑いを浮かべながら四人の男に近づいて行った。


「あの~すいません私の相棒が先輩方に失礼なことをしたみたいで・・・」


低姿勢で話しかけるリナにまだ不満げな男達はギロリと睨むように見下ろした。


「ああ!?なんださっきのホワイトの相棒か、あいつによく言っておけ


 上位等級者のいう事はちゃんと聞くようにってな‼︎」


「大体俺達シルバーが指導してやるって言ってるのに断るとは何事だ」


「この世界はな強い者が偉いんだ、その辺をよく理解するんだな」


「そういえばアンタも中々可愛いじゃねーか、どうだい俺達と一緒に行かないか?」


リナはペコリと頭を下げると笑顔を絶やさず丁重に対応する。


「いや〜スミマセン先輩方、私達は今日モデリンド公国一行と同行するよう


 グッドリッジ所長に言われてますので、これで失礼します


 相棒にはよく言っておきますので・・・では」


そう言ってそそくさと立ち去ろうとした、すると再び舌打ちする音が聞こえてきた。


「ちっ、面白くねえ、この仕事が終わったら俺達のところまで挨拶に来いって言っとけ」


「そうだな、あの女にもよく言っておけよ、何ならエロい衣装でも着て来いってな」


「さっき尻を撫でてやったら悲鳴なんかあげてやがったからなヒッヒッヒ」


その時、立ち去ろうとしていたリナが急に動きを止めた。


「尻を撫でた?エロい衣装ですって?・・・」


立ち去りかけたリナがクルリと反転して再び男達に近づいて行く。


「どうした姉ちゃん、やっぱ俺達と一緒に行く気になったのか!?」


それには答えず微笑みながら小声でささやいたリナ


「いえ、ちょっと内密のお話がありまして、本部の建物裏に来てもらえませんか?」


リナの提案に男達は顔を見合わせニヤリと笑う。


「おういいぜ、もうすぐ出発だから手短に頼むわ」


「はい、すぐ済みますから・・・」


愛想よく率先して建物裏に誘導するリナ、男達は小柄ながらグラマラスなリナの体を


舐めまわす様に見ながら下卑た笑いを浮かべている、本部の建物裏は物陰に隠れて


死角となっている為、誰からも見えない場所であり隠れて何かをするには格好の場所であった


建物裏に着くと待ちきれないとばかりに一人の男がリナに顔を近づける


「そうやって大人しく俺達のいう事聞いていればいいんだよ


 さあこれからどうやって可愛がって・・・うぐっ!?」


ニヤついた男の顎を右手で掴み力を込めるリナ


まさかの展開に男達は動揺を隠せなかった。


「汚い顔近づけてくるんじゃないわよ、このゲス野郎が・・・」


まるで汚物でも見るように冷淡な視線をぶつけ静かに言い放つ


顎を掴まれている男は慌てて両手を使い必死でリナの右手を


引きはがそうとするがどうやってもビクともしないのだ。


「テメー何しやがる、ベンから手を離せ‼︎」


後ろの男が物凄い剣幕で殴りかかって来た、しかしその拳を首をひねって軽くかわし


スッと足を引っかけてやると殴りかかってきた男は勢いよく転倒し壁に激突した。


「このアマ、許さねえぞ、覚悟しろ‼︎」


「ホワイトの分際で俺達シルバーに逆らうとどうなるか思い知らせてやる‼︎」


リナはベンと呼ばれる男の顎を右手でつかみながら屈強そうな男二人の攻撃を


難なくかわし膝蹴りと手刀で一撃を加えると殴りかかってきた男二人は


その場に卒倒し動かなくなってしまう、その光景を見て


顎を掴まれ続けているベンの顔面から血の気が引いた。


「シルバー風情が調子こいてるんじゃないわよ、その程度の力で情けない・・・」


倒れている三人の男を見つめ吐き捨てるように言葉を投げかけた


そして再びベンの方を向き直ると少しの間無言で鋭い視線を向けたのである


完全にビビってしまったベンは体を小刻みに震わせながらゴクリと息を飲んだ。


「いい、そこで寝てる男達にもよく言っておきなさい、私の相棒はね


 本当はアンタらみたいなのが気楽に手を出していいような女じゃないのよ


 今度私の親友におかしなちょっかいを出したら本気で潰すから、わかった?」


顎を掴まれながら高速で何度もうなづくベン、リナの表情が急変し再びニッコリ笑う。


「わかってくれて嬉しいです先輩、でもこの事はくれぐれも内緒にしてくださいね!?」


ウインクしながら立ち去る小柄な美少女の後ろ姿を呆然と見つめるベンだった。


ソフィアは待ち合わせ場所になかなか来ないリナにイラつき始める。


「何やってるのよあの子は、本当に時間にルーズなんだから・・・」


すると手を振りながら走ってくるリナの姿が目に映りソフィアの顔がパッと明るくなる。


「いや~ゴメンゴメン、待ち合わせ場所間違えちゃってさ~」


頭をかきながら悪びれることなく謝るリナを思わず睨みつけた。


「アンタが遅いせいでさっき変な男達に絡まれちゃったわよ‼︎」


「へぇ~そうなんだ、そいつらいい男だった?」


その問いかけに対し、疲れた様にゆっくりと頸を振った。


「全~然、ガラは悪いし品もないし、でも急に声をかけられたからどう対処していいか


 わからなくってね・・・アンタみたいに男ばっかに囲まれて育ってる人間には


 わからない悩み何でしょうけどね、あ~あ男に囲まれて生活するなんて


 ある意味天国じゃない羨ましいわ・・・」


そんなソフィアのボヤキにも似た台詞に対し、リナは口をとがらせて反論する。


「道場の連中をそういう目で見たことは無かったからなぁ・・・


 でも男ばっかの中で生活するなんてそんないいもんじゃないよ


 あいつらいっつも汗臭いし、話し合わないし無神経だし


 たまに私の事いやらしい目で見てくることもあったしね・・・


 私に言わせれば女ばっかに囲まれて生きてきたアンタの方がよっぽど羨ましいよ」


ため息交じりにそう語ると今度はソフィアは顔の前で激しく右手を振り否定した。


「いやいや、女ばっかってのもそんないいもんじゃないわよ、やたら気を使うし


 話は無理やり合わせなきゃいけないし、妬み嫉みといった嫉妬が凄いしね


 常に自分を抑えて合わせなきゃいけないってのが辛いの何のって


 とにかく女同士って面倒くさいのよ」


「ふ~ん、お互い隣の庭はよく見えるってやつね、今の方が気楽でいいわね」


「それは同感ねフフフ」


二人がそんな会話で盛り上がっていた時、グッドリッジがモデリンド公国の


ベルゲンディードと共に談笑しながら近づいて来た。


「あっ、おはようございます所長、それにベルゲンディード様


 今日はよろしくお願いします、二人とも料理を作ってきましたので


 昼食を楽しみにしててくださいね」


満面の笑みで二人に挨拶をするリナ、それに対し


ベルゲンディードはペコリと頭を下げ嬉しそうに微笑み返す。


「おはようございます、お昼が楽しみですね、今日はお願いいたします


 後でまたお会いいたしましょう、では」


三人に頭を下げ去っていく後姿をボーっと見ている二人


「やっぱいい男ね~イケメンで性格もいいとか・・・」


「さっきの男達とは大違いね、後姿までもカッコいい・・・」


頬を赤らめ見惚れている二人に”ウォッホン”とわざとらしい咳払いをするグッドリッジ


「お前ら今日はモデリンド公国一行のそばで同行してくれ、それとリナは前回の仕事で


 剣がダメになったと聞く、だから代わりの剣を持ってきてやったぞ、ほら」


リナは手渡された剣を持ち鞘から引き抜いてみる、すると一目見てガッカリ感を


前面に出したかのような疲れたような表情でため息をついた。


「お前ら今回はやりすぎるなよ、学習も兼ねていることを忘れるな」


そう言って両者の顔を見つめる、しかしソフィアと目があった瞬間、お互い


昨夜の事を思い出したのか赤面した後、慌てて顔を背ける、その反応を見て


思わずニヤ~っと笑うリナ。


「あれあれ~何その反応、まるで青春の甘酸っぱい思い出みたいな感じじゃない」


茶化す様なリナの言葉を聞き、キッと睨みつけ殺気交じりの視線を向けた。


「何が〈甘酸っぱい青春の思い出〉よ、苦々しい悪夢の黒歴史よ黒歴史!!」


興奮気味のソフィアをなだめるようにグッドリッジも口を開いた


「そ、そうだぞ・・・そもそもわた・・・私も昨夜は何も、ナニも見ていないし・・・」


顔を背けながらも耳を真っ赤にしてたどたどしく話すグッドリッジ


「そんな下手な嘘ならつかないでくださいよ所長、余計にコッチが惨めになりますから‼︎」


ツッコミ気味に抗議する相棒の肩にそっと手を乗せてリナはゆっくり首を振った。


「まあ昨日はお互い不幸な事故だったという事でいいじゃない・・・ね!?」


「ね!?じゃないわよ!!確かに不幸な事故だったけどアンタが引き起こした


 人身事故じゃない、なに善意の第三者ヅラしてるのよ!!」


怒るソフィアをなだめるリナ、いつもの見慣れた光景に目を閉じ微笑むグッドリッジ。


「いい加減に止めないかお前ら、そんなだからお前らは世間から・・・はっ!?」


グッドリッジが何かに気づき我に返って両者の顔を見つめた、するとさっきまで


言い争っていた二人がものすごい形相で自分を睨みつけていたのだ


「世間から・・・なんですか?それ以上言ったら・・・わかりますよね?」


「所長、世の中にはいっていい事と悪いことがあるって知ってますよね?」


二人は”それ以上言ったら殺す”と言わんばかりに殺気立った目で睨みつけていた


「じゃ、じゃあ私は本部の仕事に戻る、頼んだぞお前ら」


そう言ってそそくさと立ち去るグッドリッジ、その後姿を見つめ


二人はようやく落ち着きを取り戻した。


出発の時間が迫り、待ち合わせ場所にはアグム所属の冒険者であふれていた。


「うわ~ウチの組織ってこんなに人いたんだね!?」


「まあこれでも七割ぐらいらしいけど、でも上級冒険者は殆ど来てるって話よ」


「ふ~ん、確かにホワイトはほとんどいないね、私達だけってことはなさそうだけど」


「まあこれだけのメンツが揃ってたらホワイトの出る幕なんかないだろうしね」


「そうよ、私達の今日の戦いは魔族とのモノじゃない、いわば女の戦いよ


  覚悟しなさいソフィア!!」


「あら、ガサツなあなたに負ける要素が見当たりません事よホ~ホッホッホ!!」


二人がバチバチと火花を散らしていた時、皆の前に出てきて大声で呼びかける者がいた。


「みんな注目してくれ、今回の警護任務でリーダーをする事となった


 アイゼナッハ・ゲルガーだよろしく、これほどの大人数で行動することは滅多にない


 皆、規律正しく理性をもって行動してくれ以上だ‼︎」


アイゼナッハが語り終わるとパラパラと拍手も起こり取り巻き達が群がっていく


そんな姿を不思議そうに見つめるソフィア。


「あれが我がアグムが誇る唯一のS級冒険者か・・・確かに腕も正義感も強そうな


 いかにも剣士って感じね、彼の事は知ってるのリナ?」


「もちろん知ってるわ【鬼岩真斬流】免許皆伝の剣士、剣も一度見たことあるけど


 間違いなく一流よ、大体一流の剣士はどこかの国軍に入るのが普通なんだけど


 所長がどうしてもアグムに来てくれって口説き落としたらしいわ」


「ふ~ん、そうなんだ、でもなんで一流の剣士は国軍に入りたがるの?」


感心気味に聞いていたソフィアが素朴な疑問として問いかけた。


「まあ剣士ってのは名誉を重んじる傾向があるからね、冒険者ってのは


 色々な依頼で出向くことが多いからどうしても


 〈雇われ用心棒〉みたいなイメージがあるのよ・・・


 〈国の為に主君のために信念を持って戦いたい〉といった


 剣士の誇りとでもいうのかな?それとはかけ離れているからね


 それにぶっちゃけお給料も国軍の方がいいみたいだしね」


「ふ~ん、そうなんだ・・・じゃああのアイゼナッハとアンタはどっちが強いの?」


リナはその質問には答えなかった、しかしニヤリと笑ったその顔が答えを示していた。


それを見てどこか嬉しい気持ちになるソフィア、今度はリナが視線を移すとある女性の


団体を見つけた、その女性ばかりの団体は楽し気に話してはいるが


どこかよそよそしい感じが伝わってくる。


「ねえ、あの集団って魔法士でしょ?ウチの組織の上級職って


 剣士に比べて魔法士は多いよね?


 S級こそいないけどA級の金等級は魔法士が一番多いって聞いたけど、何でなの?」


その質問にソフィアは思わず目を伏せため息をついた。


「A級以上の一流の魔法士って女性がほとんどなのは知っているわよね?


 彼女たちも元はどこかの国軍に属していた人間ばかりなのよ


 でもどこの国にも魔法士の組織を牛耳っている


 女帝みたいな人がいてね、その人に睨まれたら最後・・・という訳よ」


リナは思わず顔をしかめた。


「うへ~嫌だ嫌だ、それが例の女同士の面倒くさい部分ってやつ!?」


無言でコクリとうなづくソフィア、そうこうしている内に出発となりグッドリッジの


指示に従いモデリンド公国一行の真横で同行することとなった二人


リナは先ほどもらった剣をもう一度引き抜いて再びため息をついた。


「ひどい剣・・・強度も切れ味も最低の乱造品、当然スキルも無いし


 【龍眼上陰流】の剣士がこんななまくら刀使わなきゃいけないなんて


 ホント泣けてくるよ・・・」


トホホと言わんばかりの顔で肩を落とす相棒に食い気味で反論した。


「アンタなんかまだマシよ、いくらなまくらでもちゃんと斬れるんでしょ!?


 白等級が使えるD級魔法なんて、あんなの魔法じゃないわ


 単なるおまじないよおまじない、このクラスインシグニアによる使用規制って


 何とかならないのかしらね!?」


「まぁ我がアグムの敬愛なる所長が作った規則だからね・・・


 もう一回アンタの裸でも見せて変えてくれって訴えてみたら?」


手で口を抑えながら二ヒヒと笑うリナに目くじらを立てるソフィア。


「あんた一々その事を混ぜっ返すんじゃないわよ‼︎


 全然反省の色が見えないわねいう事を聞かない悪い子には


 お仕置きが必要かしら!?」


右手を上げて魔法を放つ仕草を見せるソフィアに、リナは笑いながら謝った


二人がいつもの様にそんな話をしていると、そこに馬に乗ったベルゲンディードが現れる。


「何やら楽しそうですね私も混ぜてほしいくらいです


 美女お二人でどんなお話をしていたのですか?」


さわやかに質問するベルゲンディードに対し苦笑いで誤魔化す二人


まさか〈規則が気に入らないから色気で迫って変えさせる算段の話〉などといえるはずもなく。


「何でもない話ですよ、本当に他愛のない話で聞かせるようなモノではありません」


「そうですそうです、ごく普通の女の子の会話です、お耳に入れるような話では・・・」


「そうですか」


ニコリと笑うベルゲンディード、しかしその笑顔の後にふと憂いの様な表情を見せた。


そんなベルゲンディードの態度を見てリナが思わず問いかける。


「あの・・・何か心配事があるんですか?今回の会合が


 とても重要な事だとは聞いていますが・・・」


心の中の憂いを見抜かれたベルゲンディードは少し驚いた表情を見せるが


すぐに思い直し目を閉じたまま笑みを浮かべた。


「見抜かれてしまいましたか・・・実は今回の我がモデリンド公国と


 会合相手のゲルムガルト帝国には浅からぬ因縁がありまして・・・」


少し重い口調でそう語るベルゲンディードに今度はソフィアが問い掛ける。


「浅からぬ因縁とはなんですか?もし差し支えなければお聞かせ願えませんでしょうか?」


ベルゲンディードは目を閉じたままコクリとうなづいた。


「35年程前の事です、まだ世界には連合が無く各国が独立していた頃の話です


 我が国が魔族の大攻勢を受けたことがありまして、各国に援軍を要請したんです


 しかしその援軍要請に応じてくれたのはゲルムガルト帝国だけでした


 援軍のおかげもあり何とか魔族の攻撃を防ぐことができましたが、損害も大きく


 多くの人間が命を落としました・・・しかし魔族はすぐさま大軍を率いて


 攻めてきたんです、しかも今度はゲルムガルト帝国にです、当然の様に


 ゲルムガルト帝国から援軍の要請が来ました、しかし我が国は前回の攻撃で


 とても援軍を出せる状態ではなかったんです、それでも恩義に報いる為


 少しでも出すべきだと判断し500人ほどの援軍を差し向けました・・・


 戦闘は苛烈を極め何とか撃退して魔族を退却させたものの多くの死傷者を出し


 ゲルムガルト帝国の村が二つ壊滅したと聞いております・・・


 その戦いが終わった後、ゲルムガルト帝国内では我が国に対し不満が噴出しました


 ”ゲルムガルト帝国は5000人の援軍を出しモデリンド公国を救ったのになぜそちらは


 500人しか出さなかったのか!?”とね・・・ゲルムガルト帝国の人達の怒りは


 魔族よりも寧ろ我が国に向いてしまいまして、それ以来ゲルムガルト帝国では


 ”モデリンド公国は信用できない”となってしまったのです・・・」


リナとソフィアは言葉が出なかった、戦いとはいかに無情で理不尽なモノなのかと


問われているような話であった


「スミマセン何か暗い話をしてしまって、今回の会談には人類の存亡がかかっていると


 言っても過言ではありません、過去のしがらみや確執とかいっている場合ではないのです


 何としても話をうまくまとめて我々の誠意をわかってもらえるよう全力を尽くします」


優しい口調ながらも固い決意が感じられる、さすがに国の代表として選ばれただけはあるな


と二人は感心していた、しばらくしてモデリンド公国に到着し他の代用団とも合流すると


いよいよゲルムガルト帝国へと出発する、今回の警護団リーダーであるアイゼナッハを


先頭に代表団一行を囲む様な形で進んでいく、時間も昼近くになってきて一行は


ウレスコル原野という所に差し掛かった、ここは常に霧が立ち込めていて視界も悪く


魔族の勢力圏内に近い為、今回の道中で最も警戒を必要とする場所である


「みんなもうすぐウレスコル原野だ、より警戒を強め隊列を乱すなよ!!」


警戒を促すアイゼナッハの声が響き皆の緊張が否が応でも高まっていく


そんな中、そんな緊張などどこ吹く風といった様子で他事を考えている者がいた


もちろんリナとソフィアの二人である。


『このウレスコル原野を抜けたらお昼ご飯の休息をとるはず、そこが勝負よ


 私の女子力の前にひれ伏すがいいわソフィア!!』


『リナの料理は完璧だった、料理が互角なら私は負けない、私のアピール&プレゼン能力で


 圧倒してやるわ、愛とは戦い、そして戦いとは戦略よ、覚悟しなさいリナ!!』


ベルゲンディードも馬上で緊張感を漂わせた表情を浮かべチラリとリナとソフィアの二人


に視線を移す、すると二人はメラメラと燃える瞳で見つめ返し無言で大きくうなづいたのだった。


























展開的に二人のやり取りが中心で中々バトルにはいれない内容が続いていますがこれから本格的にバトルに入って行ます、それまで気長にお付き合いいただけると嬉しいです、では。

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