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友情の形

登場人物


リナ・オースティン…剣聖ベルトランの娘、女性の身でありながら若干十四歳で上眼上陰流の免許皆伝を習得した天才剣士、〈理想の男性は兄〉と言い切る程のブラコンだが男性に求める条件は低く〈男は一つでもいいところがあればいい〉というモノ、背は低いがアイドル張りの可愛い顔をしており小柄な体には似つかわしくないグラマラスなボディをしている、サバサバしている性格であまり物事を深く考えない、滅多に怒らないが剣を持つと人が変わる。




ソフィア・ベルクマン…〈深淵の魔女〉ミラの最後の内弟子、天才的な頭脳を持ちずば抜けた魔法の才能を持っている、長い黒髪に整った顔立ち、スレンダーなボディとモデルばりの容姿をしていて〈息が止まる程美しい〉と評される美少女だが、感情の起伏が激しく激怒したり激しく落ち込んだりすることも多い、相棒のリナと違い家事はまるでダメで特に料理は壊滅的、思い込みが激しく惚れっぽい性格で妄想癖もあるという、いわゆる残念美少女。




グッドリッジ・ケンバートン…世界を救った三英雄の一人で神の知恵袋と呼ばれた僧侶、第一線を退いてからは冒険者組織アグムを立ち上げ大勢の冒険者の統括をしている、三英雄の仲間だったベルトランとミラからそれぞれリナとソフィアを預かり、二人を組ませたが常に問題を起こすのでいつも頭を抱えている。

さて話は戻り、リナとソフィアがムデルント村の件でグッドリッジに怒られた二日後の話である


アグムの所長グッドリッジの元にある一件の依頼が舞い込んできた


それはモデリンド公国という国からのものであった、内容は


”ゲルムガルド帝国へ外交特使としてベルゲンディード侯爵と


その一団が訪国する為、その護衛を頼みたい”


というモノであった、通常こういった国の要人警護はその国の軍の仕事なのだが


最近魔族の動きに怪しいところがあり〈近々モデリンド公国へ攻め込む可能性有り〉


という情報が入っていた為、モデリンド公国としてはむやみに国軍を動かせない状態だった


そういう理由もあり今回アグムに正式な依頼が来たのである


依頼内容には〈アグムに所属している上位冒険者を全て派遣してほしい〉というモノで


その対価として料金は通常の1.5倍支払うという条件である。


アグムとしては非常に大きな仕事であり、先日のムデルント村の一件もあって財政難に


悩むグッドリッジとしては正に〈渡りに船〉といえる仕事である


しかしグッドリッジには何かが引っ掛かるものがあった


今回のこの両国による交渉はこの世界の人間にとっては非常に重要な意味を持っていた


それは今人間が置かれている立場と状況に大きく関係している。


30年前に魔王ゴルバディールによって人類が存亡の危機を迎えた時


人間の国は全部で12か国あったのだが魔王によって4か国が滅ぼされてしまった


残った8か国は人類の存亡をかけ過去のしがらみを捨て連合を組み対抗した


三英雄のおかげで魔王を打ち倒し絶体絶命の危機を乗り切ったが


今後の事も考え残った8か国は【人類共和連邦】という統一連合として一致団結することを決め


各国は軍事協定を組み経済の自由化、通貨の統一、法律の一本化などを


急速に推し進めた、しかし各国にはそれぞれ王がおり自治も認められていた為


細かなところで各国の意見や要望が合わずその都度交渉と調整により何とか


乗り切っていた、しかし今回のモデリンド公国とゲルムガルト帝国の外交交渉には非常に


重大な問題が持ち上がっていたのだ、それはモデリンド公国に関する噂から始まる


その内容は〈モデリンド公国には魔族に通じている内通者がおり情報が洩れている〉


というモノであった、これを警戒したゲルムガルト帝国は


〈人類共和連邦からモデリンド公国を外してほしい、出なければ我が国は脱退する〉


と言い出したのだ、もちろん噂話程度でそんなことができるはずもなく


ゲルムガルト帝国の要求は退けられた、しかしそれを理由にゲルムガルト帝国が


【人類共和連邦】からの脱退などされたら連合そのものが崩壊しかねない


それを危惧したモデリンド公国の代表団がゲルムガルト帝国側を


説得するために今回の外交交渉となったのである、今回グッドリッジの気がかりは


内通者の噂と魔族の動きである、依頼書を見つめながら腕組みをして考えていた。


『魔族が怪しげな動きをしているせいでモデリンド公国の国軍が動かせない


 そんな状況でモデリンド公国の悪い噂、どうもタイミングが良すぎる気がするが』


しばらく考えていたグッドリッジは何かを思いついたかのように机の上の呼び鈴を鳴らす


するとドアが開き隣の部屋から眼鏡をかけた知的そうな女性が姿を見せた


「お呼びでしょうか所長?」


この女性はグッドリッジの秘書兼事務長を務める有能なスタッフ


ステラという女性である、事務方の人員が足りない現状において


この女性はグッドリッジにとって非常にありがたい存在だ。


「ステラ君、忙しいところすまないね、リナとソフィアをここに呼んでくれないか?」


ステラは軽く一礼した後、無感情な口調で淡々と答える。


「かしこまりました、しかし所長、もうすぐモデリンド公国のベルゲンディード様が


 明日の件でお越しになる時間ですがよろしいですか?」


「ああかまわない、二人には伝えたいことがあるだけだからね


 それほど時間はかからないはずだよ」


「かしこまりました、では二人を呼んでまいりますので少々お待ちを」


そう言って深く頭を下げると静かに部屋を出て行った。


しばらくすると、呼び出されたリナとソフィアが所長室のドアの前に来ていた


しかし二人は二日前にこっぴどく叱られている為


すぐにドアをノックすることを躊躇していた。


「ねえ、今回は何で呼び出されたんだと思う?」


「そんなのわかるわけないじゃない、私達前回から仕事してないし


 改めて怒られるような事はしてないはずだけど・・・」


「でもこの前の仕事で私達が大損害を出した・・・とか言ってたじゃん」


「まさか、当分の間減俸とか!?嫌よそんなの、ただでさえお給料安いのに!!」


ソフィアはふくれっ面でリナを睨むように見つめる


「そんな事あたしに言ったってしょうがないでしょ、まあここであれこれ想像してても


 虚しいだけだし、覚悟を決めて入るわよ!!」


リナが気合を入れたような表情でそう言うとソフィアも大きくうなづいた


そして所長室のドアをノックすると中から”どうぞ”という返事が返ってくる


静かにドアを開け恐る恐るという感じでゆっくりと顔を出すリナとソフィア


「お呼びと聞いてきましたリナ・オースティンとソフィア・ベルクマン入りまっす」


「一体今日は何のお説教・・・じゃなかった、話でしょうか?」


二人の姿を見て立ち上がるグッドリッジ、先日とは違い柔らかな表情で近づいてきた


「今日お前らに来てもらったのは他でもない、仕事の依頼だ」


その言葉を聞いて思わずほっと一安心する二人


「そうですか仕事って一体どんな・・・」


リナが不思議そうに問いかけるとグッドリッジはにこやかに答えた


「なあに実に簡単な仕事だ、今度モデリンド公国の外交特使の護衛に


 我がアグム所属の上位冒険者達を全て派遣して欲しいとの依頼でな


 当然報酬も破格だ、いい機会だからお前らも一団に同行してみろ


 お前らは規則は守らないし他の者達との協調性もない


 ここでもう一度団体行動の基礎を学び規律正しい冒険者としての


 あるべき姿というか・・・なんだお前らその顔は?」


嬉しそうに話しているグッドリッジとは対照的に二人の表情は


少しのやる気も感じることができない、というより


嫌気を隠す事なく全面に出した表情を浮かべていた。


「私やらないわよ、そんな仕事」


「私もパスね、何でそんな事私達がしなきゃいけないのよ」


悪びれることなくそう言い切る二人、にこやかだったゴッドリッジの顔が一瞬引きつった。


「お前ら、何を言っているんだ?せっかくの仕事だぞ


 報酬がもらえる上に勉強にもなる


 こんな機会は滅多にないんだぞ・・・」


グッドリッジはなんとか説得しようと必死に語りかけるが


そんな態度とは対照的にリナが大きくため息をついた。


「ウチの上位冒険者がほとんど行くんでしょ?だったら私達に


 出番なんかほとんどないじゃない、付いていくだけの仕事とか


 冗談じゃないわよ・・・」


リナの意見に大きくうなづくソフィア


「そうね、そんなんじゃランクアップとか望めないしね


 そもそも勉強とか何で私達より弱い人たちに教わらなきゃいけないのよ


 二人での仕事ならこっそり巨大魔法使うってことも出来るけど


 団体じゃあ・・・いえ、何でもないです」


先ほどまで上機嫌だったグッドリッジがワナワナ震えだす


「お前らな・・・先日どれほどの損害を出したと思っているんだ?


 その損失を埋めるために私がどれほど・・・」


必死に怒りを抑えながら話すグッドリッジ、しかしそんな上司の思いなど


まるで無視するかのように語り続ける二人


「前回の仕事はあくまで前回の事でしょ、未来ある若者は前を向いて歩いていくものなのよ」


「そうそう、それに仕事を受けるか受けないかは私達に選択権があるはずじゃない


 もっと私達にふさわしい仕事ってのがあるはずですよ


 そういうのをお願いします所長」


あまりに自分勝手な言い草にブチギレそうになったグッドリッジ


しかしその時”コンコン”とドアをノックする音がして秘書兼事務長のステラが入って来た


「所長、ベルゲンディード様がおいでになりましたが、いかがいたしましょうか?」


ステラの登場で少し冷静さを取り戻すグッドリッジ


「そうか、もうおいでになったのか・・・では少し待っていてもらって・・・」


その時、グッドリッジは何かを思いつき口元がニヤリと笑った


「いやステラ君、ベルゲンディード様をここにお通ししてくれ」


ステラは少し驚いた表情を見せ、リナとソフィアをチラリと見た後


「よろしいの・・・ですか?・・・」


「ああかまわない、お呼びしてくれ」


「かしこまりました、お呼びしてまいります」


ぺこりと頭を下げ一礼した後、部屋を出て行くステラ


「来客ですか?誰かいらっしゃるのでしたら私達はもう帰りましょうか?」


「そうね、お仕事の客ですよね?今回仕事を受けない私達が


 ここにいてもしょうがないでしょうから」


もう話はついたとばかりに退席しようとする二人をグッドリッジは引き止めた


「まあ待て、お前たちもまだ帰るな、話だけでも聞いていくがいい」


二人は顔を見合わせ首をかしげる、その時グッドリッジが


怪しげな笑みを浮かべた事を二人は気が付かなかった。


「話だけ聞いてもねえ・・・」


「どうせこの仕事は受けないんだから時間の無駄というか・・・」


二人は怪訝そうな表情を浮かべブツブツ文句を言っている時


再びドアをノックする音が聞こえてきた、グッドリッジの


”どうぞ”という返事に応じてドアがゆっくり空いた


入って来たのは背の高い30歳ほどの男性だった、身なりが立派で所作にも気品あふれており




肩まで伸びた黒髪に甘いマスク、服の上からでもわかる引き締まった体と


まるで男性モデルの様な容姿をしていた。


「初めましてグッドリッジ様、私が依頼を出したモデリンド公国のベルゲンディード


 です、此度は無理な依頼を承知していただきありがとうございます


 少し時間より早く着いてしまい、お約束の時間より早かったのですが


 こうして来てしまいました・・・おや、来客中でしたか?


 それは申し訳ありませんでした、私は外で待っていましょうか?」


リナとソフィアの二人の姿を見て気を遣うベルゲンディード


それを呆然と見ている二人、そして突然立ち上がると


グッドリッジに近づき小声で耳元に問いかけた。


「あのイケメン・・・じゃなかった、立派な方はどなたですか?」


「今回の依頼者、ベルゲンディード様だ」


「このいい男・・・じゃなくてベルゲンディード様は独身ですか?」


「モデリンド公国のベルゲンディード侯爵は独身で恋人もいない、それがどうした?」


その言葉に二人は顔を見合わせ嬉しそうに微笑む、いきなり何が起こったかわからない


ベルゲンディードは戸惑い気味に口を開いた


「あの・・・忙しいようでしたら、私は外で待っていますが・・・」


戸惑うベルゲンディードにグッドリッジが微笑みながら右手を差し出した


「いえ、大丈夫です、明日の警護の件でこの二人と話していたんですが


 この二人がどうしても警護はやりたくないと申しておりまして…


 説得していたところなんです」


グッドリッジはそう言ってチラリと二人を見る、するとリナが前に出てきて


「何を言っているのですか所長、私は最初から参加すると言っているではありませんか


 万全を期する為、警備体制に不備があってはと色々指摘していただけです、嫌ですわ」


今度はソフィアがリナの前に出てくる。


「私達に・・・いえ私にお任せくだされば安全で快適な旅を


 保証いたしますわ、どうぞご安心を」


謎の圧力でぐいぐい来る二人に対し少し気圧されながらも優しく微笑むベルゲンディード。


「ありがとうございます、あなた方の様な美女に守っていただけるのは光栄の至り


 モデリンド公国の代表としてだけではなく一男性として感謝の意を表します」


丁寧にお辞儀をするベルゲンディードには生まれ持った気品の良さを感じさせる


雰囲気があった、そんな姿を顔を赤らめてボーっと見つめるリナとソフィア


『なにこのイケメン侯爵、貴族なのに全然偉ぶらないしすっごい性格よさそう!?』


『カッコイイ・・・メチャクチャいい男、このチャンスは逃さない


 リナには悪いけど友情と愛は別よ!!』


二人がベルゲンディードをボーっと見とれている時


グッドリッジとベルゲンディードは明日の警備の細かな打ち合わせをしていた


それもつつがなく終わるとベルゲンディードは席を立ち


グッドリッジに右手を差し出した。


「このような形で世界の三英雄の一人にお会いできるなんて光栄でした


 では明日よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします、我々は午前10時にはそちらに伺いますので


 それまでに出発の準備をしておいていただければ結構です、


 あっ、それと向こうに着くのは午後3時くらいでしょうから


 外交特使団の方々の分もこちらで食事を用意しておきますよ


 もちろん経費に含みますから余分な費用は必要ありませんのでご安心を」


「それは助かります、私は今日こちらに滞在させていただきますが


 国にはそう伝えるよう手配いたしますのでよろしくお願いします」


グッドリッジの好意に頭を下げるベルゲンディード、その時リナの目が光りニヤリと微笑んだ。


「所長、ちょっとよろしいですか?食事の用意とおっしゃいましたが


 もしかしてアグムの食堂に作らせるおつもりではないでしょうね?」


「ああ、我がアグムの食堂のコックに作らせるつもりだが・・・


 それがどうかしたか?」


突然の質問に戸惑うグッドリッジに対しフッと笑いゆっくり首を振った。


「所長、あんな栄養価しか考えていないような食事は料理とは言えません


 あんなものをベルゲンディード様達にお出しする訳にはまいりません


 ですので皆様の分は私が作ります、こう見えても料理には少々自信がありますので」


そう言ってソフィアの方をチラリとみてニヤリと笑うリナ


まるで勝ち誇った様なリナの笑みに思わず歯ぎしりするソフィア。


『しまった、リナの奴、得意の料理でアドバンテージを稼ごうっていう魂胆ね!?』


『悪いわねソフィア、昔の有名な大賢者様の名言に”男の心をつかむにはまず胃袋を掴む事”


 ってのがある、料理が壊滅的にダメなアンタには手も足も出ないでしょ


 今回は勝たせてもらうわよソフィア!!』


もはや勝負はついたとばかりにドヤ顔を見せるリナに対しソフィアの心の中の何かが弾けた


「料理でしたら私も少々自信があります、どうでしょう二人の料理でどちらがおいしいか


 比べてみるのも一興かと、旅の道中の余興程度には楽しめるのではないでしょうか?」


笑顔のままそんな提案をするソフィア、リナへの対抗心だけで暴走気味の見切り発車する


そんなソフィアの言葉に目を丸くして唖然とするリナとグッドリッジ


「ソフィア・・・あんた・・・」


「おいソフィア、お前の料理は・・・そんなモノを出したら


 モデリンド公国に対する一種のテロ行為に・・・痛って!!」


ソフィアに忠告しようとしたグッドリッジが突然足を押さえて叫んだ


ソフィアが笑顔のままグッドリッジの足の甲をかかとで思い切り踏みつけたのである


何が何だかわからないベルゲンディードは戸惑いながらもそれを受け入れた。


「あなた方の様な美人の手料理までいただけるとは、私達は本当に果報者です


 では明日の昼食を楽しみにしております、では私はこれで」


丁寧に礼をしながら帰っていくベルゲンディード、その背中を優しく見守る二人だったが


ソフィアの頭の中は明日の弁当をどうしようかと今更ながら頭を悩ませていた


グッドリッジへの挨拶もおざなりに済ませさっさと部屋を出る二人


自室へ帰る廊下でリナが思わず問い掛けた。


「ねえソフィア、あんた明日の料理どうするのよ?目玉焼きもまともに作れない


 アンタがどうやって私と対抗する料理なんて作るの?」


「う、うるさいわね・・・何とかするわよ・・・」


明らかに強がりながらもどうしたらいいのか悩んでいる様子のソフィアを


楽しそうにニヤニヤ見つめるリナ。


「言っておくけど市販で売っている弁当とか持って行っても無駄よ


 そういうのっての人は意外とわかるものなのよ


 それに市販の弁当なんかで私の料理に勝てるとは思ってないわよね!?」


思わずギクリとするソフィア、最終手段として市販の弁当を持っていこうと


思っていただけに図星を突かれ思わず大量の汗を流す。


『市販の弁当がダメならウチの食堂のコックに頼んで・・・いやダメだ


 食堂のコックではリナに歯が立たない、ならばいっそ私が作って・・・


 もっとダメだ、それで相手がお腹壊したら最悪じゃない!!』


「アンタがどんな料理を用意するのか楽しみよヒッヒッヒ~」


リナの興味は勝ち負けよりもソフィアがどうやって料理を用意するかの方になっていた


必死で頭をひねりながらも答えの出ないソフィアはついに最終手段に出ることにした。


『できればこの手だけは使いたくなかったけど・・・』


ソフィアは自分のポケットから何かを取り出すとそれを両手で掲げる様にリナに差し出す


そして片膝をつき頭を下げて、何かを献上するかのようなポーズをとった。


「な、何の真似よ!?」


いきなり意味不明な行動をとったソフィアに困惑するリナ


「これをお納めください」


ソフィアが両手で差し出した物をよく見てみるとそれはお金だった


「2000エン?これはどういう意味よ!?」


ソフィアは頭を下げ片膝を床に付けたままボソリと話し始める。


「どうかこれで私の分の弁当も作ってはくれませんでしょうか?


 どうか何卒恩願い奉ります‼︎」


リナはそんなソフィアの行動に呆れ果て言葉も出ない


まさかリナの料理に対抗する為の料理をリナに作らせようというのだ。


「ソフィア・・・アンタって人は、大体モデリンド公国一行の料理の材料費と


 手間賃を考えたら2000エンって安すぎない!?」


ソフィアが何を言っているのか最初は理解できず困惑していたが


リナにしてみればツッコミどころが多すぎてどこをツッコムかと


考えた末に出た言葉がこれだった。


「これが今の私の全財産なのよ・・・だからお願いリナ」


少し甘えるような声で懇願するソフィアにすかさずツッコんだ。


「えっ!?だって先週お給料出たばかりじゃない、どうして2000エンしかないのよ!?」


問われたソフィアはバツが悪そうに顔を背け理由を言いたがらない


それを見てピンときたのか、大きくため息をついた。


「ソフィア・・・アンタまた怪しげな魔道グッズを買ったでしょ?」


その追及に思わずビクッと反応するソフィア、もはやその反応でバレバレであり


もう誤魔化すのは無理と判断したソフィアはリナの方に急に振り向くと両こぶしを


ブンブン上下に振りながら涙ながらに訴えた。


「だってだって、ものすごい掘り出し物があったのよ、名工サダルキアンが作った


 一品物の魔道具が何と定価の四割引きだったよ、そんなの買うしかないじゃない!!」


訳の分からない主張を必死で訴えるソフィアに〈だめだこりゃ〉


とばかりに両手を上げるリナ。


「あのねえ・・・そんな凄い人の一品物がアンタのお給料で買える訳ないじゃない


 それにそもそも何で一品物の魔道具に定価があるのよ?」


指摘され”あっ”っと声を上げるソフィア、その反応を見て再び大きくため息をついた。


「アンタって頭いい癖にどうしてそういうところは抜けてるのよ・・・」


急にショボンとしてしまったソフィアを見てヤレヤレとばかりに目を閉じた


「わかったわよ、アンタの分も作ってあげるから・・・本当にしょうがない子ね」


その言葉の表情がパッと明るくなり満面の笑みを浮かべた。


「ありがとうリナ、さすが私の相棒、愛してるわ!!」


思い切り抱きついて来たソフィアを無理やり引きはがそうとした。


「わかったわかったから、くっつくな暑苦しい、でもいいのソフィア?


 私がワザとアンタの分だけ不味く作るとかするかもしれないよ!?」


その忠告ともいえる言葉を受け、ソフィアはニヤニヤ笑いながら相棒を見つめた。


「そんな事リナにはできないことぐらい知ってるわよ


 勝負は正々堂々が龍眼上陰流の理なんでしょ!?」


「嫌な事持ち出すなぁ・・・その勝負に敵の手を借りようって人間のいうセリフそれ?


 まあちゃんと作るわよ、その代わり今回のあのイケメンは私に譲りなさいよ」


「それはそれ、これはこれ、勝負と友情はキッチリと分けないとね


 料理で互角なら私が負ける要素なんか無いもん」


そのセリフに思わずカチンと来たのかすぐさま反論した。


「はあ?アンタのどこに勝つ要素があるの?まあ負けた時にはちゃんと慰めてあげるから」


今度はソフィアがムッとした表情を見せる。


「何言ってるのよ、私が勝つにきまってるじゃない、結婚式の披露宴にはちゃんと


 呼んであげるから安心して、何ならあなたに友人代表をやらせてあげるから」


最初はけん制程度の言い合いが徐々にヒートアップしていく二人


「まあ大体アンタは友達、私しかいないもんね、友人代表とかいっても


 私一択なんだから、やらせてあげるとか偉そうに、やってくださいでしょ」


「アンタだって友達は私しかいないじゃない、何よ偉そうに!!」


「へへ~ん、いますぅ~私には友達いますぅ~アンタとは違いますぅ~」


「そんなの道場にいたときの話でしょ、破門になって今は疎遠になっているんでしょ!?」


「うっ、いいじゃない・・・それでも友達は友達よ」


「違いますぅ~そういうのは友達っていいませんですぅ~残念でした


 貴方にできるのは精々大きなお友達くらいですぅ~


 貴方も私と同類でした~以上!!」


相手を傷つけながら自分も同じだけ傷ついていくという


世界一虚しい戦いがここにはあった。


二人は額がくっつく程近づき睨みあいながらバチバチ火花を飛ばす


「何よこの脳筋剣術ゴリラ!!」


「何ですって、この陰険妄想魔法オタク!!」


二人は散々罵り合った後、スッキリした表情で自室に帰ってきた


このアグムの施設は元々軍のモノであった為、寮のように生活できるようになっている


部屋は二人一組の相部屋となっており、簡易的なシャワー室に二段ベッド


小さいがキッチンも完備されている、決して広いとは言い難い部屋ではあるが


等級が低く金銭的に余裕のない白地等級や銅地等級の者達にとっては


非常にありがたい施設となっていた


リナとソフィアは自室に帰ってくるとそれぞれ動き始める。


「私は明日の分の料理を始めるわ、明日までに二種類の料理を人数分作らなきゃ


 いけないと思うとウンザリするけど・・・」


けだるそうに肩を落とすリナに優しく微笑みかけるソフィア。


「いつもありがとうねリナ、おいしいの頼むわよ、じゃあ私は先に


 シャワー使わせてもらうわね」


そそくさとシャワールームに消えていくソフィアを恨めしそうな目で見つめていた。


狭い部屋に二人で暮らしで自炊しながら生活している二人


決して優雅とは言えないこの環境だが二人はことのほかこの生活が気に入っていた


二人は【龍眼上陰流】の娘と【ミラの内弟子】という立場から


”それに恥ずかしくない立ち振る舞い”という事を常に心掛けてきた


早い話が今までは猫をかぶっていたのである、しかしアグムに来て


そのしがらみから解放され自由に振舞えるこの環境と何でも言い合える友達に出会った


両者共に同い年で同じくらいの力量を持ち気の合う友人など今までいなかった為


毎日が楽しくて仕方がなかった、しかも同じような境遇であり目標が


〈地位の高い等級獲得と花婿探し〉という奇妙な縁がより二人に親近感を覚えさせた


奥からシャワーの音が聞こえ始めるとリナは大量の食材をテーブルに並べ


料理の下準備に入ろうとしていた、その時である、シャワーの音が止み少しすると


奥からドタドタとキッチンに近づいてくる足音が聞こえてきた。


「ちょっとリナ、あんたまた私のシャンプー勝手に使ったでしょ!!」


ソフィアが頭と体にタオルを巻き、シャンプーを片手に凄い剣幕でリナに詰め寄る。


「ああ~ごめんごめん、この前シャンプー切らせてアンタの使わせてもらったんだわ」


「だからいつも言ってるでしょ、勝手に使わないでって


 アンタの使っている物と違ってこれ高いのよ!!」


怒り心頭のソフィアに呆れ気味の表情を浮かべるリナ。


「勝手に使ったのは悪かったけど、たかがシャンプーでそんなに怒ることないじゃない」


「使っただけならともかく、アンタ使い切っても知らんぷりじゃない


 今日私どうやって髪洗うのよ!!」


「あれ、私使い切ってたっけ?ごめんごめん、何なら石鹸貸してあげるからさ」


そう言ってキッチンにあった石鹸を差し出した。


「いらないわよそんなの!!どうしてアンタはいつもそんなにガサツで大雑把なのよ!?」


興奮気味にまくしたてる相棒に対しあまり悪びれることのないリナ


その時、二人の部屋をノックする音が聞こえた、思わず会話を中断しドアの方に視線を向ける二人。


「私だ、グッドリッジだ、さっき言い忘れたことがあってな・・・」


声の主はグッドリッジであった、所長自ら部屋を訪問して来る事は珍しい事である。


「は~い、どうぞ空いてますよ~」


グッドリッジの声にすぐさま反応し返事するリナ。


「ば、馬鹿リナ、今は!!・・・」


「あっ、そうか、しまった・・・」


ソフィアが慌ててどこかに隠れようかキョロキョロ辺りを見回す、なにせソフィアは


シャワーを浴びている途中で出てきており、体にはタオルを巻いただけの姿なのだ


狭い部屋なので隠れるところも無く、シャワー室はドアの近くにあるので


グッドリッジは入ってくるまでにそこに戻る事は不可能だ、そうこうしている内に


部屋のドアが開きグッドリッジが入って来た。


「いや~すまない、さっき言い忘れていたことがあってな


 またワザワザ来てもらうのも悪いと思い私が来たんだが・・・・」


部屋に入って来たグッドリッジはソフィアの姿を見て硬直する


ソフィアは顔を紅潮させ口をアワアワと動かしているが言葉にはなっていなかった


小刻みに体を震わせながら立ちすくんでしまっっていた


するとソフィアの体に巻いていたタオルがハラリと落下する。


「ダメーーーー!!」


リナが慌ててグッドリッジの両目を塞ぐが時すでに遅かった


落下したタオルを抱きしめ座り込むソフィア、我に返ったグッドリッジは慌てて背中を向けた。


「あ、あ、あのだな、明日の警護・・・警護の事だが・・・


 朝8時にアグム本部前に集合だ要件は、それだけだ・・・じゃあな」


グッドリッジは明らかに動揺しながら手短に要件を言うと


逃げるように帰っていった、しばらくして着替え終わったソフィアは


二段ベッドの隅で膝を抱えながら毛布をかぶりブツブツと呪詛の様な独り言を繰り返していた。


「あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない・・・


 信じらんない、信じらんない、信じらんない、信じらんない、信じらんない・・・


 もうお嫁にいけない、もうお嫁にいけない、もうお嫁にいけない・・・」


激しく落ち込むソフィアを何とかなだめようと謝り続けた。


「だから悪かったって、機嫌直してよ~今度アンタの好きな料理作ってあげるからさ」


必死の謝罪にも全く無反応のソフィア、その時リナが何かを思いついた


「そうだ、今みたいな展開ってあんたの好きな小説でもよく出てくるじゃん


 主人公が偶然ヒロインのエッチなシーンに出くわすラッキーなんちゃらとかいうやつ」


その瞬間、急に顔を上げ涙で潤んだ目でキッとリナを睨みつけた。


「何言ってるのよ!!〈ラッキースケベ〉ってのはカッコよくて、優しくて


 強い主人公にのみ訪れるイベントなのよ、何で私が奥さんも子供もいる


 血圧高めな中年オヤジの所長にそんな幸せをお届けしなくちゃならないのよ!!」


フォローするつもりが余計に相手を怒らせた、苦笑いを浮かべながら必死で取り繕う


「でもほら、考え方によっては今回のことで私達が今後何かやらかしても


 大目に見てくれるかもしれないじゃない、昇級審査も甘くしてくれるかもよ!?」


その言葉がソフィアを余計に怒らせた。


「だったらアンタがやりなさいよ!!その無駄にでっかいおっぱいを使って!!」


ソフィアは声を荒げながらリナの豊満なバストを指さす。


「そんなのワザとやったらラッキースケベにならないじゃない


 いくら私でもワザと胸を見せつけるような恥ずかしい真似できないわよ


 自分の胸が小さいからっておかしな八つ当たりしないでよ」


逆ギレともとれるその発言にソフィアはリナに顔を近づけ目を血走らせる。


「私のバストは小さくないわよ、普通よ普通、出てるところはちゃんと出てるわ‼︎


 牛みたいにでっかいアンタのバストとくらべないでよ


 そもそも誰かに見せる予定もないのに自己主張ばっか激しい


 そんなおっぱいなんか単に宝の持ち腐れじゃない!!」


「そういう意味では良かったじゃない、アンタのバストは誰かに見せる事が出来てさ」


意地悪っぽく言い放ったリナの発言にさっきの事を思い出したのか


再び膝を抱え毛布をかぶってうずくまってしまった。


「どうせ私は痴女ですよ、もうこのまま嫁のもらい手もなく


 行かず後家になるんだわ・・・」


再び落ち込みシクシク泣き出すソフィア、すると突然ピタリと泣き止み


顔を上げるとジロリとリナを睨んだ。


「な、なによ?」


突然泣き止み自分を睨みつける相棒を見て思わずゴクリと息を飲んだ。


「私が将来独身で一生結婚できなかったらアンタのせいだからね


 自分だけ幸せになれると思わないでよ、アンタの幸せは


 絶対に妨害してやるんだから・・・


 たとえ私が先に死んでもアンデッドになってアンタの幸せを


 ぶち壊してやるんだから・・・」


もはや理屈も根拠もなくヤケクソ気味に敵意を向けるソフィアに対し


”こりゃあダメだ”とばかりに両手を上げゆっくり首を振った。


『ヒステリーもここに極まれりって感じね・・・しょうがない』


何かを思い立ったようにリナは再び膝を抱えて泣いている相棒にそっと話しかけた。


「ねえソフィア、貴方には必ず素晴らしい相手が見つかるわよ・・・


 だってあなたはすっごい美人じゃない、同性の私から見ても


 惚れ惚れするぐらいに、私ずっとあなたをうらやましいと思っていたわ・・・」


すると顔を伏せて泣いていたソフィアがゆっくりと顔を上げた。


「ホント?ホントにそう思ってる?」


その瞬間リナの口元が思わず緩む。


『よし、かかった!!』


「もちろんよ、私なんて背は低いし手足もソフィアほど長くないし


 胸が大きいだけの女だもん、やっぱりソフィアの様に


 トータルバランスっていうのかな、理想のラインっていうのか


女性なら誰でもソフィアみたいになりたいって思うはずよ」


リナによる怒涛の褒め言葉攻勢に今度はソフィアの口元が緩んでいく。


「そ、そんな言い過ぎよ・・・私なんてそんな、だってリナだって美人じゃない」


その言葉を否定するかの様に激しく首を振る。


「いやいやいや、私なんてソフィア様の美貌に比べれば


 女神とミジンコみたいなものですよ


 そうあなたは現代に蘇った女神、美の化身、この地上に


 貴方程美しい女性は存在しません、さあ立ち上がって


 その美しいお姿をお見せください!!」


先程までの落ち込みぶりが嘘の様にすっかり気分の良くなったソフィアは


言われるがまま立ち上がり、リナに乗せられポーズを取り始めた


「いいよいいよ、美しい、美人、素晴らしい、あっ目線ください!!」


「そう、そんなに美人?言い過ぎじゃない?でもいいのよ、もっと褒めても」


ノリノリでモデルの様なポーズをとるソフィアに次々とリナの合いの手が入る


「切れてる切れてる!!まるでアグムの女神、一人美人コンテスト


 歩く現代アート、仕上がってる、仕上がってるよ!!」


他人から見たらコメディにしか見えない茶番が狭い部屋の空間で


延々と繰り広げられていく、そして夜は静かに更けていった。





さて、外伝を経て本編に戻ってきましたが、中々戦闘に入らず二人の会話が中心となっています、まだ二人の関係性を書きたかったので展開は遅々として進みませんがもう少し気長にお付き合いいただけるとありがたいです、では。

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