外伝 旅立ち
登場人物
ソフィア・ベルクマン…両親を魔族に殺され孤児となったところをミラに見いだされ最後の内弟子として魔法を習う事になる、魔法に関しては天才的な才能を持ち、その才能を開花させる。
ミラ・スコット…世界を救った〈三英雄〉の一人、【深淵の魔女】の異名を取る大魔法使い、〈ミラ魔法学校〉の設立者にて総帥、何恁麼の弟子を育て優秀な魔法士を何人も輩出している。
イザベラ…ミラの内弟子の一人【ミラの七星】と呼ばれる高弟の中の長女、色白で金髪ロングの美人だが性格はきつく超の付く負けず嫌い、冷却魔法を得意としていて【氷雪の魔女】の異名を持つ。
エリザベート…ミラの内弟子の一人【ミラの七星】と呼ばれる高弟の中の次女、赤毛のくせ毛でつり目が特徴のエセ関西弁を使うチャキチャキ娘、電撃系の魔法を得意としており【雷撃姫】異名を持つ。
アニー…ミラの内弟子の一人【ミラの七星】と呼ばれる高弟の中の三女、南方の国出身で色黒の肌が特徴的な体躯会計系美少女、エセ博多弁を使うイケイケ娘、風系魔法を得意としており【南の風乙女】の異名を持つ。
ローズ…ミラの内弟子の一人【ミラの七星】と呼ばれる高弟の中の四女、黒髪ロングの和風美人、切れ長の目で冷たく微笑む笑顔が特徴でエセ京都弁を使ういけず女、暗黒魔法を得意としており【暗黒女神】の異名を持つ。
ヴィクトリア…ミラの内弟子の一人【ミラの七星】と呼ばれる高弟の中の五女、オレンジ色の短髪が特徴の元気娘、語尾に〈にゃ〉と付けるのが特徴的で火炎魔法を得意としており【爆炎天使】の異名を持つ。
アリス…ミラの内弟子の一人【ミラの七星】と呼ばれる高弟の中の六女、青みがっかった髪に青い目が特徴の美女、見た目は先祖にエルフがおりその影響だと言われている、ソフィアと同じ施設出身であり、ソフィアに唯一優しくしてくれる人物、神聖魔法を得意としており【慈愛聖母】の異名を持つ。
カトリーヌ…ミラの内弟子の一人【ミラの七星】と呼ばれる高弟の中の七女、金髪縦ロールで大きな目が特徴のロり娘、背はソフィアより10cm程低くいつもロり系ファッションを身に付けてる、水系魔法が得意で【水神天女】の異名を持つ。
闘技場での騒動があった翌日、アリスも含めた七星メンバーと
ソフィアの8人がある一室に集まり会議が行われることになった
ミラから言われていた今後の方針を決める為である、まずはイザベラが席を立つ
「先生の言われた通り、みんなで今後の方針を決めたいと思うが
その前に……」
イザベラは無言のままジッとソフィアを見つめ深々と頭を下げた。
「今回のことは私達のおかしな思い込みでソフィアには随分と
嫌な思いをさせた、【七星】の長女として謝る、本当にすまなかった……」
イザベラの行動にエリザベート、アニー、ローズ、ヴィクトリアも続き皆
頭を下げ謝罪の言葉を口にする、唯一カトリーヌだけは顔を背け腕組みしたまま
動かなかった、あれほど敵意と殺意を向けられていた者達と同一人物とは思えない
ような素直な謝罪にむしろ恐縮して戸惑うソフィア。
「いえ私の方こそ姉さん達には大変失礼なことを言いました
頭に血が上ってとんでもない行動もしてしまいましたし
私の方からも謝罪させてくださいスミマセンでした」
ソフィアは急いで立ち上がり直角に近い角度で頭を下げた
その言葉に思わず微笑むイザベラ。
「何だ、お前も頭に血が上っていたのか!?そうは見えなかったが……
やっぱりお前もミラ先生の弟子だな、頼りない姉だがこれからよろしく頼む」
そう言って右手を差し出すイザベラ、ソフィアはがっちりと握手すると
他の姉達とも握手しながら和解した、その光景を微笑みながら見守るアリス
これで今回の騒動は一件落着となった、そして再びイザベラが立ち上がり
口を開く。
「話は反れたが今後の方針を決めよう、今は暫定として私が議長を務めているが
正直、今回の件で私は長の器ではないことに気が付いた……そこで
私から提案がある、これからの魔法学校の運営において一人学長を選出し
その者に全権を委ねてはどうかと思う、これは皆の多数決で行いたいと
思っているが、私にはもう適任者は一人しかいないと思っている……」
イザベラの発言にざわつくメンバー達、先ほどの発言からも
推薦する人物は自分では無い事は明白で一体誰の事だろうと
皆お互いの顔を見合わせる、もしや圧倒的な頭脳と力を見せつけた
ソフィアを推すつもりなのでは!?と皆が思った
しかしイザベラが指名した人物は全く別の人物であった
イザベラはアリスの方を向き優しく微笑みかけた。
「アリス、私はお前を推薦する、というか適任者はお前しかいない
やってくれないか?」
全員の視線がアリスに集まる、当のアリスは突然の指名に戸惑い頭が混乱していた
「えっ、私ですか!?どうして私なんかが!?」
アリス本人は動揺を隠せずアタフタしていたが他のメンバー達は
皆納得の表情を浮かべていた。
「アリスか……確かに妥当やな、今回も唯一冷静に立ち回っとったしな」
「言われてみればアリス以上に適任者は居ないかもしれまへんな
うん、いいんでないどすか!?」
「確かにアリスならいいと思うにゃ、確かにこれは盲点だったにゃ~
私も賛成だにゃ‼」
「アリス姉さんなら大歓迎よ、やってやって‼」
ソフィアもアリスなら安心できる為、何度も大きくうなづいた。
もはや決を採る必要はなかった、戸惑っているのは本人だけであり
すでに決定したようなモノだった、最初は動揺を隠せず戸惑っていた
アリスだったが、腹を決めたのかスッと立ち上がり所信表明を始めた。
「この度は皆さんの後押しもあり私が学長という大役を務めさせていただく事となりました
至らないことも多々あるでしょうが姉さん達、そしてカトリーヌ私を支えてくださいね
よろしくお願いします」
深々と頭を下げ挨拶を終えるアリス、それを皆が拍手で称えた
しかしアリスが初めて学長として下した決断は皆の想像を
はるかに超えるモノであった。
「では就任初の仕事として皆さんにお知らせしたいことがあります
それは……ソフィアの処分です、今回の件を考慮し
ソフィア・ベルクマンをこの学校から追放いたします」
その言葉にイザベラを始めみな耳を疑った、当のソフィアは何を言っているのか
しばらく理解できなかった、皆が絶句して言葉も出ない
そんな時”バン”と机をたたいて怒りながら立ち上がった人物がいた
それは意外にもカトリーヌであった。
「何でよ、何でソフィアが追放なの!?今回の件は両者悪いところがあったと
認めて今、和解したばっかじゃない、アリス姉さんの言葉とは思えない
一体何でよ!?」
そこにイザベラも続いた。
「そうだぞアリス、ちゃんとした理由の聞かないと私達はともかく
ソフィアが納得できないだろう、一体なぜなんだ!?」
先ほどまでの歓迎ムードが一変し疑いの視線がアリスに集中する
ソフィアにしてみれば今まで唯一の味方だと持っていたアリスから
このような仕打ちを受けるとは思ってもいなかったからだ
あまりのショックで倒れそうなのを必死で耐えていた
しかしアリスは少しも動揺することなく淡々と語り始める。
「ソフィアを始め皆さんが納得できないのは理解できます
しかしそれには理由があります、ソフィアは今回の一件で
本気で姉さん達を殺そうとしました、これは看過できません」
その言葉に慌ててエリザベートが口をはさむ
「そうは言うても、それは成り行き上しゃあないんちゃうんか?
うちらも似たような攻撃を仕掛けたんやし」
そんなエリザベートの擁護をキッパリと退けるアリス。
「下手な弁護はソフィアの為になりません、同等の攻撃と似たような攻撃では
全然意味が違うのです、イザベラ姉さんを始めみんな口では
【殺してやる】と言いながらもちゃんと相手が死なないようにちゃんと
セーブしています、それが意識的か無意識かは別としても
そこが重要なのです、それが証拠に同士討ちをしたアニー、ローズ
ヴィクトリア、カトリーヌは誰も死んでいない、しかしソフィアは
頭に血が上りみんなを殺そうとした、これは由々しき事態なんです
ですから今回の決定は覆しません絶対にです‼」
アリスの意思が固いことが皆に伝わってきた、しかしあまりのショックで
もはやまともに考えることも出来ないソフィアは夢遊病者の様に
フラリと立ち上がると重い足取りで入り口のドアへと歩みを進める
そして力ない口調でゆっくりと話し始めた。
「みなさん、本当にご迷惑をおかけしました
そして今までありがとうございました……」
ドアノブに手をかけ部屋を出ようとした時、背中からソフィアを呼び止める声がした。
「待ちなさいソフィア、まだ私の話は終わっていませんよ‼」
その声にゆっくりと振り向くソフィア、もう目の焦点もあっておらず
押せば倒れそうなほど弱々しく見えた、昨日は憎らしいほど強く
七星六人を相手にしても一歩も引かなかったあのソフィアとは大違いである
キッと厳しい視線を向けながらゆっくりとソフィアに近づくアリス
メンバー達は〈これほど弱り切っているソフィアにまだ言い足りないのか!?〉
と昨日命がけで戦った相手に対して同情すら覚えた、そんな空気の中で
アリスはソフィアの両肩を力強く掴み顔を近づけて言い聞かせるように語りかけた。
「いいですかソフィア、あなたには力があります、そして頭脳も素晴らしいものを
持っていることは皆が認めるところでしょう、しかし貴方はまだ心が未熟です
貴方はこの学校内にいては成長できません、もっと世間を見て色々と体験して
学んできなさい、仲間を作り、友達を作り、恋人を作りなさい
イザベラ姉さん達は私が学長に適任だと言ってくれました
でも私はあなたこそがこの学校のトップであるべきと考えています
しかし今の貴方には無理です、だから外の世界で色々学んでほしいのです
もっと人の心を理解してください、人を思う心こそ大事なのです
そして恋をしなさい、愛を知りなさい、貴方が生涯の良き伴侶を
見つけてきた時がこの学校を継ぐ時です、それまでは私がこの学園を預かります
いいですね?待っていますよ」
アリスが見せたその微笑みはいつもの優しい笑顔であった
いつも暖かくソフィアを励まし支えてくれる大切な存在
アリスの優しさに今までどれほど救われてきたか
アリスの本意を聞きソフィアの心は一気に晴れ渡った
先ほどまでの絶望感は消えアリスの心遣いに感謝し涙が出てくる
何度も何度も頭を下げ感謝の気持ちを告げた
アリスは優しくうなづき皆に向かって語り始めた。
「以上が私の学長としての初仕事です、皆さん思うところはあるでしょうが
ご納得ください、お願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げた、アリスの考えがわかりホッとするメンバー達。
「まあこんな事だろうとは思ったけどね」
「私は最初からアリスの事は疑ってなかったにゃ」
「嘘つけよ、お前はアリスを睨んどったやないか!?」
「さすがはアリス姉さんや、やっぱり学長は適任だったようどすな」
この短時間でアリスの評価が上がったり下がったり大変ではあったが
会議は何とか無事に治まる、しかしアリスの表情が再び厳しいモノに変わり
再び重い口調である事を告げた。
「最後にみなさんにどうしても言っておきたいことがあります
それは……ミラ先生に一番愛されているのは私ですから‼」
その時、皆の表情が険しく変わりあれ程和やかだった空気が急にピリついた
それはアリスの評価が再び下がった瞬間であった。
翌日ソフィアは学校を出て行くことにした、数年ではあったがこの学校での生活は
一生忘れる事の出来ない思い出になるだろうと感傷に浸るソフィア
ミラとアリスに挨拶を済ませ裏口から出て行こうとした時、1人の人物が目に入る
それは七女カトリーヌだった、カトリーヌもソフィアに気が付きバツが悪そうに
顔を背けながら近寄って来る、そして目線を合わせないように話しかけてきた
「今から出て行くの?」
「はい」
「そう、先生やアリス姉さんに挨拶は済んだ?」
「ええ先ほど……もしかして見送りに来てくれたのですか?」
「ええ…まあ…その、アンタとは色々あったけどさ、言いたいことがあって
アンタに色々雑用押し付けてきて何だけど、掃除は全然綺麗にならない
片付けは余計に散らかる、料理なんか絶望的だったわ
どうしたらあんなに不味くサンドイッチを作れるの!?ってレベルだった
アンタは本当に魔法以外は全然駄目ね」
カトリーヌの指摘に消沈するソフィア。
「私は掃除、洗濯、食事の用意といった家庭的なことは本当にダメなんです
スミマセン」
そんなソフィアをチラリと横眼で見て腕組みしながら大きな声で話し始めた。
「だったら早くいい男を見つけてさっさと帰ってきなさい
私が全部教えてあげるから」
カトリーヌの意外な言葉に思わず顔を上げ見つめるソフィア
しかしカトリーヌはまだ横を向いており、まともに視線を合わせようとはしなかった。
「だから…れで…してよ…るから…」
カトリーヌは更に顔を背けボソボソと小声で話し始めたが
聴覚強化をおこなっているソフィアにもそれは聞き取れなかった。
「えっ!?今なんて!?」
思わず聞き返すソフィアに対しようやくこちらを向いて話し始めたカトリーヌ
「だから、今度色々教えてあげるからそれで許して頂戴って言ったのよ‼
今回のことは私が悪かったわ、昨日私だけちゃんと謝れなかったから
今謝ったの、こんな恥ずかしい事二度と言わせないでよ‼
これでちゃんと聞こえたでしょ!?」
カトリーヌは顔を真っ赤にしてそう言い放った、本当はソフィアに謝りたかったが
恥ずかしくて中々それができなかっただけだとわかった、すると目の前のカトリーヌが
急に可愛く思えてきた、年が一つ上の姉弟子にあたるのだがソフィアより
背は10㎝以上低く髪は金髪のカールがかかっている、服装はいつも
フリフリのロリファッションを身に纏いまるで人形の様に可愛い美少女なのだ
そんなカトリーヌを見て思わず二マリと笑った。
「もうこんな恥ずかしい事二度と言わないんだからね……
で、どうなの?……私の事許してくれる?」
恥ずかしそうに上目遣いで問いかけるカトリーヌ
それに対し満面の笑みを浮かべて答えた。
「聞こえなかったのでもう一度最初から言ってください」
「なっ!?アンタね……本っっっ当に性格悪いわね‼」
顔を真っ赤にしてブルブル震えるカトリーヌ、そしてソフィアはゆっくりと首を振った。
「冗談ですよ、もちろん許します、私こそゴメンなさいカトリーヌ姉さん」
ソフィアが素直に頭を下げると嬉しそうに笑うカトリーヌ。
「私さ、七星では末妹だったから本当は妹が欲しかったのよ
姉さんって呼ばれるのは正直悪い気はしないわ、これからも姉さんって
呼んで頂戴ね、それと……これは頼みと言うか、お願いとなんだけれども
帰ってきたら私に魔法を教えてくれない?私も先生の弟子として
A級国家指定魔法を発見してみたいのよ、難しい事はわかっているけど
……お願いよソフィア」
先ほどとは違いウキウキと興奮気味に喋りまくるカトリーヌ
そんな無邪気に微笑む彼女に向かってソフィアは満面の笑みで再び答えた。
「嫌ですよカトリーヌさん」
一気にカトリーヌの顔が絶望に変わる、まるで〈ガーン〉という効果音が
聞こえてきそうなわかりやすいリアクションが
楽しくて楽しくて仕方がないソフィア。
『本当にかわいいな~この人は、悪い人じゃないのよね……』
「嘘ですよカトリーヌ姉さん、私でよければ手伝いますよ」
再び満面の笑みで答えるソフィア、振り回されっぱなしのカトリーヌは涙目になっていた
「アンタね……アンタって奴は本当に、どんだけ性格悪いのよ、もっと
虐めてやれば良かったかしら‼」
腕組しながら怒りの態度を見せるカトリーヌを見てニヤ付きが止まらない
ソフィア、その時カトリーヌが急に何かを思い出したかの様に
ニヤリと笑い始めた。
「そういえば今思い出したけど、アンタの二つ名が決まったわよ」
二つ名とはイザベラの【氷雪の魔女】やエリザベートの【雷撃姫】といった
異名であり、カトリーヌにも【水神天女】という二つ名がある
それはその人物の得意魔法やイメージを踏まえ学園内の意見で他人が名付けられる
今の学園においては【ミラの七星】による話し合いで決まるのが定例となっていた
「私の二つ名ですか?一体どんなモノが付けられたのでしょうか?」
するとカトリーヌは先程と違い満面の笑みを浮かべて話始めたのである
「貴方の二つ名はね【破滅の悪魔】に決まったわ」
そのあまりのネーミングに思わず固まってしまうソフィア。
「なんですかそれは!?悪魔って……せめて魔女にしてください‼」
「もう決定したから変更はできないわ、ちなみに先生も納得しているし
ちゃんとアリス姉さんの承諾もあるわ、私達と戦った時のアンタは
正に悪魔みたいだったからね、いい意味でとらえなさいよ」
「いい意味って……【破滅の悪魔】とかいう二つ名をどう解釈すれば
いい意味にとらえられるのか教えてくださいよ!?」
「ちなみにこの名前の発案者は私よ、皆笑いながら賛成してくれたわ」
得意気にそう言い放ったカトリーヌ、ミラやアリスすら承認しているのであれば
もはやどうする事も出来ない、それを聞いて絶望で倒れそうになるソフィアだった。
カトリーヌとそんなやり取りをした後、いよいよ旅立つことにした
全ての準備が整い出発すると、最後に師であるミラから言われたことを思い出していた。
「アンタの事は友であるグッドリッジに頼んでおいた
あの子ならアンタを預けても大丈夫さね、アリスから聞いたよ
ここに戻って来る条件は将来の伴侶を見つける事だってね
アンタは美人だが世間知らずだからね、おかしな男に
引っかかるんじゃないよ、運命の出会いってモノが
アンタに訪れるようベッドの上から祈っててやるよ
さあ行っといで私の娘よ‼」
そんな師の言葉を思い出しながら旅立つソフィア、しかし彼女の想像していたのとは少し違う
【運命に出会い】が待ち受けている事をソフィアはこの時点では知る由もなかった。